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二人三脚

 以前、聖女に言われたことがある。貴方がもつ聖剣は、いつか災いを起こすと。


「エリカさんには感謝を、そして言葉では言い表せない程の恩を感じています。ですが」

「それとこれは話が別、ってことだよね。気にしていないよ。アンちゃん」


 魔術師と異形を生み出す汚泥の討伐を終えてから一月が経った後、僕とエリカは教会に呼び出されていた。


「私も心苦しいのですが、国の重鎮たちは聖剣の災いがいつ降りかかるのかと恐れているのです。それに、アラタ様が手にしている聖剣は元々聖国が所持していたもの。ああ、今更とやかく言うつもりはありません。返していただければ、問題にするつもりもありませんから」


 ネロは申し訳なさそうに頭を下げた。聖国の重鎮たちの意向という事もあり、僕とエリカは黙って受け入れることにした。


「ねえ、何か喋ってよ」


 帰り道、エリカは寂しそうに言った。


「お別れになるのかな」

「そうだね。でも、少し時間ももらえたし、まだ一緒にいれるよ」

「それでも寂しい、かな」

「ちょっと、急に真面目な顔していわないでよ。私も……寂しくなる」


 途切れた会話の後に訪れる沈黙に、居心地の悪さを覚えてしまう。


「エリカ、ありがとう」


 苦し紛れの中、口に出したのは感謝の言葉だった。


「君のおかげで、僕は強くなれた気がする」

「初代剣聖の私からみたら、まだまだですよ。うん、まだまだアラタ君は強くなれるよ」

「僕もエリカみたいに、剣を飛ばす業を使うことが出来るかな。遠距離で狙い撃てば怪我しなくてすみそうだし」

「訓練次第かな~。でも威力が高いから室内で使ったら大変だよ」

「もしかして使ったことあるの」

「あるある、何度もある」


 他愛のない話をエリカとするのが好きだった。背後から聞こえる足音。慌てた様子で駆けてきたアンは、息を切らして苦しそうだった。


「少しだけ、お時間いいですか」

「聖女様じゃないですか。さっきぶりですね」

「あの、アラタさん、聞きたいことが一つあります。本当に、良いのですか。エリカさんとお別れすることになっても」

「決めましたから」

「覚悟はできた、ということでしょうか」

「はい」


 僕はそう答えた。エリカと目が合うと、彼女は黙ったまま頷いてくれた。


「わかり、ました」


 沈痛な面持ちで彼女は頭を下げると、来た時と同じように元来た道を駆けあがっていった。陽が落ちた街に、街灯が灯りだす。


「さあ帰ろうか。明日、剣の里に戻るから、少し早めに休むとしよう」


 一月後、約束の日に教会を訪れるとアンが待っていてくれた。


「じゃあ、これが約束の聖剣」


 布袋に入った聖剣を取り出し、引き抜きぬいて見せた。曇り一つない刀身は太陽の光を浴び、輝いていた。眩しそうに目を伏せたアンに聖剣を手渡した僕は、その場を後にする。後ろから呼び止める声が聞こえたが、立ち止まることなく曲がり角をまがった。

 ずいぶんと身軽になったな。

 腰にぶら下げていた聖剣の重さに悩まされることがなくなったのは幸いだったが、失われてしまうと途端に寂しくなる。なんだかんだ言いながら愛着があったのだと、今更ながらわかった。

 幾年もの間、エリカが憑りついていた聖剣。聖剣と共に、繰り広げてきた戦いを懐かしいとすら思えるようになっていた。


「ねえ、怒られないのかな」


 物思いにふける僕に、エリカが話しかけてくる。


「今更? 一月近く前のことを掘り返されても困るよ」

「だって、砕けて無くなった仕込み杖の刀身は聖剣を溶かして再利用させてもらいました、なんてバレたら何を言われるか」

「大丈夫だよ、剣の里の鍛冶師は口が堅いから、僕達が口を割らなければ誰にもバレないよ」

「それに渡した聖剣だって、適当に打ち直したものでしょう」

「まあ、何かあっても大丈夫だよ。怒られるだけだから。それに僕には、エリカが必要なんだ」

「……その言い方はずるいなぁ。聖国の人たちが追いかけてきたらどうするの」

「その時は逃げよう。こう見えて鬼ごっこは得意だから」

「アラタ君がどう見えるかは置いといて。逃げるのか、んーどうしようかな」

「?」

「走り回って汗臭くなったら、また言われちゃうからなー。それだけは嫌だな」


 僕の背後から伸びてきたエリカの腕によって、彼女の体の方へ引き寄せられる。


「ねえねえ、私もう汗臭くない?」


 エリカは里で僕に言われたことをまだ覚えていたらしい。何気ない一言のつもりだったが、どうやら彼女にとっては違ったらしい。あの時の仕返しだと言ってエリカは笑った。それにつられるように僕も笑ってしまった。


「ねえ、これからどこに行こうか」


 最下位の剣聖でありロストナンバーと呼ばれる僕は、初代剣聖であるエリカと共に旅に出る。行先は特に決めておらず、彼女曰く気の向くままに旅を謳歌したいらしいので、それもいいかなと考えている。

 まだまだ世間を騒がせる憑き女と剣聖が旅をする姿は、多くの注目を集める事になるだろうが、まあ何とかなるだろう。


 後に、聖女に渡した偽物の聖剣に気付いてしまった13人の剣聖に僕は追いかけられることになり、文字通り死力を尽くした鬼ごっこが繰り広げられることとなるが、それはまた別のお話。

以上で完結となります。

拙作ではありますがお楽しみ頂けたのなら幸いです。

更新がなくなる以上、本作は間もなく小説の海に沈みますが、ふと思い出した時に掬い上げて頂けたのなら、それに勝る喜びはありません。

ご覧頂きありがとうございました。

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