学園生活:決着
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「始め!」
開始の合図とともに走り出したアリス。彼女は、今までのように先手を相手に譲るような真似はしなかった。華麗な剣技から一転し、荒々しく力任せに叩きつけられる剣を何とか防いだ副将。その苛烈さにたたらを踏み、腰が引けてしまっていた。
しかし、躊躇うことなく幾度となく斬撃は放たれる。その数は計5回。絶え間なく、そして流れるような連携で相手の戦意を根こそぎ切り落としていた。
「……そこまで!」
終わってみれば、時間にして一分も経っていなかった。その桁違いの実力差に、もはや声援をおくるものは誰もいなかった。
「これで三勝だな」
「嬉しそうに言うんじゃない」
アリスは地面に腰を下ろした副将に近づいていく。
「大丈夫ですか」
副将は、差し出されたアリスの手を躊躇しながらも掴んだ。手を握った彼は、なぜか驚くような顔をしている。それから不思議そうにアリスの手を眺めていたかと思えば、口元が緩みだした。
「どうかしましたか」
「とても、とても素晴らしい剣技でした。私、いえ私達の実力では、貴方の足元にも及ばないでしょう」
丁寧な言葉遣いとは裏腹に、未だに醜い笑みを顔にこびりつかせている副将。あの不愉快な顔を見る限り、本音で話しているとは到底思えない。
「その卓越した技量と引き換えに、貴方を捨ててしまったのですね」
「……どういう意味ですか」
「自慢ではありませんが、私は女性との交友が豊富でして、その多くの女性との思い出を振り返ってみても、貴方のようにごつごつとした男らしい……。失礼、私が今まで触れてきた滑らかで絹のような手の感触とは程遠かったので、女であることを捨ててしまったのかなと思った次第です」
一拍の静けさのあと聞こえてきたのは、吹き出すような笑い声だった。今まで彼女が積み上げてきた奮戦の感動は崩れ去り、周りの生徒の嘲笑にアリスは狼狽えたように辺りを見回した。口元に手を当て笑う副将が、アリスの肩に触れようとしたその時。訓練場を揺るがす程の衝撃と轟音が、僕の隣で鳴り響く。
拳を地面へと叩きつけたキングの周りには、初戦で見せた時とは比べ物にならない程の高さで土煙が高く舞い上がっていた。瞬く間に無音となった空間でぼそりとキングが喋った。
「止めてくれるなよ。デューク」
「友人を馬鹿にされて僕が黙っているとでも」
試合そっちのけで臨戦態勢になる二人。
おののく周りの目を気遣う事が出来ない程にキレている。止めるのは不本意だが二人をこのまま野放しにする訳にはいかなかった。
「アラタ……、君が止めるなんて不思議なこともあるものだね」
「確かに。昔はユウが虐められれば、いの一番に殴りこんでいた君が止めるなんてね」
幼い頃を知っている幼馴染という存在は、本当に厄介だと思う。
「色々言いたいこともあるだろうけど、まずはアリスを見なよ。子供の頃のユウみたいに泣きべそをかいているわけじゃないだろう」
その一言にアリスは冷静さを取り戻し、僕達を見て微笑んだ。いきり立つ二人を、その場にとどまる様に手で制止した。
「まだやれるよね」
「もちろん」
手をひらひらとさせながら、アリスは剣を構える。ついに最後の対戦相手である大将が前に出てきた。
「知っているだろ。アリスは強いよ。剣も心も」
掴んでいた二人の腕から徐々に力が抜けていく。どうやら納得してくれたらしい。
「始め!」
試合開始の合図と、金属音を響かせながら剣が舞い上がったのは同時だった。聖騎士である教官が最強と認めた大将の剣を、アリスは一瞬のうちに跳ね上げていた。
「これで勝負はつきましたよね」
