15 寄生する神
黒と紫の柾目を張った硬い六角には蜂がいる。居たいから居るのでなく閉じ込められたから居るので、ブンブン唸る蜂はうるさい。
さんざぁこげんこつぅなることばぁしよってぇきたぁ蜂だから
こうでもせんとのぉー・・・・・・、昼も夜も夢を見られず眠れん蜂だから
群れを造りぶんぶんは言っても掟に従う集団の蜂でなく、一匹一匹が己れが神の寄生蜂だ。神とでも名乗らなくては、いたいけな他人の仔に掬ってまで己れの血肉に置き換えるえげつない真似はできないから。
時間と空間と己と他者との間に走る線引きを埋めて、温かなお湯に浸かるようにこうして修行を続けていても、寄生する神をみると虫唾がはしるのは止まらない。
ブンブンを聞くと虫唾がはしる。耳も目も覆いたくなる。
虫唾ははしるが嫌悪ではない。畏れだ。
佐和子に虫唾がはしるのは仕方ないことだとしても、そのひとはけっして虫唾がはしるような手合いではないから・・・・・
そのひとは代々にわたるわたしたちを繋げ守ってきた救いびと。
男たちにわたしたちを奪われないようにと、素肌に絹地の単衣一枚被り、乳房に隠し、男たちの欲情を受け、ときには男の身体に結わえ付け、亡骸になるまで男の中にわたしたちを隠し育て続けてくれる女、そうして代々のわたしたちに渡し続けていった女。
太古から、似て非なるものの男などというものが現れ、照らしあい、相双の穴埋めの施しなぞをする前より、わたしはあたしを抱えてきたから。
蜂のぶんぶんもその女の声もうるさくはない。穏やかだ。そして、とても、ゆっくり。マントルが進む速さと同じ。年間数センチ進む速さだから、わたしの爪が伸びてく感じと同じ。そんなゆっくりでも、動く速さは見えなくても、わたしの爪が伸びる速さと一緒なら、きっと、感じられる。
爪と一緒で、わたしの中にあることだから。
真言と一緒で、彼方までの宇宙とひとり打つ拍音を同じに重ねることだから。
マントルも真言も同じ音でつかまえたから、同じ匂いと嗅いでしまったときから同化していく。爪の伸びる速さのことなら、わたしの中にあることだから、わたしの中で一度くっついたらそれは必然となり、離れていくことはなくなる。
わたしの感じることは、わたしの中に寄り添い、寄生し、そして同化していく。
そのひともその女も、やって来るまでの佐和子もやって来た佐和子も、皆んな一緒、ひとつのこと、分け隔てるための線は引かれていない、寄り添い寄生して同化していくのに言葉はいらない。
唄があれば良い
調べがあれば良い
あとには何も残さなくていいから一緒に奏でれば良い。たくさんの心が襞の寄りをかけ絡まりあい延々伸び続けてかたちに成っていく
蓑虫の雌のように、終生を身に纏うその辺りだけを宇宙にして、世間なぞに姿を現さず営々を紡いでいく
諱はそこに潜んでいる、男の掌のよるガサガサもざわざわも無縁なそんな処に。
佐和子たちにしか唄えない調べだから、襞の寄りを解くように穴を開け往き着こうとしても、その開けた穴を覗こうとしても、男たちは先ほどまでの己れの施した残骸を見定めるのみ。
このことは佐和子たちのことだから、男の掌によって施されたものではないから、太古のヒトがヒトのかたちを成せるよりも遥か彼方より始まり、一片の襞を零すことなく解きほぐされてきたことだから。
音のない深海に棲むチョウチンアンコウのように、今生に一度逢うか逢わぬかの雌雄のように、雌を見つけた矮小の雄に噛みつきさせ、皮膚や血管を融合させ最後は白子だけを残すため他の血肉は退化させ、雌と同化させていくように
諱は音のなくなった調べの中で延々と繋がれていく。




