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二人三脚:暁光の戦士

 視界を覆いつくしたのは閃光だった。瞼に焼き付くほどの、まばゆい光が一瞬走ったかと思うと、眼前にいた少年に向かって伸ばしていた腕が宙に舞った。いやそれだけではない、私の上半身も宙へと舞い上がっているではありませんか。


 人に敗れるのはこれで三度目です。走馬灯というべきか、過去の記憶が段々と掘り起こされていく。初めての敗北を味合わせてくれたのは初代剣聖。そして二回目の敗北を喫したのは、ゴウケンと呼ばれていた剣聖だったはず。


 天地が目まぐるしく変わる視界の中で捉えたのは、砂のように崩れ落ちていく私の下半身。再生する手立てもなく、ただただ崩れ落ちるのを見守ることしかできない歯がゆさが、なんとも心地悪い。

 舞いあげられた身体では受け身をとることも出来ず、無様に大地へと叩きつけられた。

 ただ一つ幸いだったのが、私の身体は下半身を失っても活動できるという事。消滅することは免れないが、私の身に何が起きたのか、彼に聞けば理解することが出来るかもしれない。

 そんな一抹の期待を胸に、彼に視線を送る。すると、彼は私の期待に応えてくれるかのように、彼は私の元へと駆けてくる。ですが、残念なことに私の願いはかなえられそうもない。


 なんと容赦のない相手でしょう。地を這うような斬撃が私の顔へと迫る。もはや指一つ動かすことすら出来ない私には、受け入れる以外の術は残されておりません。

 まあ、いいでしょう。人の心から負の感情がなくならない限り、私は不滅。どれだけの時間がかかろうと再び蘇って見せましょう。


 そして時間を稼ぐことは出来ました。これより起こるであろう惨劇を目にすることは叶いませんが、きっと成し遂げてくれるでしょう。

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 あいつを消滅させたまでは良かったが体は言う事を聞かず、バランスを崩してしまった。倒れそうになる僕を支えようとエリカが手を伸ばすが、僕の体はエリカの手をすり抜けてしまい、結局地面に転がることとなった。


「エリカ、大丈夫かい。今、君の体をすり抜けてしまったみたいだけど」

「多分、力を使いすぎてしまったからだと思う。そんな事より、今は自分の体を心配して」


エリカは倒れこんだ僕の頭を膝に乗せると心配そうな顔で覗き込んでいる。どうやら体に触れることが出来なかったのは一時的なものだったらしい。こうして、エリカの体温を感じると不安が段々と解消されていくのがわかる。


「死ぬかと思った、いやエリカが居なかったら十回は死んでいたね」

「そんな簡単に死ぬなんて言わないで、あんな無茶な戦い方はもうさせないからね」


 泣きそうなエリカの顔を見る限り、決心は固いようだ。まあ彼女の言葉通り今後の無茶は控えることにしよう。体の節々に痛みはあるが、違和感はない。戦いの最中、幾度となく致命傷ともいえる火傷を負った僕を救ってくれた聖女の奇跡。こうして五体満足でいれるのは、彼女のおかげだ。

 そして運がよかった。此度の戦いを統括するとその一言に尽きる。相手が最後まで僕の速さに対応することができなったおかげで戦いの主導権を握ることが出来た。


「これで終わったよね」

「こっちはね」


 体を起こし、エリカの肩を借りてようやく立ち上がることが出来た僕の視界に入ってきたのは、言葉で言い表すことが出来ない程酷いものだった。遠方に見える異形を生み出す汚泥は多くの異形で埋め尽くされ、その巨大さから核の場所など見当もつかない。さらに厄介なのが、その黒い濁流は明確な意思がある様に、徐々にこちらへと近づいてきていた。


「本当に疲れるな」


 なんと立ち上がっては見たが、今の僕は立っていることすらままならない。再び崩れ落ちそうになる僕の背中を支えてくれたのは、エリカではなくアリスだった。


「お疲れ様」


 いつも通りの調子でアリスは微笑んでいた。その微笑みの奥には、静かに沸き立つ怒りの色が見える。だが、今はあえて無視しよう。


「シズクちゃんたちは無事に保護したよ。街までライラ教官を含む聖騎士たちが送り届けるから心配はいらない」

「そっか。なら、あとは任せていいかな」


地平線より昇る暁光が13人の剣聖を照らしていく。


「任せなさい」そう言いながら、アリスは僕の肩を叩いた。結構強めに。

「心配ない、任せておけ。……よく、頑張ったな」相変わらず真面目なデュークは力強く頷き目を拭った。もしかして泣いてた?

「終わったら飯と酒だな」トレイはアリスに殴られた肩を、遠慮なく豪快に叩いていく。

「立てない程頑張ったの?無茶が過ぎるよ、まったく」「だが良い顔だ。漢の顔をしている」ケイトとシンクは満身創痍の僕を見て微笑んでいる。

「……絶対に勝つから、見ていて」普段感情を露わにしないサイスにしては、珍しく力が入っているようだ。

「ち、ちゃんと休みなよ。あとは私達が片付けますから」セブンは心配そうな顔で僕の頭をなでていく。子供扱いされるのはいつものことだった。

「アラタ、俺は君の事を誇りに思う。しばし休んでいろ、君の分まで暴れてくるとしよう」エイトは相変わらずの大声だったが、その声を聞くと何故か安心してしまう。

「俺、この戦いのあとにあの彼女に告白しようと思っているんだ。そして事の全てを話して、ちやほやされたい」

「ねえ、それってフラグってやつでしょ」

「ナインだけ怪我したら面白いですよね」

「面白くないからね!」

 アサギとルリ、ナインには緊張感の欠片もなかった。

「もう、無茶しすぎだよ。お詫びに、今度付き合ってもらうからね」

 泣きべそを浮かべたユウは早口で通り過ぎていった。あとでスカート姿も似合うなと言ってあげよう。

「グッジョブ」

 爽やかな笑顔でサムズアップをするキングを見送った僕は、その場に座り込んだ。


 アリスを先頭に、剣聖たちは黒い濁流を目掛け次々と走り出した。襲い掛かる敵の数をものともせずに、互いが互いを補うような連携と統率がとれた無駄のない動きで華麗に捌いていく。

 大勢の敵に道を阻まれようと、矢のように放たれた彼らは、動きを緩める事も止まることもなく、瞬く間に濁流の中を突き抜けていった。

 徐々に殲滅されていく異形達。多勢に無勢の状況の中、誰一人として怯まず、そして傷つき倒れることもなく、深く深く切り込んだ。


 とうとう巨大な濁流の中に存在する核が姿を現した。瞬く間に現れる異形と戦いながら、それを見つけ出すのは不可能に等しい。だが、彼らの足取りに迷いはない。おそらくアサギとルリの力だろう。魔にとって、二人の存在は天敵と言って過言ではない。魔の気配を敏感に感じ取れる彼女達から見れば、隠された核を探すことなど造作もないことだろう。

 一際大きい異形がアリス達の行く手を阻むが、彼女たちは疾走する。冴え渡る剣聖の技の前に、魔の災害と言われた異形を生み出す汚泥は成すすべなく崩壊していった。

次の投稿が最終話となります。

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