第26話 なにそれ、めっちゃ可愛いんだけど……
終わった後、望月は膝枕をして私の頭を撫でてくれていた。
赤子をあやすような優しい触り方に、胸がとくとく音を立てる。
――今日、望月と人生で初めてエッチをした。
好きな人に私の全部を見られてしまったという恥ずかしさと、言葉では表現しきれないほどの嬉しさが頭をぐるぐると駆けまわる。ずっと我慢してたから一度だけじゃ済むはずがなくて、何度も何度も触れてもらった。
自分でもびっくりするほど、私は望月のことを求めていたんだなって実感した。
「そういえば葉山ってずっと同じ髪色だよね。変えたりしないの」
「望月に似合ってるねって言われたから変えてないだけだよ」
「え、そんなこと言ったっけ」
私を撫でる手がぴたっと止まったので、望月の手をつかんで頭に乗せる。
望月には、私のことをもっと触ってほしかった。
髪の話よりも、いま触ってもらうことのほうが重要でしょ。
「葉山は甘えん坊だね」
私の頭に手を置いた望月を見上げると、柔らかな目で私を見ていた。
そんな表情できるんだ、って思った。
いつも望月は落ち着いてて、大人びた容姿も相まってクールな雰囲気をしている。
もちろんそれも悪くないけど、今みたいな穏やかな表情もとっても素敵だ。
そんな私の気持ちを知る由もなく、望月は事務的な話をしてきた。
「もう12月末だけどさ、葉山は帰省するの」
「明後日に帰ろうかなって思ってる」
「電車?」
「そうだよ」
なら途中まで一緒に帰ろう、と望月が誘ってきた。
断る理由もなかったので、私はすぐに頷いた。
私たちの実家は少し離れているので、年末年始は会えないと思う。
今日が特別だから良いんだけど、何日も会えないのはやっぱり寂しい。
「年末年始は会えないだろうから、電話できたらって思うんだけど……どう?」
「いいじゃん。私も同じこと考えてた」
暇なとき電話しようね、と言って私の頬に触れる。
またキスするのかなと思って薄く目を閉じると、唇に柔らかな感触が乗った。
でも唇の柔らかさじゃなかったので目を開けると、人差し指を突き出していた。
「葉山ってほんとキス好きだよね」
「……そういうのいいから、早くしてよ」
仕方ないなぁ、と言って唇をゆっくりなぞって、望月は優しく口づけをした。
何度かしてから顔を離して雑談のテンション感に戻す。
ふぅ、と深呼吸してから私は口を開いた。
「それじゃあ、今からどうする?」
「いったんシャワー浴びてから、どうするか考えよ」
「そうしよっか」
その言葉を合図に身体を起こす。
私は裸で、望月は下だけ履いていた。
ずっと見られていたはずなのに、やっぱり恥ずかしさは感じる。
心もとない手で胸を隠しつつ、床に落ちていた服を拾い上げた。
それをまとめて洗濯機に放り込んでから、望月と一緒に浴室に入る。
きゅるきゅる、と蛇口を捻る音が狭い空間に響いた。
「昨日は私が最初だったから、今日は望月からね」
「わかった。ありがと」
私がシャワーを譲ると、望月はすぐに身体を洗い始める。
私はその後ろに立って、なるべく自然に彼女の身体を眺めた。
綺麗な黒髪を下ってうなじを通り過ぎ、肩甲骨にまですっと落ちる。
そして私の視線は、重力に従って彼女のお尻に着地した。
美しい曲線を伝って、シャワーの水滴がゆっくり流れていく。
その様子を見ていると、すでに満足していたはずの気持ちが顔を出した。
「ねぇ、望月……」
「なに、またしたくなったの?」
「……うん」
「葉山ってすごいねぇ」
蛇口を捻ってから、望月は私と向き合って触ってくれた。
細長い指は、私の内に滑り込み、なめらかに私を昂らせる。
水音が響く浴室の中、あっという間に身体の力が抜けてしまった。
がくんと足の力が抜けてしまって、バスタブの縁に腰を下ろす。
私が呼吸を整えていると、その様子を見ていた望月が口を開いた。
「はぁ、葉山ってほんと可愛い」
「……絶対変な意味でしょ、それ」
「そうだけど?」
にやっと笑う望月は私の背中に軽く触れ、すぐに浴室を出た。
