↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【百合】可愛い友だちに告白されたから、お試しで付き合ってみることにした。  作者: 夏野恵


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
13/37

第13話 ……私も好き

 家に入って電気を付ける。

 荷物を置いてエアコンを付ける。

 クッションを葉山に手渡して座らせる。


 全部、いつも通りの私たちだった。


 でも雰囲気だけは重くて、お互いに相手の様子を探っている。


「飲み物あるけど、なにがいい」

「……お茶」


 葉山はぼそっと応えた。


 冷蔵庫からお茶を取り出してグラスに注ぐ。

 水の跳ねる音がやけにうるさかった。


「ねぇ、望月」


 視線を向けると、声と同じくらい固い表情の葉山がいた。


「なに」

「その……」


 私がグラスを持って近づくと口を閉ざした。


 ありがと、と言って私から受け取り、お茶を口に含む。


 彼女の喉に小さな波が生まれた。

 ゆっくり喉を滑って、身体の中に吸い込まれていく。


 その様子を私は眺めていた。


「なんで、連絡返してくれないの……?」


 グラスを置いてから、葉山はおずおずと尋ねてきた。


 さっき私を追いかけて来たときとはまるで違う反応だった。

 今の葉山は、何かにおびえるような雰囲気をしていた。


「葉山は何も悪くない。ごめん」


 深々と頭を下げる。


 葉山は本当に何も悪くない。


 連絡だって返そうと思えばいつだって返せた。

 講義室を出たときに葉山がいたんだから、普通に話せばよかった。


 結局、全部自分でやったこと。


 顔を上げると、葉山は今にも泣きそうに瞳を潤ませてこちらを見ていた。


「私が高畑さんの話したからだよね……望月、すごく悲しそうな顔してたし……」


 そんなこと、認めたくなかった。


 葉山の好きだった人に嫉妬したということが。

 私が葉山の一番最初に好きになった人じゃなかったことが。


 でも私は頷いた。あのとき私は悲しくなったから。


 なんでそんなこというの、私がいるのに他の子の話とかしないでよ、って。


「ごめん、私、望月を傷つけるつもりなんてなかったのに……」


 私の腕をぎゅっと掴んで、葉山は声を震わせる。


 葉山が傷つけるつもりがなかったことくらい、私にだってわかる。


 誕生日プレゼントだってそうだ。私が高校生のときに話した内容を覚えててくれているなんて、どれだけ私のことを想ってくれているか十分に伝わってくる。


 私に隠し事をしたくなかったから口にしたらしい。何かのタイミングで私に知られて裏切られたような気持ちになってほしくなかったから。もし私にそのことを伝えても、昔のことだからそれほど深刻に捉えられないはず、と考えたみたいだ。


 でも私は傷ついてしまった。葉山の一番になれなかったという我儘な理由で。


 そして葉山との距離を置いてしまった。


「連絡しても返してくれないから、望月に嫌われたと思った……それからは全然寝れないし、頭もずっとぼんやりしてるし……」


 葉山は言葉を詰まらせながら口にする。


 それほど悩んでいたとは知らなかった。


 私からの返信が来ないで苦しむ葉山の姿を思うと、胸が強く締め付けられた。


「望月しかいないんだよ……私を受け入れてくれるのは望月しかいない……」


 何か言おうと思ったけど、何も言えなかった。

 今の葉山に伝えるべき言葉が、私にはわからなかった。


 そして葉山は、涙声で呟いた。


「私のこと捨てないでよ――」


 ――部屋の空気が止まった気がした。


 縋るような葉山の言葉は、私の心を大きく揺らした。


「……っ」


 葉山を私の胸に沈めて、強く強く抱きしめる。


 押し込めていた涙が、ほどけるようにこぼれた。

 泣いてるのを見られたくないと思って上に視線を向ける。


 葉山には落ち着いた私の姿を見せたかった。高校の頃からの自分の印象を付き合ってからも変えたくなかった。それはきっと私が葉山のことを恋人として見られなかったからで、友だちとしての葉山から見た私を演じたかったから。


 なのに私は、葉山が高畑さんのことを好きだったと知って嫌な気持ちになった。


 そんな自分を見せたくなかった。

 私の印象が崩れることが怖かった。


 たしかに葉山も迂闊だったかもしれない。

 恋人の私と一緒にいるときに、あの話をするべきじゃなかった。


 でも私も、友だちとしての関係にこだわったせいで葉山を悲しませてしまった。


 私のこと捨てないでよ、なんて言わせてしまった自分が情けない。

 自分だって葉山に見放されたくないのに。


 後悔でいっぱいになって抱きしめていると、葉山の身体の震えは収まってきた。


 彼女の目の縁に溜まった涙をそっと掬う。

 瞳を閉じて私の指を受け入れてくれた。


 私の指先は、小さな雫で濡れた。


「望月、変な顔してるね」

「葉山も結構ヤバいよ」

「そっかぁ」


家に帰れないかも、と言って私の胸に頭を擦りつける。


「……今日は泊まりなよ」


 私の声が、部屋の空気を柔らかく揺らした。


 今の葉山をひとりにしたくなかった。

 できるだけそばにいたいと思った。


 葉山は顔を上げて、小さく笑みを浮かべる。


「ありがと。私、望月のこと好きだよ――」


 そう言ってゆっくり近づき――葉山は私に、優しく口づけをした。


 唇の表面が涙で湿っていて、少ししょっぱい。

 でも今までしたキスの中で、最も甘く感じられた。


 柔らかな唇と重なるたびに、頭の中で何かがパチパチと弾ける。


 呼吸が浅くなって息苦しさを感じた。

 でもその苦しささえ、今の私には心地よかった。


「……私も好き」


 唇を離したタイミングで、私はぽつりと口にした。


 かぁっと顔が熱くなる。


 恋人として好きと言うのは恥ずかしい。

 裸の自分を見られているみたいで落ち着かなかった。


 葉山も顔を真っ赤にして、視線をふらふら彷徨わせていた。


 言われた本人は堂々としててよ。

 恋人なんだし、それくらい普通でしょ。


 でも葉山は私を見ながら、何か言おうと口をもごもごさせる。


「……んっ」


 今は何も言って欲しくなかったから、私は強引に葉山の唇を奪った。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。