二人三脚:魔術師
教会にある一室へと集められた十三人の剣聖。彼らは黒と赤を基調とした剣聖の正装に身を包み、呼び出した人物の到着を待っていた。部屋の扉が軋んだ音をたてながら、ゆっくりと開いていく。
全員の視線が集まる先には、アンとネロの姿があった。頭を下げたネロが一歩前にでる。
「この街より遠征していた兵士たちが、狂宴の魔術師と呼ばれる魔の存在を見つけました。場所は、この地より南に向かった先にある村」
「狂宴の魔術師?」
「道化の仮面を被った得体の知れない魔術師です。ですが強大な魔の力を操り、一説によると遠い昔に初代剣聖と刃を交えたことがあると聞いたことがあります。各地で起きた魔の憑依や異形の出現等、この度の混乱を起こした張本人である可能性がとても高い」
「よく見つけることができましたね」
アリスの問い掛けに、ネロは頷いた。
「聖女様の力をもって、発見することが出来ました」
アリスの視線がアンを捉える。アンは眼を合わせようとすることもなく黙ったまま目を伏せた。
「ここに皆さまを呼んだのは他でもありません。魔の存在に対抗できるのは、剣聖をおいて右に出るものはいない。つまり貴方達には魔術師の殲滅をお願いしたいのです」
「その前に一つ、聞かせてもらいたいことがある」
「エイト様。どうかなさいましたか」
「ここにアラタを呼ばなかった理由はなんだ」
「アラタ様。確か14人目の剣聖の方ですね。聞くところによりますと、剣の里では長い間14人目の剣聖は現れなかったとのこと。それに、与えられる番号は実力順につけられるという噂も耳にしたことがあります。アラタ様の実力を疑う訳ではありませんが、この件につきまして失敗は許されない為、遠慮いただきたいと聖国は考えております」
「なら13番目である私は、このメンバーの中で最下位ということになる。ということは、私の実力も疑われているということかな」
「御冗談を」
ネロは笑いながら首を横に振る。
「キング様の実力は、私の耳にも届いておりますよ。学園で起きたトラブル解決に一役かったと。剣聖の名に恥じない働きぶりには、腕前を疑う余地はございません」
滑らかに言葉を紡ぐネロに、キングは小さくため息をついた。
「あと皆様には黙っていましたが、実はアラタ様とは一足先にお話をさせていただきました」
ネロの突然の告白に、ざわめく剣聖達。それはリーダーであるアリスも例外ではなかった。
「何を話したのか会話の全てをお話しするわけにはいきませんが、アラタ様と話していて感じたことがありまして」
「ネロ様、それは一体なんなのでしょうか」
「アリス様。彼は、剣聖として認められたいのではないでしょうか」
「認められたい?」
「ええ、彼は剣聖の中でも末端である14番目。剣聖と名乗るには力不足ではないのか、皆の役に立てているのかと疑問に思う事もあるでしょう。挙句、剣聖の順位以上の働きをせねばと名誉を求めて飛び出してしまうかもしれません。そんな心のうちにある不安や妬みを刺激しないように、この度の殲滅戦からは一歩退いてはもらえないかと、お願いさせて頂きました」
「本人はなんて」
「大変悩まれていたようですが、納得していただくことが出来ました」
「……わかりました。魔術師の殲滅については、まだ後日伺わせていただきます。ありがとうございました」
己の願いを快諾してくれたアリスに対し、ネロは深々と頭を下げた。それからゆっくりとした動作で戻ると、アンと共に部屋を後にした。
「名誉に目がくらんだか、傑作だね」
「まったく、そんなものとは無縁な男だろうに。アリスもそう思うだろ」
最初に口を開いたのはキング、続いてシンクだった。二人の言う通り、アラタが名誉や己の立場に固執するわけがないというのは剣聖全員の認識だった。
「あいつは、いつだってシンプルだからな」
「困った人を放っておけない質ってだけだろ」
ナインとトレイは席を立つ。それに続くように、他の剣聖達も席を立ち始めた。
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「ねえアラタ君」
「どうかした?」
「さっきの話はどう思いますか」
「どうって、足を引っ張るから来るなっていう話のこと」
「そこまではっきりと言っていなかったと思うけどね」
エリカは少し呆れたのか、乾いた笑みを浮かべている。遠まわしではあったが、そう言っていたのは間違いない。だからこそエリカも気を使ってくれているのだろう。まあ、正直に言うと話の内容はほとんど覚えていないのだが。
剣聖の集まりに参加を出来なかった僕は、持て余した時間を潰すためにエリカと共に街をふらつくことにした。気の向くままにエリカと散歩をしていると、負傷した多くの兵士たちが街へと戻ってくるところに出くわした。
「こんなところで何をしている」
負傷した兵士の様子を見ていた僕に話しかけてきた……誰だ。
「自警団にいたカイトだよ、アラタ君」
「ああ、カイトか。……カイト?」
「お前な……まあいい。南の村に魔が現れたらしい。それも規格外の存在らしいぞ。あの負傷した兵士たちも応戦したらしいがまったく歯が立たなかったという話だ。まったく国を守る聖騎士たちのくせに不甲斐ない連中だ」
ぶつぶつと呟き始めたカイト?と別れ、宿に戻ってくると受付には珍しい人が立っていた。
「お父さんが受付にいるのは珍しいですね」
「こんにちは、アラタ君。私も少しは心を入れ替えたつもりだよ。家族だけでなくエイト君にも色々と迷惑をかけてしまったね」
「困ったときにはお互い様ですよ。ところで今朝からシズクとお母さんの姿が見えませんが、どこかにお出かけですか」
「ああ、二人なら母方の祖母のところに出かけているよ。ほら、最近はなにかと物騒だろう。状況が落ち着くまで南のはずれにある村なんかじゃなくて、我が家に居てもらおうかという話になってね。朝一番に馬車で出かけたから、そろそろ南の村に着く頃だろう。アラタ君? そんなに慌てた様子でどうしたのかい。アラタ君!?」
これから最終章となります。
完結まで残り五話程度
最後までお付き合い頂ければ幸いです。