私はひとり取り残されて、望月の余韻を噛みしめる。
とても嬉しかったけれど、ひとつ大きな懸念があった。
エッチしたせいで、望月に主導権を握られているような感じがするのだ。
しているときはそれでいいんだけど、普段は私が望月をドキドキさせたい。
だから私はすぐに浴室を出て、身体の水気をとってから服を着た。
リビングに入ると、カーペットに座って飲み物を口にしていた。
さっきまで私をかき回していたとは思えないほどの落ち着きようだ。
ひとまず、いつもよりぐっと身体を近づけて、望月にもたれかかってみる。
普段の望月なら少し慌てるはずだけど、どうだろう。
ちらっと望月を見ると、大して表情は変わっていなかった。
むしろ私が寄り掛かったことに苦笑して、マグカップをテーブルに置いた。
「またエッチするのは流石にキツいんだけど」
「……しないし」
本当なら望月が顔を赤らめる予定だったのに、私が赤くなってしまった。
ここはいったん退こうと、望月から身体を離した。
もう、エッチしたからって……という言葉は飲み込んで、別の言葉を続ける。
「昨日は映画見たし、今日は別のことしようよ」
「動画サイトでなんか見たりしよっか」
そういって望月は動画サイトを開き、適当にスクロールする。
「最近、この人の動画見るのにハマってるんだよね」
「あー私も名前だけ聞いたことある」
面白いから見てみて、と言って望月は動画を再生した。
どうやって主導権を握ろうか考えていたけれど、動画が思ってた以上に面白くってのめりこんでしまった。
「ゲーム実況って面白いんだね」
「うん。切り抜きとかだと見やすいからおすすめかも」
そんな話をしていると、動画が終わって次の動画が自動再生しそうになった。
動画のサムネイルとタイトルがぱっと表示される。
それを見て私は、「……へ?」と思わず声を漏らしてしまった。
というのも、女性同士のカップルのモーニングルーティーンが流れてきたのだ。しかも赤いシークバーが最後まで行き切っていて、ちゃんと見たのは明らかだ。
へぇ、望月もこういうの見るんだ。ちょっと意外かも。
そう思って隣に視線を向けると、いつも落ち着いている女の子は、私と目が合うと気まずそうに顔を逸らした。まるで見られたくなかったのを見られたみたいだ。これくらい大したことない思ったし、私もたまに見たりするけれど、本人はかなり恥ずかしそうな様子だった。
――今こそチャンスだ。
「なに、もしかして私とこういうことしたいなって思いながら見たのー?」
ちょっかいをかけるように、望月の腕にとんとんと指先で触れる。
うっとうしそうに手を払われたけれど、拒絶しているようには見えない。
ということは、望月は私とそういうことしたいって思ってたのかな。
なにそれ、めっちゃ可愛いんだけど……
ぎゅうって抱きしめたくなったけれど、なんとか我慢して言葉を続ける。
「私もそういうの好きだから、したくなったらいつでも言ってねー」
「葉山のそういうとこ、マジでいやなんだけど……」
望月はすぐにスマホの電源を落として、ベッドに横になった。
ふて寝している人を初めて見て、にやにやが止まらない。
せっかくだしもっと何かしてやろうと思っていると、望月が口を開いた。
「……10分以内に話しかけてきたら、エッチ禁止だから」
拗ねた子どもの口ぶりにしてはだいぶディープなこと言うね。
でも一回だけしてお預けだと、私も我慢できる自信がない。
私もすっきりしたし、今回は望月の言う通りにしてあげよう。
それは困るなぁ、とベッドから視線を外して、望月の飲みかけに手を伸ばす。
グラスを持ち上げて窓の外を見ると、雪の結晶が空に漂っていた。
雪の結晶はひとつも同じ形はない、というどこかで聞いた豆知識が頭を過る。
せっかくだし望月に教えてあげようと思ったけれど、まだ1分も経っていない。
エッチが禁止されるのは怖いのでその言葉はぐっと飲み込む。
いつか話せたらいいなと思いながら、私は望月のマグカップに口をつけた。




