第30話 キスしたら満たされる?
満足するまでしてから、葉山と一緒にシャワーを浴びた。
甘えたがりの女の子は、リビングに戻っても私にぴったりと密着している。今は彼女の後ろに座り、ドライヤーで髪を乾かしているところだ。あれだけやってまだ甘えられる体力があるなんてすごいな、と思いつつふと口を開いた。
「葉山ってさ、高畑さんとは連絡とったりしてるの」
彼女のライトブラウンの毛先をいじりながら聞いてみる。
「一回もないかな」
「SNSでやり取りとかできそうだけど」
「なに、望月は連絡してほしいの?」
なんてことのないように葉山は尋ねてきた。
ドライヤーを握る手に一瞬だけ力がこもる。
そんなわけがない。高畑さんとはできるだけ距離を置いてほしい。
しかし私がどこまで干渉していいのかわからない。
恋人だからってなんでもかんでも制限できるわけではない。
だからといって葉山が高畑さんに連絡したら、私は間違いなくもやもやする。
髪を撫でる手を止めて深呼吸をひとつする。
葉山はそれに気づき、胸元に頭をこつんと当てて見上げてきた。
「連絡は取ってないけど、もう一回くらい話してみたいとは思ってるかな」
望月が嫌ならもちろんしないけど、と言って私の顔に触れる。
彼女の指先は、私の頬をやさしく撫でた。
それくらいならいいよ、という言葉が喉元まで出かかった。けれど私は自分が考えている以上に嫉妬深い人間らしい。
口から漏れたのは正反対の言葉だった。
「……ごめんだけど、今は来てほしくないかも」
「そっかぁ」
おっけー、と葉山は私の顔から手を離した。
そこで高畑さんの話題は終わり、ドライヤーで葉山の髪を乾かすことに集中した。ちょっとした罪悪感を消すために綺麗なライトブラウンの髪に風を通していると、あっという間に時間が過ぎ去った。
ドライヤーを片付けてから時計を見ると、すでに午後9時を回っている。
「遅くなっちゃったけど、夜ご飯食べよう」
「そうだね」
葉山に飲み物と皿を準備してもらい、温め終わったら冷凍食品を二人で分けた。
その後はゲーム実況の切り抜きを見てベッドに入った。
すぐに電気を消して、布団に身体を滑り込ませる。
「あの、ずっと言おうと思ってたんだけどさ……」
さあ寝るか、となったタイミングで、葉山はおずおずと口を開いた。
「その、望月は大丈夫なの……?」
「大丈夫ってなにが」
「……ほら、いつも私だけしてもらってるじゃん」
少し言葉を濁して、葉山は口をつぐむ。
彼女の雰囲気から、エッチに関係する話なのだろうと感じ取った。
さっきまでとは違い、私をうかがうような雰囲気を出しているからだ。
おそらく彼女がいいたいのは、いつも私が葉山のことを気持ちよくさせてあげているが、私は葉山に何もしてもらわなくて大丈夫なのか、ということだろう。
自分が楽しめているのであればそこまで気を使わなくていいと思うけれど、律儀にも私のことを気にしてくれるらしい。
「私は葉山の喜んでくれる姿が見たら嬉しいから大丈夫だよ」
「嬉しいかもだけどさ、気持ちよくはなってないでしょ」
それがちょっと気になってて、と小さく呟いて、葉山は目を伏せる。
私と葉山の関係がかなり特殊だ。葉山は私のことを恋愛的にも性的にも受け入れている一方で、私は葉山のことが恋愛的に好きだけれど、性的にもオッケーかと言われると少し違う。
単刀直入に言えば、葉山に触られることを期待していないのだ。
でも欲求不満だというわけでもない。今の状況に満足しているし、葉山にこうしてほしいみたいな願望もない。私たちの欲求がねじれているのだろうけれど、だからといって無理に合わせる必要もないと思う。
「気持ちいいかどうかも重要だけど、満たされてる感覚があるから大丈夫だよ」
「満たされる感覚ねぇ……」
わからないなぁ、という雰囲気で葉山はごろんと転がって私に近づいた。
「キスしたら満たされる?」
「うん」
「じゃあ、」
「私はいいけど、葉山は我慢できる?」
「……」
葉山は気まずそうに目を伏せる。
我慢できないみたいだ。エッチすることに言えば初心っぽいのにガツガツしてる感じが本当に可愛い。そういう葉山の姿に私はとっても満たされるんだけど、本人にはよくわからないのだろう。
「今からするのはキツイし、今日はもう寝ようよ」
葉山を抱きしめて頬にキスしてから、私は寝る姿勢になる。頬ぐらいなら大丈夫だったらしく、おやすみと口にしてから葉山も寝るときの距離感に戻した。
隣の少女の体温をほどよく感じられるくらいでちょうどいい。
ほんのりとした温かさが私の半身を柔らかく溶かしていく。
エッチをすることも好きだけど、こういうゆったりした時間も嫌いじゃない。
しばらくすると寝息が聞こえてきたので、安心してベッドに身体を沈めた。




