表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
よみがえるエトワール  作者: yoshinoya ussie


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

31/36

第29話「反応」

 週末、金曜日の夜。

 夕方で店を上がったみらいは、少し急いで自宅に帰ってきた。


 鞄を置き、上着を脱いで、ベッドの端に腰を下ろす。

 リモコンに手を伸ばし、テレビをつけた。


 聞き慣れたオープニング音楽が流れる。

 画面には『めっちゃ!かんさいテレビ』のタイトル。

 関西ではお馴染みの、ローカル情報番組だった。


 みらいは、無意識に姿勢を正す。

 両手を膝の上に置いたまま、画面を見つめた。


 ——もうすぐ。


 番組はいつも通りに進んでいく。

 スタジオ、街ロケ、短い特集。


 その流れの中で、ふと、見慣れた風景が画面に映った。


 Atelier Étoileの入口。


「あ……」


 小さく、声が漏れる。


 毎日立っている場所のはずなのに、テレビ越しに見ると、ほんの少しだけ遠く感じた。


 カメラの前に立っているのは、朝倉ひなた。


『今回ゲストリポーターを務めます、朝倉ひなたです!』


 少しだけ緊張した表情。

 それでも、まっすぐ前を向いて話している。


 ——やっぱり、すごいな。


 その言葉は、自然に胸の中に浮かんできた。


 カメラが店内へと移る。

 みらい自身の姿が、画面に映った。


 自分の声がスピーカーから流れる。

 ほんの少しだけ硬いかもしれない、と感じた。


 けれど、隣にいるひなたの方へ視線を向ける自分が映ると、不思議と、その硬さは気にならなくなった。

 むしろ、少し落ち着いて見える。


「……あ、普通に話せてる」


 みらいは、ふっと息をついた。


 ——ひなたちゃんが、一緒でよかった。


 そんな感覚が、あとから静かに広がる。


 番組はそのまま進み、星のギャラリーの紹介へと移る。


 壁に並んだ作品。

 その中に、自分のものもある。


「……ちゃんと映ってる」


 少しだけ照れくさくて、けれど、どこか嬉しかった。


 二人がアップで最後に映る。

 短いコーナーは、あっという間に終わった。


 画面はスタジオへ戻って、次の話題へと移っていく。


 みらいは、背もたれに体を預けた。


「……終わった」


 誰に向けるでもない、小さな声だった。

 胸の奥にあった緊張が、ゆっくりとほどけていく。


 ——また、やってみたいな。


 ちゃんと、前に進んでいる。

 そんな実感が、静かに残っていた。


 みらいはリモコンに手を伸ばし、テレビの音量を少しだけ下げる。


 エンディングの音楽が流れ始めた頃、テーブルの上に置いていたスマートフォンが震えた。

 画面に表示された名前を見て、みらいは一瞬だけ動きを止める。


 三浦直人。


 その名前を見つめたまま、なぜか一度、ゆっくりと息を吸った。

 それから、通知を開く。


『みらいさん、テレビ見ましたよ』

『ちゃんと伝えてて、すごくよかったです』


 短い文章だった。


 けれど、その言葉は、すっと胸の奥に入ってくる。


 続けて、もう一つ。


『ギャラリーの紹介のところ、作品の説明してる時の目が、すごく生き生きしてて』

『みらいさんらしかった』


 その一文を読んだ瞬間、みらいの口元が少しだけ緩んだ。


「……見てたんだ」


 ぽつりと、小さく呟く。


 ソファに移動して腰を下ろし、スマートフォンを両手で持ち直す。

 カメラの前に立っていたときよりも、今のほうが、少しだけ緊張していた。


 文字を打つ手が、ほんのわずかにゆっくりになる。


『ありがとうございます』

『正直、結構ドキドキしてました』


 送信する。


 すぐには返信は来なかった。


 けれど、その沈黙は不思議と落ち着いていた。


 少しして、画面がまた光る。


『みらいさんが楽しそうに話してるの見て』

『なんか安心しました』


 その言葉に、胸の奥がじんわりと温かくなる。

 テレビに映っていた自分ではなく、その中にいる“自分”を見てもらえたような感覚だった。


 続けて、もう一通。


『おつかれさま』

『ゆっくり休んでくださいね』


 みらいは、画面を見つめたまま、しばらく動かなかった。


「……心配してくれてるんだ」


 小さく呟いてから、ゆっくりと指を動かす。


『はい』

『ちゃんと、休みます』


 送信。


 スマートフォンをそっとテーブルに伏せる。

 さっきまで少しだけ張っていた気持ちが、ゆっくりとほどけていく。


 テレビはすでに別の番組に変わっていた。

 部屋の中には、穏やかな時間が戻っていた。


 ——翌日。


 Atelier Étoileの店内は、いつもよりも少しだけ賑わっていた。

 テーブル席もカウンターも埋まり、静かな会話がいくつも重なっている。


 みらいは、いつも通りの笑顔で店内を回る。


「昨日テレビ見ましたよ」


 席についた客の一人が、そう声をかける。


「ありがとうございます」


 みらいは、軽く頭を下げて笑った。


「ギャラリーの絵、みらいちゃんが描いたんや! めっちゃ可愛かった〜」


「いえ、まだまだです」


 そう言いながらも、その言葉が素直に嬉しかった。


 別の席でも、同じような声がかかる。


「みらいちゃん、テレビで話してるの初めて見たわ」

「なんか堂々としててびっくりしたで」


「本当ですか?よかったです」


 会話は長く続かない。

 けれど、その一言一言が、確かに届いてくる。


 みらいは、グラスを運びながら小さく息をついた。


 ——ちゃんと、伝わってる。


 その実感が、静かに胸の中に残る。


 笑顔で次の席へ向かう。

 その足取りは、ほんの少しだけ軽くなっていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