第3話 葉山って私のこと好き?
「このショッピングモールに来たのいつぶり?」
「3月に親と一緒に来たかな」
「私もそんな感じー」
雑談をしながら、ショッピングモールにある映画館に向かう。
今日は日曜日、葉山と外出する日だ。
最近話題の映画を見ようということになったが、私は心配していることがある。
チケットを買って館内に入り、葉山と隣の席に腰を下ろした。
「葉山って大丈夫なの」
「なにがー?」
「だってさ、ほら……」
この映画は男女の恋愛を扱う作品だ。
葉山にとって面白いと思える作品なのかわからないし、最悪、嫌な思いをするかもしれないと思っていた。
「望月は気を使いすぎだよ。これまでに何度も映画見に行ったことあるじゃん」
「そうだけどさ……」
友だちとして行ったときは、みんな自分と同じだと思っていたからよかった。でもそれは私の思い込みにすぎなくって、葉山は違う風に考えていたかもしれない。
そう思うと、少し罪悪感を覚えてしまうのだ。
「私だってこういう作品は普通に見るよ」
だからいつも通り見ようよ、と葉山はふわりと笑う。
そもそもこの映画を見ようと言い出したのは葉山だった。
それなら、私が心配する必要はないのかもしれない。
「映画楽しみだね」
「だねー」
上映開始まで、周りの迷惑にならない程度のボリュームで会話を続けた。
*
「やっぱ話題になるだけあって、ちゃんと面白かったね」
「うん」
私たちは映画館から出て、近くの飲食店で感想を言い合っていた。
上映中に葉山の表情を見てたけど、おかしな点は見当たらなかった。私と同じように笑ったり悲しんだりしていたから、ちゃんと楽しむことができていたと思う。
しばらく雑談をしていたら、葉山が飲み物を飲んでから続けた。
「望月って高校の頃付き合ってたじゃん」
「かなり前の話だけど」
まあ付き合ってたね、と言って、私も飲み物を口にする。
いきなり葉山からその話をされるとは思わなかった。
「言いたくなかったら言わなくていいんだけどさ、なんで別れたの?」
「別に大した理由じゃないよ」
一呼吸おいてから、私は事実だけを伝えた。
「……向こうに好きな人ができたんだって」
私がそう言うと、葉山はなんとも言えない表情になった。
その男子とは、中学の頃によく話をしていた。それで卒業式に告白されて、悪い人じゃないと思ったから付き合うことになったのだ。私が好きだったというより、相手の好意に応えてあげたくて付き合った形だった。
でも彼は半年後には私に愛想を尽かして離れて行ってしまった。
浮気、と言えば向こうのせいにできる。
でも私にも責任があった。
簡単に言えば、彼と最後までセックスできなかったのだ。
付き合って4、5か月経った時にそういう雰囲気になった。でも痛くて入れることができなかった。だから私は、自分たちのペースでしよう、と言って中途半端な状態で行為を終わらせてしまった。
期待に応えられるようになるまで、もう少しだけ待って欲しい。
彼にはそう伝えたけれど、それは私の独りよがりな期待だったみたいだ。
だから彼は私以外の人と——
「……望月、大丈夫?」
はっと顔を上げると、葉山が心配そうな顔で覗き込んでいた。
少し遅れて、周囲の喧騒が耳に入り込んでくる。
「余計なこと聞いちゃったかな」
「いや、大丈夫だよ」
ごめん、と呟いて、大して喉の乾いていない喉に液体を流し込む。
ほとんど味のしないそれは、私の身体を通っていった。
「……葉山って私のこと好き?」
グラスを置いてから、私はぽつりと口にした。
間を埋めるための質問だったのか、純粋な興味で聞いたのかわからない。
半透明な好奇心に誘われて口を滑らせてしまった。
葉山は一瞬だけ目を丸くしたけど、すぐにいつもの表情に戻った。
「もちろん、望月のことは好きだよ」
そういって彼女は柔らかく微笑む。
その言葉を聞いてから、葉山に好きと言われたのが初めてだということに気づいた。告白されたときもフリーなら付き合おうって感じだったし、友だちだったときも言われたことがなかった気がする。
普通の女子なら、コミュニケーションのひとつとして相手に好きと伝えることが多いし、私も日常的にとまでは言わなくてもそれなりの頻度で口にする。
でも葉山が誰かに好きと口にしたことは、記憶している限り一度もなかった。
「……私も、葉山のこと好きだから」
「あはは、歯に浮くようなセリフだねぇ」
無理に言わなく良いよ、と言って彼女は口元を紙ナプキンで拭く。
その様子はとても落ち着いていて、私が葉山のことを恋愛的に好きじゃないということを見透かしているようだった。
少し居心地が悪くなって、グラスを置きなおす。
テーブルの水滴を指でなぞると、あっという間に蒸発してしまった。
恋愛感情はないけど捨てないで——。
そんな我儘な感情を抱えながら、私は食事を続けた。




