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学園生活:一枚上手な彼女

「やあ、お帰り」

「ただいま、デューク。ところで、何があったのかを聞いた方がいいのかな」


 ベッドに突っ伏していのデュークは顔を少しあげた。気のせいか訓練場で別れた時より、顔がやつれて見える。


「門限ぎりぎりの時間まで、キングに付き合わされた。……アラタはアリスと一緒だったのか」

「そうだよ。街を色々見て回ったよ」

「それなら楽しみようがあったな。僕の方は、無理矢理訓練場に連れていかれた」

「訓練場に戻ったの?」

「ああ、そうだ。教官の姿はなかったが模擬戦を見ていた人が何人かいてね。何をしに来たんだみたいな顔をされたよ」

「そのあとは?」

「キングが訓練場にある木人形を一つ残らず砕き始めたのさ」

「ドン引きだね」

「そうだろう。その場にいた僕は、はっきり言って心が砕けそうになったよ。逃げ出せてしまえばどれだけ楽だったか」


 そんなことを言いながらもデュークは、キングに最後まで付き合ったのだろう。面倒見の良すぎる彼の性格から考えれば、途中で見放すなんて考えられない。部屋の片隅に置かれた木人形は壊した分の補填の為に作っているのだろう。学園生活の中で木人形を造る羽目になるとは夢にも思ってなかったはずだ。

 再びベッドに顔を突っ伏したデューク。しばらくすると、やすらかな寝息が聞こえてきた。着替えもせずに寝てしまったデュークにエリカは毛布をかけた。


「珍しいこともあるものね。しっかりしているデューク君が、制服のまま寝るなんて」

「言っておくけど彼のペースをあれだけ狂わすことができるのは、キングだけだよ」


 翌日の朝、学園の廊下で偶然にも副将を見かけた。聞いた話だが、副将の周りには普段から人だかりが出来ているらしい。それをなせるのは、彼の美貌と人徳によるところが大きいという話だったが、どういう訳か今日は一人で登校していた。

 同級生だけでなく上級生、下級生を問わず信頼を集め、物事の中心になっていたという。だが不思議なことに、彼が声を掛けても誰一人として彼の傍に寄ろうとはしない。素っ気ない態度に苛立った様子の彼は、僕に気が付くことなく校舎から出て行ってしまった。

 教室の一角にできた人だかり。その中心となっているのはアリスで、彼女は親し気にクラスメイトと話している。クラスメイトの一人がアリスの手に触れると、興奮した様子ではしゃいでいた。

 昨日の悲しげな様子とは打って変わり、自分の手を誇らしげに見せるアリスに驚いていると、見覚えのある一人の女生徒が、僕の方へと近づいてきた。


「ペンは剣よりも強しとは言ったものですね。私がつくった新聞は見て頂けましたか」

「新聞? いや、まだだけど」


 見覚えのある彼女はたしか、新聞部だった、はず。


「では、こちらをどうぞ!」


 彼女はカバンから取り出した一枚の紙を半ば強引に押しつけてきた。見出しのタイトルは――剣聖の告白。となっていた。……はい?


「昨日の中庭での話を記事にさせていただきましたよ」

「は?」

 

 この人は突然、何を言っているのだろうか。そして新聞の記事には僕とアリスが剣聖であると書かれている。こうなってしまっては潜入した意味がないのでは。


「やはり私の目に狂いはなかった。先に取材をしたデュークさんには否定されましたが、昨日アリスさんにようやく剣聖であることを認めてもらえることができました」


 きっと根負けしたんだろうなー。アリスは一生懸命な人に弱いから、彼女の必死さに心を打たれたのではあるまいか。


「あ、もちろん中庭での会話を記事にする許可は、きちんともらいましたよ」

「僕は許可した覚えはないけど?」

「え、アリスさんが気にせずバンバンやっちゃってと言っていましたよ。そんな細かいことを気にする小っちゃい器じゃないと」


 そう言い放った彼女の顔には疚しさの欠片もなかった。きっと、アリスの言葉を真に受けて記事を書き上げたのだろう。その晴れ晴れとした顔には清々しさすら感じる。


「インタビューの待ち合わせ場所だった中庭で、偶然アリスさんとアラタさんの話を耳にしてしまいました」


 その言葉に、背筋にぞくっとしたものを感じる。偶然といったが本当にそうなのだろうか。あの大樹の前で見せた弱気な姿は、もしかして演技だったのか。


「彼女の健気な思いと仲間を想う貴方の言葉。とても感動しました。それに比べて、あの副将の態度は酷いものでした。性別を問わず人気はとてもありましたが、女性にあんな暴言を吐いてしまっては、その人気も跡形もなくなってしまいますよ」


 副将が苛立っていた原因はこの新聞に違いない。ざっと目を通してみたが副将の暴言や横暴が事細かに書かれていた。嫌悪感を抱いてしまうほどに。


「おっと、そろそろ予鈴が鳴る時間ですね。また機会があれば、色々とお話を聞かせてください」

 彼女は会釈をすると、そそくさと教室から出ていった。まだ聞きたいこと、言わなければならないことがあるというのに勝手なものだ。

 気が付けば、アリスの周りに出来ていた人だかりもなくなっていた。


「ねえ、エリカ」

「なーにー?」


 エリカは姿を隠したまま、僕だけに聞こえる声で返事をする。


「もしかして中庭にあの子がいたことに気が付いていた?」

「んー、それは秘密。でもこれでアラタ君にも女性の恐ろしさは伝わったのかな」

「……まさか、全てアリスの計算通り?」

「アラタ君が中庭に来るのは予想外だったんじゃないかな。でも、そのおかげで普通にインタビューに答え

るより、効果は倍増だよね。学園中を巻き込むほどの大事になったし、アリスちゃんを馬鹿にした副将君の面目は丸つぶれって感じだよね」


 僕の前の席に座るアリスがゆっくりと僕の方へ振り返った。そして僕だけに見える角度で、にやりと意味ありげな笑顔で笑いかけてきた。


「女性って怖いね」

「そうでしょ、そうでしょ」

今日も二回投稿の予定です。

ご覧頂きありがとうございました。

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