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聖女護衛:エリカの剣

「どういうつもりだ」

「これ以上、話をしている時間はないと思います。きっと異形の包囲網は、だんだんと狭められているはず。今、最善の選択肢も時間が過ぎれば下策となる。決断すべきだよ、シンク」

「執事さん、アン。馬車に乗って」

「アラタ、お前どういうつもりだ」

「いいんだよ、シンク。分かってくれて有難う。アラタ」

「? どういたしまして」


 儚い笑みを浮かべるユウの手から、僕はブレスレットを取り上げた。


 「え」


 そして、ブレスレットにかけられていた封印を解いた。というより魔石で飾られたブレスレットを素手で握りつぶした。


「簡単に壊れた。粗悪品だ」

「お、おおお、お前……」

「な、なにしているのアラタ!」


 二人は狼狽えた様子で僕を見ていた。馬車に乗り込んだ二人も似たような感じだった。


「何って、壊しただけだ」

「僕の話を聞いてなかったの!」

「聞いてた、聞いてた。でもそんな震えた体で無理をするなよ」


 僕の指摘に、ユウの顔は一瞬で真っ赤になった。


「気丈に振舞たって怖いものは怖い。長い付き合いだからね、言わなくても伝わるよ。そんな風に怯えるくらいなら一緒に戦おう、って言ってくれた方が嬉しいけどね」

 

 僕の肩を唐突に掴んだシンクは、体の向きを強引に自分の方へと向けさせた。


「お前は、本当に、突拍子もないことをするな。わかるだろう、この地響きが」

「地震みたいだよね」

「能天気な事を言っているんじゃない! さっきもいったが命を捨てさせる真似はさせないと言ったはずだ。私達だけなら、まだいい。でもここにはアンと執事さんが居るんだぞ。お前の勝手で彼女たちの命まで危険に晒すつもりか!」

「晒すつもりはないよ。でもユウの案を選んでいたら、きっとユウは死んでいた。そんなことになれば、僕は彼女たちを恨む気がする」

「……護衛の仕事は、時としてそういう場合もある」

「その割には、シンクの顔は全然納得してないけどね。それに話してる時間ないよ」

 

 こうしている間にも地響きの揺れは段々と大きくなっている。


「ああ、くそ!」


 シンクは担いでいた戦斧を構えた。


「まったく、異形を生み出す汚泥を正面から迎え撃つなんて……三人しかいないんだぞ。剣聖の技を以てしても、異形の核を見つけるのは至難の業なのは分かっているだろう!」

「その役目は私に任せて」


 僕の肩にふわりと舞い降りたエリカ。彼女の周りで円を描くように回転する剣が一本、二本と増えていく。闇夜を切り裂く程の眩い光を放つ剣の輝きに、二人は目を細めた。


「おい、冗談だろ。この輝きは」

「言っただろ。正面から迎え撃つのが一番だって。僕達だけなら無理だけど、エリカがいる」

「周りに人気もないし、全力で行くからね」


 幾多の閃光が、濁流となって迫る異形を生み出す汚泥を穿つ。切り裂かれた痛みに耐えかねた汚泥は奇声上げる。それと同時に、剣より湧き上がる爆炎が迫りくる濁流の勢いを殺し、核となる輝石をあっという間に曝け出した。

 赤黒く光り輝くクリスタルは、心臓のように一定のリズムに合わせて鼓動を打っている。


「そこか!」


 シンクが投げた戦斧は核であるクリスタルを捉え、爆炎によって吹き飛ばされた汚泥ごと粉砕した。

 汚泥は、ばしゃりと音をたてて地面に零れ落ちた。核を失った汚泥に異形を生み出す気配はなく、黒い液体は地中に吸い込まれていった。

 村を飲み込み、街を滅ぼす災害級の異形をエリカはたった一撃で葬ってみせた。桁外れの強さに、ただただ茫然と立ち尽くすシンクとユウをしり目に、エリカは微笑んでいた。


「本当にありがとうございました」


 死地から抜け出した僕達は、アンを無事に街に送り届けることができた。僕らとの別れを惜しむアンは執事と共に深々と頭を下げ、僕達の姿が見えなくなるまで手を振ってくれた。