静寂に包まれた訓練場。誰もその場から動こうとはしなかった。聖騎士の教官でさえも。踵を返し、こちらに戻ってくるアリス。僕達は茫然と立ち尽くしたままの対戦相手を一瞥することなく、その場を去った。
夕日が差す中庭。
手入れの行き届いた花壇と青々した芝生に覆われている中庭は、昼休みになると多くの生徒で賑わうが、放課後になると人影はまばらだった。中庭の中心にそびえたつ大樹のふもとに置かれたベンチ。
そこにアリスが座っていた。
僕は無言のまま、彼女の前に立つ。彼女は僕が来るのを待っていたかのように、驚くこともなく微笑んだ。
「もしかして、慰めにきてくれたのかな」
「似たようなものかな」
「ふふ、優しいね」
アリスは体を少しずらした。どうやらベンチ座れという事らしい。しばらくの間、会話もなく互いに黙ったままベンチに腰かけていた。
「ねえアラタは私の手を見てどう思う。あの人が言ったように、ごつごつして女らしくないかな」
「そんなことない」
それだけは断言できる。
「うん、ありがとう」
アリスの笑顔は、どことなく余所余所しい。苦し紛れに放たれた副将の言葉が、アリスの心を酷く動揺させているらしい。
「……理不尽だな」
「え?」
「長年一緒にいる幼馴染の言葉よりも、ほんの少し出会っただけの人の言葉の方がアリスの心に届くなんて理不尽だ」
「そんなことないよ。でも私は剣聖になるためにずっと頑張っていたから、体の傷とか気にかけたこともなかった。それにしても、あんな風に人を傷をつける方法もあるんだね」
「繰り返すけど、あんな言葉を気にする必要はないよ。僕はそれだけを伝えにきたんだ。それじゃあ、行くね」
まだ用事があるから。とは言わなかった。しかし、公衆の面前で、いや場所は関係ない。アリスを、仲間を侮辱する行為の代償はきちんと払ってもらわなければならない。幸いにも門限までにはまだ時間が残されている。学園内を探し、それなりの報いを受けさせる時間は十分あった。
ただ気になるのは、僕の考えを見通しているはずのエリカが、一言も言葉を発しないことだった。
「ちょっと、待ちなさい。私の事をこのままにしていくつもり? こういう時の幼馴染の役割はね、傷ついている私の為に、色々な場所に連れて行ってくれるものなのよ」
「既に元気になってない?」
「細かいことは置いときなさい。ほーら、さっさと行きましょう。偶には他の生徒みたいに、もっと放課後を楽しみたいの」
結局、僕の腕を強引に掴んだアリスと共に街に遊びに行くことになった。街をめぐりつつ、仲間が集う宿屋にも顔を出した。制服姿を見て羨ましがるものもいれば。
「制服デートとか羨ましくないし!」
と泣きながら走り出す仲間もいた。結局、その日の放課後はアリスに付き合う羽目となり、僕の目的は達成できなかった。
「今日は有難う。なんだかんだ、ずっと付き合わせちゃったね」
「いや、僕も楽しかったから」
その一言にアリスは満面の笑みを見せた。
「ふふ、そう言われると何か照れる」
アリスは、何かを思い出したかのようにひとさし指を立てた。
「あ、そういえば」
「どうかした?」
「模擬戦をした上級生の皆さんは、学園祭の準備とかで夜遅くまで校舎に居るから、今は寮にいないらしいよ」
「学園祭の準備?」
「それに最近寮での生活を見直すため、一部屋一部屋抜き打ちで検査するらしいから、外出も禁止だって」
……もしかして、僕がしようとしていたこと見抜かれているのか。
「というわけで余計な事考えずに、早く寝なよ」
アリスは手を振りながら、女子寮へと戻っていった。
「ねえ、エリカ。もしかして僕が考えていたこと見抜かれていた?」
「もしかしなくても、バレバレだったね」
今まで一言も喋らなかった癖にエリカは当然と言わんばかりに胸を張った。
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