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【百合】可愛い友だちに告白されたから、お試しで付き合ってみることにした。  作者: 夏野恵


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第28話 葉山ってほんと好きだよね

 年末年始の世の中の動きは目まぐるしくて、私だけ取り残されている気がする。


 年越しのカウントダウンをしたかと思えば袴姿で年始の挨拶をしたり、いかにも和って感じのBGMがコマーシャルで流れたりして、あの期間だけ二倍速で時間が進んでいると感じているのは私だけなのだろうか。


 今は年明け最初の講義が始まる少し前で、葉山と雑談しているところだ。電話でも話したような会話をしていると、後ろから水瀬に声をかけられた。


「やっほー、年越しどうだった?」


 いつもの席に腰を下ろしてから、水瀬が私たちに聞いてきた。


 相変わらず厳ついピアスをしていて、よく見ると一つか二つ増えているような気がする。いや、水瀬のピアスの個数を正確に知っているわけではないのだが、なんとなく増えているような感じがするのだ。


 どちらが答えるか目配せをすると葉山が先に口を開いた。


「私は家族と一緒に過ごしたよ」

「いいじゃん。望月はどう?」

「私も似た感じ」


 私のぼかした表現を気にすることなく、水瀬は「そうなんだ」と普通に頷いた。


 ひとつ難を逃れたな、と胸をなでおろす。


 私は家族という言葉とか表現があまり好きではない。その言葉から想起されるのは、何人かいるグループをひとつにまとめた感じ。でも私には母親しかいないから、グループというよりペアという表現の方があっていると思う。もちろん単なる表現上の問題であることは理解しているけれど、家族という言葉には違和感があった。


 そんなことをひとり考えていると、私の頭上で水瀬と葉山が会話を続けていた。


「水瀬の方はどうだったの?」

「私は高校の同級生とご飯食べに行ったんだよね。それで聞いたんだけどさ……」


 水瀬の話が本題に入ったタイミングで、講義の開始を知らせるチャイムが鳴った。周りで話声が聞こえている間は小声で話していたけれど、講師がマイクを持ったタイミングで口を閉じて話に耳を傾ける。


 しばらくの間は後期試験の話を聞いていたけれど、聞いたことのあるような内容ばっかりで少し退屈になってきた。ちらっと葉山に視線を向けると、スマホのメモ帳にどの部分が重要かという情報を入力していた。どの回のどの内容が重要だったのかだったり、テストに出る内容なんかを丁寧にまとめている。


 やっぱり葉山は真面目なんだと思う。


 高校の頃から、葉山は同じグループの子に頼られるほうだった。テスト直前になったらノートを見せてあげたりして、成績が低迷している子の面倒を見ていた。


 私もどちらかと言えばそっちタイプで、グループ内では真面目な2人組という見方もされていた。しかしあのときの私たちは同じグループにいるそこそこ仲のいい2人って感じで、今よりももっと希薄な関係だった。


 少なくとも、手を繋いだりキスしたりするような関係ではなかった。


 高校時代のことを考えているうちに講義が終わっていた。途中から話を聞いていなかったけれど、もし何かあればメモしてた葉山に聞けばいいか。


 そんな不真面目なことを考えつつパソコンをしまっていると、葉山が何か言いたげな視線をこちらに寄こしてきた。鞄の中に手を突っ込んで探し物をしている体裁だけど、視線が鞄に向いていない。


 どうしたの、と聞こうとする直前、後ろの水瀬が私の肩を叩いて口を開いた。


「ふたりってさ、今から時間あったりする?」


水瀬が口を開いた途端、葉山の肩がぴくんと跳ねた。

鞄に突っ込んでいた葉山の手が止まる。


「私はあるけど」

「……私も」


 一拍遅れで葉山も答えた。


「それならさ、今からカラオケ行くのとかどう?」


 水瀬はなんてことないように誘ってきた。


「どこのカラオケ?」

「大学近くは知り合いいるから、ちょっと離れたところがいいかな」

「いいね」


 簡単に場所と時間を決めて、私たちはカラオケに行くことを決めた。


「じゃあ1時間半後に駅集合で良い?」

「オッケー」


 それじゃ、と水瀬は軽く手を振って講義室から出て行った。


「私たちも出よっか」

「……そうだね」


 私をじとっと見てから、葉山はノートパソコンを鞄にしまった。


「……はぁー」


 講義室を抜けると、隣の少女はこれ見よがしにため息を吐いた。なにか不満に思ってるんだろうな、というのがはっきりわかるようなため息だったが、それをきっかけに話しかけるのもなんだかなと思ったので、とりあえず聞き流す。


 黙ったまま歩いていると、すぐに葉山が服の裾をくいくいと引っ張ってきた。


「わざと無視してんじゃん」


 そういうのやめて、と軽く腕を叩かれた。やはり触れてほしかったらしい。


 葉山の方を見るとむすっとした表情をしていた。


「なにが不満なの」

「いや、なんでカラオケ行くのかなって」


 聞かれるのを待っていたかのように、すぐに返答が返ってきた。

 わざわざこちらが聞く必要あったかなと思っていると、すぐに葉山は続けた。


「別にいいんだけどさ、今日じゃなくたっていいじゃん」

「なんで?」

「……年末年始は会えなかったから、今日くらいは、その、えっと……」


 先程の言葉の軽やかさはどこに行ったのか葉山はごにょごにょと言葉を濁す。


 口ぶりから察するに、葉山は講義が終わってから私の家で過ごすつもりだったのだろう。2週間近くしてなかったし今日は私のバイトもないしで、絶好の機会だと思っていたのかもしれない。


 終わってから家に来るよう提案すると、葉山は不承不承頷いた。


「カラオケのあとにご飯食べたりとかもナシだからね」

「わかってるって。葉山ってほんと好きだよね」


 私がそういうと、一瞬、何を言っているのかわからないという表情になる。しかしすぐに意味を理解すると、葉山は私を睨みつけてきた。


「……そういうのじゃないし」


 一緒に過ごそうって言ってるだけだから、とはっきり否定してくる。


 でも、もとをただせばエッチがしたいってことなんだと思う。


 自分では認めたくないタイプなのだろう。

 してるときは結構素直に言ってくれるのに。


 そんなことを考えながら、私たちは待ち合わせ場所に向かうバス停まで歩いた。

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