第36話 それさ、私なんだよね
バイト先に行くと、すでに高畑さんは椅子に座ってスマホを見ていた。
「あっ、望月さんおつかれー」
おつかれ、と返してロッカーに荷物を入れて、高畑さんの隣に腰を下ろす。
私が座ったことに気づくと顔を上げてくれたので、さっそく話を切り出した。
「高畑さんってさ、バイトのあと時間ある?」
「あるよ。でもなんで?」
「たまには一緒にご飯でも食べようかなって」
そういうと、高畑さんは目を丸くした。
「望月さんってそういうの苦手なタイプだとおもってたんだけど、意外だねー」
「まぁ、うん」
私のことよくわかってるな、と思った。
私は人と外食することが苦手だ。そこまで仲良くない人だと沈黙が気まずくて嫌になる。けれど今回は、高畑さんとご飯を食べることがメインではない。
「それでなんだけど、もうひとり呼びたいなって思ってるんだけど、いいかな」
「へぇ、誰?」
「私の大学の友達なんだけど」
「えっ、もしかしていつも言ってる人?」
高畑さんのテンションが少しだけ上がった。
しかし話をごちゃごちゃさせたくなかったので、少しぼかすことにした。
「同じ大学の女の子が高畑さんに会いたいんだって」
「なんだー、あの人じゃないんだぁ」
いいよいいよ、と笑って、高畑さんは快諾してくれた。
やっぱりこの人は私の相手のことを男性だと思っているみたいだ。
私も全く情報がないとそう思い込んでしまいそうなので、特に何も言わない。
「じゃあ、そろそろいこっか」
「だねー」
やりますかぁ、と軽く伸びをしてから、休憩室を後にした。
その後のバイトはいつも通りだった。
葉山はバイト終わりに来るので、特に身構えることなく終わった。
後片付けと着替えをしてから休憩室に戻る。
「ていうか聞いてなかったんだけどさ、今からくる子ってどんな人なの?」
ロッカーから荷物を取り出していると、高畑さんに尋ねられた。
ちらっと彼女の方に目を向けると、手鏡を使って前髪を整えている。
「見ればわかるって感じだけど、まぁ良い子だよ」
「どういう繋がりで来る感じ?」
雑談の延長線で、高畑さんは核心を突いてきた。
すぐ会うし、ごまかす必要もないだろうと思って、私は正直に言うことにした。
「私の高校の同級生なんだけどさ、高畑さんと仲が良かったらしいよ」
「えっ、マジ?」
誰だろ、と高畑さんは笑みを零す。
彼女の金髪のポニーテールがぴょこんと跳ねた。
やっぱり高畑さんは悪い人じゃないんだろうな、って思った。これまでの会話でも人となりはわかっていたけれど、朗らかさとか人懐っこさみたいなところは、本当に彼女の長所なのだと思う。それに惹かれた葉山の気持ちもわからなくもない。
だから言って葉山が好きになったことを認められるほど、私は器の大きな人間ではないのだけれど……。
葉山から着いた連絡が来たので、高畑さんを急かして裏口を抜けて表に出る。
「ふたりともおつかれー」
すでにあたりは暗くなった歩道で葉山はそわそわしていたが、私たちを見つけてすぐ近づいてきた。私が手を上げると、目を見開いた高畑さんは葉山との距離を一気に詰めた。
「えっ、もしかして葉山さんが言ってた人?」
「そうだよ」
「えーマジか! 久しぶりだね葉山さん!」
テンションの上がった高畑さんは、葉山の手をぎゅっと握った。
握られたほうの葉山は若干笑顔が引きつって、こちらをおずおずと見てくる。
……まぁ、それぐらいで怒るような人間じゃない。
手を握るくらいは女子同士のふれあいだろう。
私は葉山ともっといろんなことしてるし、それくらいは大したものではない。
「じゃあ、近くの寿司屋でもいこっか」
「うん、そうだね」
こくこくと頷いて、葉山は高畑さんからやんわりと離れた。
その後の道中では、葉山と高畑さんがずっと話をしていた。高校とか大学の話とか、着いてからすればいいのにと思ったけれど、余計な口出しはしなった。
――しかし高畑さんの距離が近い。
私に対してもそうだし、葉山に対してもそうだ。
ボディタッチもとっても多いし、今だって葉山の背中を触っている。
葉山はあまりきにしていないような雰囲気を出しているけれど、こちらをちらちら確認してくるところを見るに、私にかなり申し訳なく思っていそうだ。
もちろん余計な口出しはしないけど、非常にやきもきしてしまう。
白い軽自動車がのろのろと私たちの隣を走っていく。
けれど赤信号に変わってしまい、すぐに停止してしまった。
寿司屋に入るとすぐに席に案内されたので、私と葉山で腰を下ろして高畑さんが対面に座るという形になった。タッチパネルで順々に注文を済ませると、私たちの間に一瞬の沈黙が下りた。
「今さらだけどさ、これってなんの集まりなんだっけ?」
「そのーなんというか、って感じなんだけど……」
間延びした声を出しながら、葉山は私をちらちらと見てくる。説明して、という合図なのだろう。話し出したんだから最後までしてほしいけれど、葉山からバトンを受け取ることにした。
「前から高畑さんに言ってたじゃん。私のこと気になってる人、っていうのかな」
「あー、あのあまり教えてくれない人のこと?」
けっこう教えてるつもりだけどな、と思ったけれどとりあえず頷く。
葉山の足元を見ると、足を絡めて太ももを手で擦っていた。
その様子だけでも、落ち着いていていないことがよくわかる。
「その人のこと誤解してるかもって思って、ご飯誘った感じ」
「そうなんだ。へぇーなるほどー……」
高畑さんは腕を組んで大仰に頷いていたけれど、居心地の悪そうにしている葉山に視線を向けた。
「じゃあ葉山さんはなぜここに?」
当然来るだろうという質問がやってきた。
ここは葉山が話す番だよと合図するため、葉山の太ももに軽く触れる。
すると緊張した面持ちの少女は、飲み物を含んでから口を開いた。
「望月のこと気になってる人いるって言ってたじゃん」
「うん」
「で、その人のことを誤解してるかもって話したでしょ?」
「うんうん」
高畑さんはこくこく頷く。
そして一呼吸おいてから、葉山は続けた。
「それさ、私なんだよね」
「………………へ?」




