第15話 葉山ってほんと葉山だよね
瞼の裏に透ける光で目が覚めた。
でもここで目を開けたら完全に目が冴えてしまいそうで、我慢して目を瞑る。少しでも暗さを確保しようと思ってブランケットを自分の身体に巻きつけようとすると、隣から小さな声が漏れた。
思わず目を開けると、そこにいたのは葉山だった。
なんで葉山いるんだっけ、という疑問が一瞬浮かんだが、そういえば私が泊まるようにいったことを思い出した。
薄いブランケットを私に巻き取られたからか、葉山は少し寒そうだった。
この子、いつも私向きに寝てるな、と思いながらブランケットを葉山に掛ける。
私の親切心には気づかず、彼女は気持ちよさそうに寝返りを打って私に近づいた。
髪の擦れる音とともに、葉山の顔が私の前に現れる。
改めて見ても、葉山はやっぱり可愛い。目鼻立ちはすっきりしてるけど幼さの抜けない感じが、葉山の可愛さだと思う。
ヤバい、なんかドキドキしてきた。
葉山に触りたい、キスしたいという衝動が生まれる。
でも起こしたくないし、今は触らない方が良い。
そんな葛藤をしていると、葉山は目を覚ましてしまった。
「……おはよ、望月」
「うん、おはよ」
うん、と頷く必要はなかった。でも、おはよ、と口にする前に何か挟みたかった。
「いつから起きてたのー」
まだ完全には目覚めていない、ふわふわした声で葉山は尋ねてくる。
「ついさっき起きたとこ」
「そっかぁ」
そう言いながら葉山は私の背中に手を回し、ぎゅっと抱きしめた。
いつもの葉山より体温が低いような気がする。
「好きだよ、もちづきー」
葉山は私の肩辺りに頭を擦りつけながら口にする。
「私も好き」
彼女の髪を梳きながら呟いた。
葉山の髪は少し乱れていたので、手櫛で軽く髪を整えてあげる。ミディアムボブくらいだと髪のセットとか楽そうだとな、と思いつつなんとなく触り続けた。
しばらくすると、葉山は顔を覗かせて私を見上げた。
キス待ちの顔っぽかったので、葉山に唇を重ねる。
でもキスした瞬間、葉山はぴくんと身体を跳ねさせた。
「……寝起きはちょっとはずいって」
唇を離してから、葉山は視線を逸らして口にした。
その声は完全に目が覚めていた。
キスをして欲しかったわけではなかったらしい。でも勘違いしたと言いたくないので、葉山の顔を少し強引に持ち上げてもう一度、キスをした。
ちゅっ、と唇同士を重ねるような軽いキス――。
葉山の唇の表面は乾燥してて、いつもよりさっぱりしたキスになった。
「そろそろ起きる?」
「もうちょっといたいけど、今日はバイトあるんだっけ?」
「午後からある」
じゃあ起きよっか、と言って葉山は身体を起こす。
私も身体を起こし、軽く伸びをしてから身体を捻ると、パキパキと骨の鳴る音が部屋に響いた。
「骨鳴らすの、身体に良くないって聞いたことない?」
「らしいけど、そんな深刻なことにならないでしょ」
「ほんとかな」
しないに越したことはないと思うよ、と言って葉山は私の背中をぽんぽん叩いた。
立ち上がって朝食の準備を始める。
スマホで時間を確認すると、すでに9時を回っていた。
バイトで家を出るまであと3時間か。短すぎる。
「ていうか講義で出た課題、望月もうやった?」
食パンを置く皿を取り出している葉山が尋ねてきた。
「まだしてない」
「じゃあさ、一緒にしようよ」
1人でやるのキツイし、と葉山は零す。
そうだね、と応えるとトースターがチン、と音を立てた。
とりあえず2枚取り出して、丸テーブルの上に載せる。
葉山は飲み物を持って、私に近づいてきた。
「じゃあ食べよっか」
「うん」
そして私たちはゆっくり食パンを食べ始めた。
表面のカリカリした部分に歯が当たると音が部屋に響く。
あまり音を立てるの上品じゃないよな、と思いつつ、別に葉山には聞かれても問題ないか、と割り切って食べ続けた。
朝食を済ませると、葉山が皿を洗うことを言い出した。いや私がするよ、なんて変な駆け引きもせずに任せた。葉山が皿を洗っている間に、私は顔を洗ってメイクだけは簡単に済ませた。
部屋に戻ると葉山はすでにノートパソコンを開いていたけれど、やっぱ私も顔洗いたいと言い出したので、ご自由にどうぞ、と私は口にした。すると葉山はぱたぱたと洗面台に向かった。
ぱしゃぱしゃ、と顔を洗う水音が小さく聞こえてくる。
こういうのなんかいいな、と思った。
具体的にここが良いとは言えないけど、ぼんやりとした嬉しさがあった。
漠然とした嬉しさを感じていると、葉山が顔だけ洗って戻ってきた。
何度も見たすっぴんを盗み見て、そんなに可愛いのズルいでしょ、と思った。
その可愛さをもう少しくらい私に分けて欲しい。
「葉山ってほんと葉山だよね」
「どういうこと?」
「そのまんまの意味」
「んー?」
詳しく聞かれたら困るので、葉山をシャットアウトして課題に取り掛かった。




