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聖女護衛:生き残るために

「アラタはどこまでいったのでしょう。焚き木を拾いに行ったにしては、遅くありませんか」


 アンの何気ない一言に、ユウとシンクはハッとしたように顔をあげた。ただならぬ雰囲気を感じ取ったアンは、二人に倣うように辺りを見回し始める。そんな三人の耳に聞こえてきたのは、草木を早足で踏みつぶす音だった。


「来るぞ!」


 飛び込む様な勢い戻ってきたアラタは聖剣を片手に構え、脇に抱えていた執事を焚火の傍に手荒に手放した。それと同時に、アラタの背後から異形がとびかかった。

 アラタが振り向きざまに振り払った剣は、異形を捉え切断する。


「囲まれてる。シンク達は、随分とのんびりしていたみたいだね」

「あぁ、済まないな。少し、昔話に花を咲かせてしまった」


 僕の嫌味にシンクは悪びれることもなく、僕の肩を軽く叩いた。


「少しは元気になったみたいだね」

「どうだかな。だけど、焚火をぼうっと眺めていたら色々思い出してな」

「例えばどんな?」

「アラタが鼻血を出して倒れていたこととかな」

「そんな思い出は忘れてしまえ」


 心配して損した。


「忘れてなんて言わないでよ!」

「何、どうしたの」


 急に怒り出したユウは質問にも答えてくれず、無言でそっぽを向いてしまった。どうやら気が付かないうちに機嫌を損ねてしまう事をしたらしい。


「あ、あの」


 僕達の様子を黙ったまま見ていたアンは、小さく手をあげた。


「異形が迫ってきているのに、こんなことをしていて大丈夫なのでしょうか」

「大丈夫も何も辺り一面を異形達に包囲されています。急いだところで逃げ道はありませんよ」


 愕然とした様子で、未だに地面に伏せたままの執事を見るアン。


「アラタ様の言う事は、本当です。私達は焚き木を拾いに行くついでに、辺りの様子を伺ってきましたが、どこもかしこも異形であふれていました」

「そんな、なぜこんなことに」

「この中に裏切り者がいる」

「え?」

「始めはそう考えたんだけどね」


 馬車に置かれたアンの荷物を手に取り、シンクに投げ渡した。


「この場にいるのは五人」

「私は数にいれてくれないの?」

「……エリカを入れて六人。剣聖が貴方を裏切ることはあり得ない。まして魔の勢力に加担するなんてもってのほかだ。だとすれば、裏切り者は執事さん」

「そんなわけありません!」

「僕もそう思う。自分の命を捨ててまで、聖女一人の命を狙うなんて馬鹿げている。まあ、貴方の命を狙う人の中にはそういう人もいるかもしれないけど」

「落ち着いてください聖女様。アラタ様は、異形に襲われた私を助けてくれたのです。そして至らぬ私を抱え、闇夜の中を火も灯さず駆け抜けてくれたのです。異形達を切り伏せながら」

「これは……何だ」


 アンの荷物を漁っていたシンクは、一つのブレスレットを興味深そうに眺めていた。


「それは、聖国を出る前に頂いたものです。魔除けになるようにと」

「なるほど魔除けか」


 銀のブレスレットを彩る大小の輝石は赤く鮮やかに輝いていた。


「こうして、手に取るまでわからなかったが……これは魔除けというよりも、魔寄せだな」

「え?」

「アリス達の話はにわかには信じ難かったが……なるほど、こうして目にすると信じる他ないな。これは、宝石ではなく魔石とでもいうべきだ。ともかく、辺り一面に現れた異形達は、こいつにおびき寄せられたのだろう」


 ブレスレットを受け取ったユウの顔が、わずかに歪む。


「魔が凝縮されたような気配を感じます。でも、こうして直接触れないとわからないなんて」

「こうなってしまっては、足を止めたのは失策だったな。まったく聖国の連中どもめ、なめた真似をしてくれるじゃないか」

「これからどうする。リーダー」

「周囲を囲まれているだけなら、包囲網を突破した後、馬車で一気に駆け抜ければいい。だが、アラタ。お前は言ったな、逃げ道はないと。つまり異形以外にも敵がいるのだろう」

「異形を生み出す汚泥」

「最悪だな」


 異形を生み出す汚泥。赤黒く輝くクリスタルが核となっていること以外、詳細は謎につつまれている。

核を覆い隠すように、真っ黒に染まった泥は絶えず蠢き、時には濁流のように木々を押し流しながら、街や村を襲う事もある。そして泥に触れた生物は泥に絡めとられるように飲み込まれた後、異形の仲間となる。


「つまり異形を生み出す汚泥は、このブレスレットを探しているわけか。ご丁寧に異形達にまで探させている。下手に逃げたところで核を破壊しない限り、異形を生み出す汚泥は再生する。剣聖とはいえ三人で相手をするのは自殺行為に等しいな。アラタ、ユウ。一応聞いてみるが、何か良い案はあるか」

「正面から迎え討つ」

「馬鹿者、真面目に考えろアラタ。却下だ。」

「でもでも、私なら出来るかも」

「エリカ。あなたまで馬鹿な事を言わないでください。この無鉄砲な男のせいで色々と大変な目に遭ってきたのでしょう。きつく言っておくので、後で話を聞かせてください」

「私の方が年上なのに、怒られちゃった」


 そんなことを落ち込みながら小声で喋るエリカの頭を撫でた。


「一つ提案が」


 神妙な顔でユウが手をあげる。


「異形を生み出す汚泥の狙いが、聖女ではなくブレスレットであることはわかりました。恐らく、魔石の気配を隠している封印を解くことで、あいつはこれを飲み込もうと襲い掛かってくるはずです。その隙をついて馬車で脱出しましょう」

「だが、封印を解けばすぐ様、ブレスレットを追ってくるはずだ」

「ですからブレスレットと馬車はなるべく離しておくことがベストです。つまり、誰かが馬車から離れた場所で封印を解く必要がある。そして、この中で一番身軽に動けるのは僕だと思います」

「悪いがそれも却下だ、ユウ。言ったはずだ。私は命を捨てろなどという命令をするつもりはない」

「だけど、それ以外に道はありません」


ブレスレットを握りしめたユウは僕らから一歩遠ざかった。

あと一回くらい投稿したいです。

ご覧いただきありがとうございました。

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