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聖女護衛:アンジェラ

 宿屋の食堂で夕食を済ませると、アリスが静かに席を立った。珍しく緊張した様子の彼女の姿に、周りにいた剣聖達は自然と目で追っていた。


「みんな、少しいいかな」

「構わない。何かあったことは、その様子を見ていればわかる」


 エイトの言葉に、アリスは頷いた。


「今朝、私、いや私達に依頼があったの。依頼の内容は聖女の護衛」

「……なるほど、中々大変な依頼になりそうじゃないか。しかし、それなら全員を集めた方がいいんじゃないか」


 キングの言う通り、食堂にいるのは、アリス、エイト、キング、シンク、ユウ、デューク、そして僕を含めた七人だった。


「いえ、今のままで構わない。必要なメンバーは揃っているから。まず、聖女の護衛をするにあたって、剣聖14人を四チームにわける。そして各チームのリーダーはこの場に居る人に任せるつもり。ここに居ないメンバーへの説明はリーダーに選ばれた人にお願いするね」

「わかった。ところで、アリスは誰に聖女の護衛をまかせるつもりだ。私達を四チームに分けたとしても、聖女を護衛できるのは1チームだけだ。その重要な役を誰に与えるつもりだ」


 シンクは不敵な笑みを浮かべながらアリスを見た。


「それはもう決まっているわ」


 聖国の門の前で止まる馬車の数は十を超えていた。


「僕達だけじゃなかったようだね」

「アリスの話だと護衛は多ければ多い方が良いって、聖国から要望があったみたい」


 馬車に腰をかけながら、僕とユウは馬車で行き交う人々を見ていた。


「それにしても、柄が悪いな」

「アラタ、あまりそういうことは声に出さないでもらえると助かるかな」


 ユウは苦笑いをしていたが、態度から察するに僕と同意見だったらしい。偶に聞こえてくる争いの声や喧嘩に頭を悩ませながら、僕達はリーダーの帰りを待ちわびている。


「待たせたな」


 僕達と同じようにフードを目深にかぶったシンクが、ようやく馬車に戻ってきた。外見を隠しているのは無用な争いを避けるため。それに剣聖であることがばれたら嫌でも注目を集めてしまうので肩書を偽ることにしていた。


「方針は決まったの?」

「ああ、当初の予定通り聖女様には剣聖の馬車に乗ってもらう」

「どの馬車に乗るかは、まだ決まっていないの」

「ああ、聖国の方達はやけに慎重でな。事前に情報が漏れてしまうことを懸念して、ぎりぎりまで決めないつもりらしい。まあ、事前に剣聖が乗る馬車の位置は伝えておいたから、問題はないと思うが。全く面倒くさい連中だ」

