表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【百合】可愛い友だちに告白されたから、お試しで付き合ってみることにした。  作者: 夏野恵


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
4/37

第4話 手を繋ぐところから始めてみよっか

「おっ望月たちじゃん」


 飲食店から出ると、大学の友だちである水瀬に声をかけられた。


 身長が高くてインナーカラーを入れているウルフカットがとても似合っている女の子だ。ピアスを何か所も開けていて最初は少し怖かったけど話してみると普通の女の子で、今では葉山も含めて3人で出掛けることもある。


「やっほ、今日はふたり?」


 手を上げて彼女はこちらに近づいてくる。

 彼女らしい爽やかな香水の匂いが鼻をかすめた。


「そうだよ。映画見に行ってたんだー」

「へぇ、何の映画?」

「最近話題になってる……」


 ふたりの会話を聞きつつ、葉山に視線を向ける。


 ぱっと見はいつも通りだけど、片方の手で逆の肘をぎゅっと掴んでいた。

 声のトーンもさっきまでと比べて少し固い感じがする。


「水瀬は何の用で来た感じ?」


 半ば強引に2人の会話に入ることにした。


「私は親に頼まれた買い出し」

「そういえば水瀬って実家暮らしだっけ」

「だよー」


 お世話になってるからね、と言って水瀬ははにかんだ。


 ちらと葉山を見ると、いつのまにか腕をほどいていた。

 雰囲気もどこか柔らかくなった気がする。


 その後は軽く雑談をすると、水瀬は私たちから離れて行った。


「もしかして葉山って水瀬が苦手だったりする?」

「ちょっとだけ」


「良い人なのは知ってるんだけど……」と言って、小さく溜め息を吐く。


 私にとって、彼女のその姿はとても新鮮だった。


 葉山は誰にでも愛想よく対応して、苦手な相手とかいないと思っていた。実際に高校生のとき、葉山に言い寄る男子にだって丁寧に対応していた。八方美人だって陰口を言う女の子もいたけど、それは葉山が男子から人気だったことに対する嫉妬の裏返しでしかない。口に出したことはないが、私は葉山のことを尊敬していた。


 そんな彼女が弱音を吐くのは初めて見たし、その姿を見られたのが嬉しかった。


「今からどこ行く?」

「ちょっとアクセ見たいかも」

「じゃあそっちに行こうか」


 水瀬が歩いていた逆の方向から、アクセサリーショップに向かう。


 何度か行ったことのあるそのお店は、相変わらず煌びやかだった。

 差し込む照明を受け、宝石の色彩が静かに輝いている。


「そういえばピアスとか付けないの?」


 葉山に聞かれたとき、さっきの水瀬の耳を思い出した。


 水瀬は普通のピアスだけじゃなくて、軟骨ピアスまで開けている。

 耳の上部を斜めに貫くバーは、圧倒的な存在感がある。


「自分に似合いそうなイメージが湧かないんだよね」

「そんなことないと思うけどなぁ」


 そう言って葉山は私にピアスをあてがう。


 彼女の手が私の耳たぶに少しだけ当たった。

 普段なら気にしないのに、その手の感覚がやけに残る。


「うん、やっぱ望月ってピアス似合うよ」


 穏やかな口調で褒めてから、葉山は私から離れた。


 ピアスは数千円程度のもので、手の出しやすい価格ではある。

 でもそのピアスを買ったら、葉山の言う通りにした感じになってしまう。


 私にとって、それが少しだけ不満だった。


「もうちょっとネットで調べてみたいかも」

「おっけー」


 しばらくは一緒にアクセサリーを眺めてから、私たちは店から出た。


「葉山は何も買わなくてよかったの?」

「いいよ。今日は見るだけって感じだったし」


 エントランスを抜けるとバスが止まっていたので、一番後ろの席に腰を下ろす。


「今日、望月は楽しかった?」

「うん」

「それは恋人として?」


 ぱっと葉山に顔を向けると、彼女は外の風景を見ていた。

 西日が差し込み、葉山の髪が淡く透けている。


 今日のお出かけは、デートという名前がつくのかもしれない。


 でも私はそういうつもりじゃなくて、友だちとのお出かけという感覚の方が強かった。それはたぶん葉山が同性だからであって、私がストレートだから。


「葉山はどうだった?」


 ごめん、と心の中で謝りつつ葉山に話を振る。


「私は楽しかったよ。望月と2人で出掛けたの初めてだったし」

「そういえばそうかもね」


 家に来ることはあっても、外出することはこれまでなかったかもしれない。


「でも恋人としては、まだ物足りないかな」


 そう言って私に少し近づく。


 寄りかかられると思って身構えたけど、葉山は近づいただけだった。

 だからいつまでたっても葉山の重みは感じられなかった。


「でもさ、友だちだったら手を繋ぐくらい普通じゃない?」

「それくらいなら普通かも」


 私が頷くと、葉山は嬉しそうに笑みを見せる。


「じゃあ、手を繋ぐところから始めてみよっか」


 すぐ彼女は、私の目の前に小さな手を差し出してきた。

 

 私はその手を取って、ぎゅっと握りしめる。

 恋人繋ぎじゃなくて、友だちとするようなつなぎ方。


「やればできるじゃん」


 葉山は満足そうに、逆の手で私の頭を撫でる。


 子ども扱いしないで、という言葉は飲み込んだ。

 きっとこういうのも、恋人としてのふれあいなのだろう。


 だから私は何も言わず、葉山が触れやすいように頭を少しだけ下げた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