学園生活:殲滅戦
「人間ごときが、人間ごときがあああ!」
獣の遠吠えのように残響する声。死に際を悟り、本性をさらけ出した異形は、目に映る全ての物を破壊するかのように暴れ続けている。剣を叩きつけ、破壊された床が礫を散らす。砕かれた煉瓦の破片は吹っ飛び、至る所に風穴を開けていた。
「そこまでだよ」
身体を揺さぶるほどの振動と共に爆音が響き渡る。部屋を覆っていた壁の一部が吹き飛ばされたかと思えば、立ち上る土煙の中から姿を現したのはキングだった。
「毎度毎度、土煙をあげて悪いね」
キングは僕と巨人の間に割り込むように飛び込むと、拳を振りかぶった。瓦礫が飛び交う中、躊躇いもなく迫ってくるキングに、異形は虚を突かれたように動けないでいた。
渾身の力を込めて放たれた拳は、眩い閃光を放ち、異形を跡形もなく破壊した。
「やぁ、待たせて悪かったね」
「問題ないよ。来てくれて助かった」
「おいしいところをかっさらってしまったけど、相手の様子から察するに、虎の子の抜刀術を使ったようだね。もう少し、早く来れば見られたのかな」
興味深げに黒檀の杖を覗き込むキング、そしてエリカ。
「そんな技があるなんて、聞いてないけど~」
戦いにおいて手の内をさらけ出す危険性を彼女も理解しているはずだ。それなのに不満顔でこちらを見ているのはなぜだろう。
「相変わらず仲のいい事だね。こうして話していたいのは山々なんだが、学園内では問題が噴出していてね。君たちの力が必要だ。生徒たちは非常に混乱しているし、状況が状況だ。ここは一人でも多くの力を借りたい。エリカ、勿論君も力も貸してくれるね」
「いいの。私なんかいたら迷惑じゃない」
迷惑と言いながらも彼女はどこか嬉しそうな顔をしている。
「構わないさ。学園中を隅から隅まで駆け抜けながら魔を一網打尽にしてやろうじゃないか」
「いっとくけど、エリカの力は僕から見ても規格外だ。それこそ建物ごと吹き飛ばしかねない」
「はっ、そんなものは敵さんが破壊した事にしておけばいいじゃないか。知らない人から見れば、どちらが破壊したか分別はつかないだろう」
そんな無茶を平然と言い放つキング.。きっとこの状況が楽しくて仕方がないのだろう。問題なのは、それに触発されて、やる気になっているエリカだ。いつのまにか制服に着替えたエリカ。胸の窮屈さはキングが仕立て直してくれたらしい。制服を着て、少しでも学園の中に紛れこもうとしてくれる努力は買おうと思う。
「さあ、殲滅戦を始めようか!」
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オーウェンは震える身体で剣を構えた。突然現れた異形から身を挺して守ってくれたマリー教官は倒れたまま動く気配はない。オーウェンの前に立ちはだかる異形がじりじりと迫る。
切りつけられても平然としている異形は、オーウェンにとって恐怖でしかなかった。いくら切り付けようと手ごたえがない。まるで素振りでもしているかのようだ。
二足で立つ異形の両腕は、鋭利なかぎ爪のような形をしている。オーウェンが訓練用に身に着けていた防具は、爪によってきずをつけられ既にボロボロだった。着実に歩み寄ってくる異形。退くことはできない以上、前に進む以外に活路はない。だが、オーウェンは小刻みに震える足で立つのが精いっぱいだった。
ただ、幸いなことに剣を振るうことは出来た。問題は、剣の切っ先を向けた相手が躊躇う素振りすら見せないことだった。聖騎士である教官が敵わなかった相手。自身でどうにか出来る相手ではない事はわかっている。だからといって、彼女を置いて逃げるわけにはいかない。
大切な人を守りたい、ただそれだけだった。そう願った時、刀身が微かな白い輝きを放つ。光を纏った剣はあれだけ苦戦していた異形を容易く切り裂いた。異形はうめき声をあげると、砂のように崩れ落ちていく。
突如、発生した不可思議な力を確かめるように手元の剣を凝視するが、先程のような眩い輝きを放つことはなかった。限界まで達した疲労と肉体へのダメージはオーウェンから自由を奪い去る。体を満足に支えることが出来なくなったオーウェンは、その場に座り込んでしまった。
こうしている間にも、異形の群れが、オーウェンたちを目掛け迫る。オーウェンは、身体に残されたわずかな力でマリー教官を抱きしめた。命の危機が迫る中オーウェンは、今の自分を褒めてあげたい。そんなことをぼんやりと考えていた。
ただ一つ心残りなのは、異形を倒した姿をマリー教官に見せることができなかったことだ。どんな時でも見守ってくれた彼女の為、才能の片理すらない僕は懸命に、そして愚直に剣術を続けてきた。もし見ていたのなら、褒めてくれたのかな。その事ばかりが気になっていた。
「お疲れ様。よく頑張ったね」
労いの言葉と共に、二つの影がオーウェンの前に躍り出る。それは見覚えのある横顔だった。彼は、群れを成す異形の集団を前にしても怯むことなく駆け出した。手にした武器を一振りするだけで幾多の異形を瞬く間に切り伏せていく。
そして、彼らを囲うように周回する輝く剣は、異形に狙いを定めるように切っ先を向けると、矢のように射出されていく。剣は黒い影を切り裂き、閃光を放った後に爆ぜた。訓練場を埋め尽くしていた影は跡形もなく消え失せていた。
「思っていた通りだ」
「?」
オーウェンは、返事をするだけで精いっぱいだった。あれだけの数を相手にしたばかりなのに、彼は息一つ切らさず、平然とした顔で声をかけてくる。
「君にその気があるなら、剣の里にいる長を訪ねてみると良い」
「剣の里……って、あの剣聖を輩出している……!」
「きっと君も剣聖になれると思うよ」
キング「止めをさしたのは私」
本日も複数投稿の予定です。
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