学園生活:真剣勝負
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悪寒がデュークの全身を駆け廻る。
間違いない。やはり学園の中に魔は潜んでいた。そして、強大な力を持って今この瞬間に誕生したのだ。アラタの言った通り早く行動するべきだった。僕は、学校での体面を気にするあまり、彼のような考えに至らなかった。
アラタの考えを尊重する事ができなかった己を恥じながらも、どうするべきか逡巡する自分に愕然としてしまう。
そんな時、隣のクラスから悲鳴が聞こえてきた。窓際にいた生徒たちは声につられるように窓から身を乗り出し、下を見ている。視線の先にいたのは、3階の窓から飛び降りたアリスがいた。彼女は僕のように、学園生活に囚われず、己がやるべきを見失うことなく飛び立ったのだ。
それからわずか数秒後、今度は僕たちのクラスから大きな悲鳴があがった。視界の端に映捉えたのは窓から飛び降りようとしているキングの姿。彼女もまた、己の立場を見失ってはいなかったのだ。
生徒の方が板についてきたのかい、アラタに言われた言葉がデュークの頭の中で繰り返される。
デュークが窓から身を乗り出すと、かすかな悲鳴があがる。二人のあとを追うため、そして一人で魔と対峙しているであろうアラタのため。背後から聞こえる悲鳴を気にすることなく窓から飛び降りた。
産声はいつしか唸り声へと変わり、地を揺るがすほどのけたたましい声を響かせていた。黒い霧から生まれ出た異形は、筋骨たくましい偉丈夫だった。赤黒く変色した肌に、燃え盛る様な赤い長髪。その体躯は二メートルほどだろうか、とにかくデカい。
そして、はちきれんばかりの筋肉の鎧を身にまとい、丸太のように肥大にした腕で、僕の背丈ほどある巨大な剣を両手に握りしめていた。
「相手が剣聖ならば不足なし。未だ、あどけなさを残しながらも卓越した体捌き。そして洗練された技巧。これほどの相手は久々だ。剣を扱うものとして胸が高鳴るわ。剣の極致、真髄を味合わせてもらうぞ」
「極致を味合わせたいのは山々だけど、剣は
持ってきてないよ」
異形は、雄叫びをあげながら僕に迫る。黒檀の杖を構え、待ち構える僕にエリカは驚きの声をあげた。
「ちょっと……!」
エリカの言葉よりも速く、ぶつかり合う力と力。真正面からの腕力勝負は均衡には程遠く、鍔迫り合いをする暇もなく一方的な腕力の差によって、僕の体は再び後方へと吹き飛ばされた。
「なにやっているの!」
「いや、なんか相手に乗せられて」
剣聖としての自分をあんなに褒められたことは記憶にない。一人の剣聖として認められたことが嬉しくて舞い上がった結果、無様な姿をさらした僕。エリカが怒るのも無理はないな。うん。
踏ん張ることも出来ず、いとも簡単に吹き飛ばされた僕は瓦礫の上に身を横たえていた。腕力は遠く及ばず、背丈、筋力などを考慮すると、正面から打ち合って勝てる相手ではないのは分かり切っている、にも関わらず僕はあの巨人に真正面からぶつかりにいったのだ。
「そりゃあ、力負けするよね」
「他人事みたいに言わないで。わかっているなら、私も一緒に」
彼女が突き出した手を僕は握りしめた。彼女の背後に浮かび上がろうとしていた剣は光の粒子となり、霧散していく。
「……大丈夫なの?」
「相手は剣聖である僕との戦いを所望しているからね。僕も剣聖を名乗る以上、その意気に応えたいと思う訳です」
大丈夫だよと付け加え、一つ頷いてみせると、彼女は少しためらいながらも納得してくれた。
「骨は拾ってあげる」
瓦礫から体を起こし、握り直したのは旅に出てから片時も手放さなかった黒檀の杖。か細く華奢な杖が折れずに、衝撃によって破壊されったのは奇跡に等しい。しかし、先程のような衝撃を繰り返しもらえば砕け散る可能性を否定はできない。
だけど、このままやられっぱなしっていうのは性に合わない。
「名ばかりの剣聖かと思ったが、その眼差しを見る限り闘志に衰えは見られないようだな」
「うん、そうだね。さっきのは無しで。これからが本番」
「……勝負に本番も練習もない。戦いとは命を賭したやりとりのみ。これ以上失望させてくれるなよ」
「耳が痛いね」
再び地鳴りのような唸り声をあげ、とびかかってくる巨人。巨体に見合わない機敏な動き、そして勘発入れずに振り降ろされる刃。僕は迷うことなく、巨人の懐へと飛び込んだ。
「その判断良し」
普段持ち歩く聖剣と比べたら、羽のように軽い杖。そのおかげで相手が一度剣を振るう間に、倍以上の打撃を叩き込める。
「むぅ!?」
殴打した皮膚は蚯蚓腫れのように腫れあがる。痛みに顔をしかめた巨人は後退り、忌々しいと言わんばかりに杖を見た。致命的な一撃には程遠いが、この杖が僕にとって最善の武器であると改めて認識させられる。
「ただの杖ではないな」
「敵に種を明かす気はないよ」
歯を見せ豪快に笑う巨人。巨人はひとしきり笑うと、身を守る様に剣を体の前で構えると、僕目掛け三度の目の突進を繰り出した。肉を切らせ骨を断つがごとく、幾度となく殴打を浴びようが、巨人は歯を食いしばり、耐え続けた。
巨体の機敏さは時間が経っても失われることなく、何度も捨て身の突進を繰り返す。彼の目論見通り、数発、数十発と杖で殴りつけようが、巨体の足が止まることはなかった。つまり足が動く限り、戦法は変えず決着をつけようという訳だ。僕を一撃で仕留める自信があるからこその戦い方だろう。
ただし、いくら食らっても構わないという彼の目論見は間違っている。迫る巨体を横っ飛びで躱す。僕は腰を落とし、杖を左手に持ち直した。杖にそえられた右手を見て、彼は身を仰け反らせたが既に間合いの中。
黒檀の杖から覗かせた刀身の輝きに、巨人は目を大きく見開いた。抜き放たれた刀身は巨躯を深く切り裂き、致命傷ともいえる大きな傷跡を残す。
血を噴出しながら前のめりになる彼の目は僕の右手に注がれていた。
「仕込み……刀」
致命的な一撃を浴びた巨人は、荒い息を吐きながら僕を睨みつけていた。
ようやく主役の見せ場を書けた気がします。
一撃必殺は浪漫。
ご覧頂きありがとうございました。




