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二人三脚:一閃

 射出された剣が、魔術師の眼前で爆散する。土煙が舞い上がる中、魔術師は平然とした様子で立っていた。困ったことに魔術師を守る何かは、エリカの力をもってしても、かすり傷一つつけられないという事になる。


「再開の喜びはさておき、そこの少年。何故あなたは一人で戦おうとするのです? 確か剣聖は全員で十四人いると聞いています。それだけの数があれば、私を討ち取ることもできるでしょう」

「できる。だけど多分誰かが死ぬことになる」

「なるほど、仲間の誰かが死ぬところを見たくない貴方は、命を懸けて私に戦いを挑むということですか」

「ふふっ」


 魔術師から怒気をはらんだ視線を感じる。笑うつもりはなかったけど、どうやら魔術師の気分を害してしまったらしい。


「悪いけど、貴方に僕の命を懸けるほどの価値はないよ」

「口だけは達者なようですね」


 魔術師が僕から視線を外した隙を狙い、隠し持っていた礫を指先で放つが当たる寸前で砕け散ってしまった。砕けた音に気が付いた魔術師が笑う。


「無駄ですよ。その程度では破れません」

「ねえ、アラタ。逃げよう」

「急にどうしたの」

「自分でもわかっているでしょ。今のままじゃ、アイツには勝てない。だから」


 背後に立つエリカの声は微かに震えていた。


「エリカ。ここで逃げるわけにはいかない。さっきも言ったけど剣聖全員で戦えば、あいつは倒せる。間違いなく」

「だったら!」

「でも誰かが死ぬ。わかるはずだよエリカ。数が増えれば戦力は確かに上がる。だけど的が増えれば君の治癒の力も間に合わなくなる。今しかない。犠牲を出さずに勝つには、今しかないんだよ」


 剣と火球が行き交う合間を縫うように、僕は魔術師を追いかける。体の真横を通り過ぎる炎が肉を焼き、足元で燃え盛る炎に焼かれ、痛みが全身を貫いていく。だが、それでも足を止めることはない。


「どういうことでしょう。不死身ですか貴方」


 魔術師の顔色は相変わらず見えないが、身体のダメージに構うことなく突っ込んでくる僕に動揺を隠せないらしい。聖女の奇跡ともいうべき、治癒の力。それは重度の火傷すら瞬く間に癒してくれた。

 すれ違いざまに振りぬいた刃は、またしても見えない壁に阻まれる。


「貴方の努力は買いますが、きっと徒労に終わりますよ。さぁ、もっと剣聖としての力を見せてください」


 渾身の力を込めて振り下ろした聖剣も魔術師の体には届かない。それどころか振りの大きさが災いして、攻撃の隙を突かれ火球を撃ち込まれる始末だった。火球に当たる寸前のところでエリカの剣に救われ、物陰へと飛び込むように身を隠した。


「重い、重すぎる」


 限りなく本心に近い一言に、エリカの身体がぴくりと震えた。


「でもでも、大事な剣だよ。私が守り続けてきた聖剣だよ!?」

「大事なのは分かっているから、ここまで持ってきたけど……」

「また、要らないって言うつもり?」


 自身が憑りついていた聖剣という建前と実績のせいで、愛着は人一倍あるらしい。それ故、ぞんざいな扱いをする僕にご立腹のようだ。


「でも、まあ、調子は戻ってきたみたいだね」

「どういうこと」

「気が付いてないの。あいつの顔を見た途端に、眉間に皺が寄ってたよ」

「そんな事」

「あるでしょ」


 エリカは顔を伏せた。


「生前に何かあったのは大体察したよ。あいつとは並々ならぬ因縁があることも。でもね、エリカ。今、君は一人じゃないよ」


 背後で爆音が轟いた。敵もなかなか慎重なようで、僕らを物陰からあぶりだすつもりらしい。


「僕とエリカ。どちらかが迷えば、死ぬのは僕だ。エリカと同じように幽霊になるのも悪くはないけど、僕はこんなところで死ぬつもりはない。という訳で、聖剣はここにを置いていくよ」

