第17話 葉山は私としたいのかな
「てか望月さん、あの人とはどうなってるの?」
バイト終わり、私は高畑さんと雑談をしていた。
あの人、というのは私にイヤリングを贈った人のことだ。
私の恋人であり、以前は高畑さんのことが好きだった女の子。
詳しい話は葉山から聞いてないけれど、高畑さんのことが好きだったというのは事実らしい。それを知った直後はかなり嫉妬してしまったが、今はそういうものだと受け入れることがある程度はできている。
完全に受け入れることはできない。
葉山が最初に好きになった人、という地位を手にした彼女に強いあこがれを抱いてしまう。もし中学生のときに葉山と出会ってたら、なんてありもしないことを考えるくらいには、高畑さんのことを羨ましく思っていた。
そんな彼女と、私は架空の恋人の話をしなければならない。
「まあそこそこって感じだね」
「えーなにそれ、絶対上手く行ってるヤツじゃん!」
上手くいってるというか、付き合ってるし何度もキスをしているんだけど。
その後は追及の質問をのらりくらりとかわして、私は休憩室を出た。
外に出ると、肌寒い風が頬を撫でる。
11月も終わる時期で、すでに辺りは真っ暗だ。
早足で自宅に向かい、すぐに鍵を開けて電気を付ける。
数時間前に葉山とキスしたことを思い出しながら、シャワーを浴びた。
その後はご飯を食べて、動画をぼんやりと眺めていた。
あることが頭を過り、動画の再生を停止して検索エンジンに単語を入力する。
18歳未満閲覧禁止という警告を超えて、女性同士でする動画を覗いてみた。
実際に女性同士のものを見ても私は性欲が湧かないのか知りたかったからだ。
動画内のふたりは何度か軽いキスをしてから舌を絡ませる。その後、唇をつける位置がどんどん下に降りて行った。首筋に唇を当てながら胸を触って相手を焦らし、指先は次第に下腹部へと伸びていく――。
なんか楽しそうだな、と思った。
漏れる嬌声とくねらせる腰の動きが快楽の色を雄弁に物語っている。
でも私にとってその動画は、どこか他人事のように映った。
「んー……」
こういうこと、葉山は私としたいのかな。
そんなことが頭を過る。
でも私には、強くしたいと感じさせるほどのものではなかった。
動画が終わって自動再生しそうになったので動画を止める。
するといきなり、湿った空気を切り裂くような着信音が鳴り響いた。
相手を確認すると葉山からだったので、すぐに通話ボタンをタップする。
『やっほー望月、バイトお疲れー』
私が通話ボタンを押すと、すぐに葉山は話始めた。
『いま家?』
「うん」
『なにしてたー?』
葉山はいつも通りのテンション感で聞いてきた。
女性同士でセックスする動画を見ながら、葉山もこういうことしたいのかなって思ってた、なんて口が裂けても言えない。
「……夜ご飯食べてるとこ」
『そうなんだー』
葉山からそれ以上深入りされることがなかったので胸をなでおろす。
『週末に出掛けたいんだけど大丈夫?』
どうやら電話してきたのは、予定を聞くためだったらしい。
「土曜日はバイトだから、できれば日曜が良い」
『おっけー』
じゃあ日曜に行こっか、と口にして、葉山は笑みを零す。
ほんの数秒、ゆったりとした沈黙が降りた。
話題の途切れ目で、相手が何か言い出すのを待つような間だった。
私の頭には、さっきまで見た女性たちの快楽の声が響く。
『じゃあ切るね、バイバイ』
私の思考を断ち切るように、葉山は通話を止めた。
部屋は元の静寂が生まれ、私の静かな呼吸だけが空気を揺らす。
次第に沈黙は、直前まで聞いていた葉山の声と動画内の女性の嬌声が混ざった。
葉山が快楽で滲ませる声――。
すぐにアプリを開いて、目についた曲を再生する。
いつもより少しボリュームを上げて、頭に響く声をかき消した。
葉山の嬌声は、なぜか私の心を刺激した。
性的欲求ではなく、葉山の初めてになりたいという湿っぽい願望。
それでもいいなら――
そう思ってしまう私は、葉山のことを大切にできているのだろうか。
よくわからない。
何が正解なんだろう。
そんなことを考えていると、頭に響く声はいつのまにか聞こえなくなっていた。




