第21話 私と、その、したいんだよね?
言ってしまった、という後悔があとになってやってくる。
目を丸くした葉山を見ると、私の発言がどれほど重大だったのかわかった。
一緒にお風呂に入るというのは、密室の浴室で裸同士になるということ。
私たちは恋人だから、それ以上の意味もある。
とりあえず行こ、と葉山の手を引いて脱衣所に向かう。
「えっ、えっ」と戸惑いながらも、私の彼女は一緒に来てくれた。
狭い脱衣所で葉山と向き合う。
「じゃ、服脱ごう」
「ちょ、ちょっと待って……!」
私が上を脱ごうとすると、無理やり止められた。
葉山の顔は真っ赤になっていた。
変に初々しいと恥ずかしくなるから大胆に行こう、という計画が崩れてしまう。
「なに」
「いや、えっ、望月、自分のしてることわかってる……?」
私と目を合わせないで、葉山がおずおずと聞いてきた。
「わかってる」
「でも望月って、私とそういうのしないって……」
「でも葉山はしたいんでしょ」
「したい……けど、望月はそうじゃないじゃん」
唇をきゅっと結んで目を伏せる。
あぁもう、なんでこの子はこんなときに限って強情なの。
こんなに私が行動してるんだから、今は雰囲気に流されてよ。
「……んっ」
葉山の唇に自分の唇を重ね合わせる。
ちゅっ、ちゅっ、と何度か軽くキスをしてから、葉山の顎を持ち上げて舌を入れ込んだ。舌の裏にあるつるつるした部分を見つけて、その部分を口の中で転がす。唾液でいやらしい音がしても、口元が汚れても、私たちはキスを続けた。
唇を離して呼吸を整える。
葉山はあっという間に蕩けた表情になった。
「お風呂、入るよ」
「……」
何も答えなかったけれど、彼女はこくんと頷いた。
上と下を脱いで下着姿になる。葉山は私と同じ順番に脱いでいった。
下着姿はこれまでにも見たことがあったけれど、やっぱり胸が大きいかった。正直、普通の葉山の状態でもかなり綺麗なボディラインをしているのに、着やせするタイプらしく、私の想像を軽く超える胸をしていた。
「……無理、マジではずい」
葉山は腕に組んで、私から距離を取ろうとしてきた。
不思議だな、と思った。
下着姿を見られることくらい、私にはどうってこともなかった。
まずは私が脱がないとダメだと思い、ブラのホックを外して胸を露出させた。
「えっ、えっ、ちょっと待って」
葉山は顔を真っ赤にして、私から視線を逸らす。
でもすぐに私の胸に視線は戻ってきた。
粘っこい視線は、私の胸の輪郭をゆっくりとなぞる。
「そんなまじまじ見られると困るんだけど」
「あっ、ごめん!」
葉山は慌てて手をぱたぱたさせる。
ほんとにこの子は初心なんだな、と感じた。
それが可愛いし好きだ。でもずっとこの格好だと風邪をひいてしまう。
「ほら、葉山も脱いで」
少し強引にホックを外してブラを取ると、すぐに葉山の胸が目の前に現れた。
胸は綺麗な丸みを帯びており、理想的な形をしている。
そして何より大きいので肩こりとかヤバそうだな、とぼんやり思った。
葉山は両腕で胸を隠そうとしているが、流石に隠しきれてない。
「下も脱ぐから。ていうか、言わなくてもわかるよね」
やだ、と言いながらも葉山は下着をすっと足まで下ろして洗濯機の中に放り込んだ。流石に下をまじまじ見たら悪いだろうと思い、私もすぐに脱いで浴室に入る。
2人で浴室に入ったことは初めてで、こんなに狭かったっけ、と感じた。
「葉山から洗っていいよ」
そういうと葉山は髪をすすぎ始めたので、私はバスタブに入った。
「……」
「……」
お互い無言で、びっくりするくらい気まずい空気が流れている。
シャワーの音がなんとか沈黙を中和させているものの、流石にこれはまずい。
私の想定では、葉山はもっと乗り気で来ると思っていた。
だってキスしたあといつも物欲しそうな目でこちらを見てくるし、そういうことをしたいとも言っていた。だから私はクリスマスイブの今日、葉山の期待に応えてあげたいと思っていた。
「葉山ってさ、」
「へ?!」
私が口を開くと葉山の身体が跳ねた。
狭い浴室に彼女の声が反響する。
シャワーを止めて、すぐにこちらを見てくる。
「いや、髪洗いながらでいいんだけど」
大した話じゃない、というと、葉山はシャワーの水をちょろちょろ出しながら、髪を洗うのを再開した。
「私と、その、したいんだよね?」
もうムードがどうという問題ではなかったので、直接聞いてみることにした。
「……したいけど、望月がしたいと思ってないんだったらしたくない」
シャンプーを落としながら、彼女はぽつりと口にした。
体温がすっと下がった。まさかしたくないといわれるとは思わなかった。
「今の私、したいと思ってるように見えないの」
「……ぜんっぜん見えない」
葉山の口調には、恋人独特の熱っぽさが消えていた。
なんで、と思った。
せっかく、葉山の期待に応えたいって思ったのに。
「私に合わせてるんだろうなって」
「それじゃだめなの」
私とセックスしたいんじゃないの。
シャワーを止めて、葉山は髪の水気を切った。
沈黙を気にすることなくトリートメントを髪につける。
粗いコームで髪を梳いているときのことだった。
「……なんか寂しいんだよ」
こちらを見ないで、葉山は小さく呟いた。
――シャワーの水滴がぽたり、と落ちる音が浴室に響いた。