「……はい?」


 間の抜けたエリカの事は置いておくことにして、僕は足元の岩盤に深々と聖剣を突き刺した。


「これなら、ちょっとやそっとじゃ抜けないでしょ。それにこの見た目。選ばれし者にしか抜けない聖剣っぽくない」


 エリカは吹き出すように笑うと、目元に浮かんでいた涙を拭った。


「シンクも言っていたけど、アラタ君は本当に突拍子もないことをするよね」

「勝つために手段を選ぶ余裕はないし、勝率は少しでも上げておきたいから」

「それが、聖剣を突き刺す事?」

「そう、これで少し身軽になった」


 手に携えた武器は、長より授かった黒檀の仕込み杖。長が若かりし頃から、幾多の魔を葬り去ったと言われる代物は、手にしているだけで心強かった。


「行くよエリカ」


 物陰から飛び出した僕らを魔術師は拍手をしながら迎えてくれた。


「作戦会議は終わりましたか」

「おかげさまで」

「ふむ、見たところ剣を一本手放しただけに見えますが、まあいいでしょう。戦いはまだまだこれからです。楽しませてください」


 左手を鞘に添え、右手で黒檀の杖を握り腰を落とす。魔術師にとっては見慣れない構えなのか、警戒をして不用意に近づいてくることはない。

 好機だ。

 曖昧な距離を保ったままの奇術師の懐へ一足で踏み込むと、かすかに息をのむ声が聞こえた。平静さを装っている仮面を剥がすことが出来たのは、なんとも小気味がいい。

 すぐさま抜き放った刃は硬質な音に阻まれる。抜き身すら視覚することができない居合に、魔術師は足元がおぼつかない様子でたたらを踏んでいる。しかし、繰り返す斬撃が己の体に届かないことを悟ると、次第に平静さを取り戻していった。


「ふは、どうやら私の術が一枚上手だったようですね」


 背後へと周り込んだ斬撃も、幾度なく弾き返される。


「後ろに回っても無駄ですよ、私の防御壁は絶対に破ることはできません」


 魔術師の手のひらから放たれた熱風が身を焦がしていく。身体に纏わりつく熱風を吹き飛ばすエリカの剣。放たれた剣と火球がぶつかり合い、勝負の軍配はエリカに上がる。

 魔術師の術を蹴散らした剣は、見えない壁に阻まれ、その場で爆散した。視界が土煙で塞がれたにも関わらず、魔術師は手当たり次第に火球をどんどんと放っていく。それを紙一重で躱し、縦横無尽に剣戟を走らせたが、全て防がれてしまった。

 何一つとして成果をあげることができない結果に思わず舌打ちをしたくなるが、手を緩めるわけにはいかない。エリカの治癒のおかげで、まだまだ体の切れが衰えることはない。しかし、身体よりも先に音を上げたのは刃の方だった。

 数えきれないほど振りぬいた白刃は、とうとう砕けちってしまった。


「嘘……」


 砕けた刀身をエリカは茫然とした様子で見つめていた。魔術師は、僕の唯一の武器が砕かれた様を見て笑った。湧き上がる感情が抑えられないのか心底嬉しそうに声をあげた。


「ここで、お終いのようですね」


 炎を纏った手が、段々と僕の顔に近づいてくる。勝利を確信したかのような緩慢で余裕すら感じる振舞いに、僕の身体は震えた。湧き上がる激情を抑え、心を澄ませる。そして根元から砕けちった刀を鞘に納め、居合の姿勢から抜き放った刃は目が眩むほどの光彩を放つ。

 魔術師、そしてエリカが驚きのあまり目を見開いている。

 放った光の斬撃は、魔術師を守っていた堅牢な壁ごと術師を切り裂いた。

ご都合主義は好きですか?

筆者は大好きです。

ご覧頂き有難うございました。

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