「なあシンク帰らないのか?」


 依頼人と別れたにも関わらず、道端にうずくまり頭を抱えたままのシンクに声をかける。


「多分、アリス達はもう街に戻っているはずだ」

「だろうね」


 歯切れの悪いシンクの顔を覗き込むと、思いつめた顔をしていた。


「帰りたくない」

「は?」

「帰ったら、絶対アリスに怒られる」

「年下のアリスがそんなに怖い?」

「アラタ、私は年上だろうが年下だろうが認めた相手に対しては対等に接するのが信条だ。つまり対等である以上、怒られることが怖いと思うのは自然な事だろう」

「シンク、だからってこのままずっとここに居るわけにはいかないよ」

「おいしいものが食べたい……」


 怒られる前の景気づけなのだろうか。いつもの気丈さの欠片もないシンクは、親に怯える子供のように見えた。そんな顔を見せられては付き合うしかないだろう。


「わかったよ、シンクの食べたいものに付き合うよ」

「いいのか?」

「よくはないけど、放ってもおけないからね」

「ふふ。私はいい仲間を持った。こんなこともあろうかと、前もってユウと行ってみたい店を決めておいた。そこに行くとしよう」


シンクは僕とユウの腕を掴み歩き出した。


「こちらへどうぞー」


 カラフルな色遣いをした店内をフリフリのドレスを着た店員に案内され席に着いた。普通の喫茶店とは一味違うファンシーな内装をしている店に僕達はいる。


「話を聞いた以上に、内装……だけじゃなく、何もかもがすごいな。私にこういうところは、似合わなくないだろうか」

「店員が着ている制服が売っているみたいだよ。シンクも着てみたらどうかな」

「おい、それは冗談のつもりか」

「どちらかといえば、怖いもの見たさかな」

「ほう、良い度胸だ。表に出ろ。お前が選んだ制服を着て相手してやる」

「ねえ、二人ともそんなことより選んでよ」


 シンクに連れてこられたのは街で話題になっているデザートが食べられるというお店だった。甘いものが食べたいというシンクの要望と、以前からこの店に入りたかったというユウの意見を総合した結果、ここにたどり着いた。

 ユウ曰く前から気になっていたが一人では入りにくく、期会を伺っていたらしい。熱心にメニューに目を通していたユウは、ふと我に返ったようにメニューから目を離した。


「ごめん。なんかは夢中になっちゃった。ねえ、やっぱり変かな。男なのにこういう場所に来るの」

「男らしいが何かは、女である私にはわからないが。そうやって楽しそうに選ぶ姿は、ユウらしいな」


 照れ笑いするユウに、僕は一枚のメニューを差し出す。


「これが買うことが出来る制服らしい」

「もう、アラタ。からかわないでよ」


 怒る素振りをせ見ていたが、ちらちらメニューを覗き見しているという事は、まったく興味がないというわけではないらしい。


「今日は、リーダーの奢りでいいのかな」

「え、本当? お姉ちゃんも食べていいかな」

「確かに、エリカさんの活躍は目を見張るものがありましたけど…周りの目が、いえ気にしないでください」

「うん? 聖剣の守護霊として恥ずかしくない活躍をした私と私の聖剣をほめてください」

「じゃあ、トッピング全部乗せでいこうか」

「なっ!? おい、アラタ。お前が勝手に決めるな」


 騒がしくもにぎやかな時間が過ぎていく。


「これで私は頑張れる、怒られても大丈夫」


 ぶつぶつ呟くシンクが気になるが、言葉通り頑張ってもらうことにしよう。後日、ナインに出会うと美女三人に囲まれていたらしいなと因縁をつけられたが、説明するのも面倒だったので自慢することにした。

次は幕間一話挟みます

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