「そ、そう。ところで、聖女様がどの馬車に乗ったかわからないように偽装も施すって聞いたけど、シンクは何か聞いている?」

「それはアラタに教えたはずだが」

「シンクが戻ってきてからでも遅くはないと思ったから」


 僕はシンクから受け取っていた一つの荷物をユウに手渡した。


「これは?」

「服だよ。普段聖女様が着ているものを、聖国の人たちが用意してくれた」

「服なのは見ればわかるよ。……僕が着るの?コレ?」

「僕には似合わないし、シンクはちょっと」

「ちょっとっていうのは、どういう意味だ」


 言葉よりも先に手を出すのは辞めてもらいたい。僕の頭が、シンクの腕にがっちりとホールドされ徐々に締め上げられていく。流石に痛い。


「アラタ。お前は私がリーダーだと理解していながら、そんなことを言っているのか」

「大事なところで間が抜けているシンクを心配しているだけだよ」

「ほう。今の状況のそんなことを言えるなんて、良い根性をしているじゃないか」

「つ、つまり消去法でチームの中で僕が一番適任だったってことだよね」

「ん、まあ私が着てもよかったが、サイズがちょっとな」


 一度試してみたんだな。


「この三人の中で言えば、ユウの背丈やスタイルが聖女様に近いらしい。周りの目を欺くために必要なことだ。済まないが我慢してくれ」

「僕なら大丈夫だよ、シンク。じゃあ早速着替えてくるね」


 心なしか声が弾んでいるユウを僕達は見送った。


「あの……。こちらの馬車は、私を護衛してくださる方たちのものでしょうか」


 僕とシンクが振り返ると、白いフードとローブに身を包んだ女性が立っていた。そして身なりのいい初老の男性が一人、女性の傍らにいた。


「そうです、ようこそいらっしゃいました」


 シンクは、服の中に隠していた剣聖のエンブレムをちらりと見せた。


「ああ、よかった。はじめまして、わたくしアンジェラと申します」


 フードを目深にかぶっているせいで、聖女様の顔をはっきりと確認することが出来ない。


「私はシンク。そして、こちらがアラタ。もう一人は偽装の準備をしております。道中危険なことが多々あるとは思いますが、よろしくお願いします」

「こちらこそ、よろしくお願いいたします。あの、一つお願いがありまして出来れば普段友人と接する様に話してはもらえませんか」

「いえ、それは流石に。同じ馬車に乗るとはいえ、貴方は聖女様。本来、私達のようなものが対等に話せる立場にはありません」

「そんなことはありません。貴方達がいなければ、私は街にたどり着くことすら出来ないのです。私の為に命を懸けてくれる貴方達とは、対等の立場で居たいのです」

「私からもお願いいたします。何卒、聖女様の願いをかなえては頂けませんか」


 今までのやり取りを見守っていた初老の男性が頭を下げる。


「この旅の間だけで構いません。聖女様のわがままを聞いては頂けないでしょうか」


 突然の事に、戸惑いを覚えたのは僕だけではない様で予想外の事にシンクも珍しく狼狽えていた。


「判断はリーダーに任せるよ」


 問題を丸投げされたことに、シンクは怒気をはらむ視線を向けてきたが、無視することにした。シンクがいら立ちを吐き捨てるように一つ咳ばらいをする。その際、眉間にしわを寄せてしまう癖のせいで、聖女様が若干ビビっていた。


「そういうことなら、私達のことは遠慮なく呼び捨てで呼んでください。私達も聖女様とは呼ばず、アンジェラと呼ぶことにしますから」

「私の事は気兼ねなくアンとお呼びください」

「わかりました。アン、これより出立の準備に取り掛かります。その間、馬車の中でお待ちください。その間の護衛は、アラタが努めます」


 シンクは、初老の男性と共に馬車から離れていった。


「僕の肩が気になりますか?」


 僕の問い掛けに、アンはびくりと体をふるわせた。


「すみません。失礼な事だとは分かってはいましたが、さきほどから気になってしまって」

「気になっているというのは、私の事かな」


 突然、姿を現したエリカにアンは驚きの声をあげた。


「え、ええぇ? こんなに姿形が、はっきりと見えるなんて」

「一応、言っておくけど憑き女じゃないからね」

「それはわかります。貴方様がもつ聖なる力が、ひしひしと伝わってきますから」

「聖なる力?」

「アラタ君は、なんでそんなな顔をするのかな。聖なる力を持つのは当然でしょう。だって、剣聖の里で祭られるほどの聖剣に、長い間憑りついていたんだから」


 エリカは得意げな顔で胸を張った。


「アン。準備ができたから、そろそろ馬車を出します」


 戻ってきたシンクは手綱を握る。


「ユウ、準備にいつまで手間取っている。そろそろ出てきなさい」


 シンクの言葉に引っ張られるように、馬車の中に張っていた幕の中から出てきたユウ。その姿に、アンは感嘆の声をあげた。


「まあ、とても綺麗な方ですね。剣聖の中には、貴方みたいに可憐な方もいらっしゃるのですね」


 用意された純白のローブに袖を通すだけでなく、髪型などよりらしく見えるようにアレンジを加えていたせいで、出てくるまでに時間がかかったのだろう。凝り性というか、手を抜かないというか、変なところで真面目なのは相変わらずだ。


「よく似合っているよ」


 色々思うことはあるが、最初に浮かんだ感想を口にすることにした。はにかみながら笑うユウ。喜んでくれたようで何よりだ。


「ところでアン」

「何でしょうか?」

「ユウは男ですから」


 それを聞いたアンはユウの姿を二度見した後、耳が痛くなるほどの大きな声をあげた。驚きすぎだ。

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