学園生活:挑戦状
男の子は急に近づいてきた僕に驚き、素振りを止めてしまった。しくじったかな。
「あの、どうかしましたか」
「見学させてもらおうかと思って。気が散るならどこか行くけど」
「い、いえ、大丈夫です」
とは言いながらも、やはり気になるようでちらちらと僕を見ている。
「あ、あの」
その時、背後から聞こえた声に振り返ると先程の聖騎士と同じ鎧を身にまとった女性が立っていた。
「あなたも聖騎士ですか?」
「え、あ、はい。そうです。私も先輩と同じように教官として教壇に立っています」
内気に見える彼女は、おどおどした様子で僕を見ていた。
「どうかしましたか」
「貴方がワーナー教官に褒められた生徒ですよね。……貴方の目から見て、この子の剣さばきはどうですか」
「僕の意見よりも教官である貴方の言葉の方が彼にとって励みになるのでは?」
「いいんだよ先生」
少年は少し不貞腐れたように、再び素振りを始めた。
「僕は体がみんなより小さいし、力もない。劣っているのは自分でもわかっているから」
「違うの、そうじゃなくて……」
彼女は何かを言いかけたようだが、少年は聞く耳を持たず、一心不乱に剣を振るい続けている。愚直に同じことを繰り返す少年がなぜ気になったのか、今分かった。そして何故懐かしく思えたのかも。
彼が振るう太刀筋は僕とよく似ている。剣を習い始めたばかりの昔の僕にとてもよく似ているのだ。
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学園内に建てられた寮でくつろいでいると同室であるデュークが帰ってきた。声を掛けてみたが、返事はなく深いため息だけが聞こえてきた。
「おかえり」
「おかえり、じゃない。君は一体何をしている」
「何って……」
部屋に置かれているのは勉強用の机とベッドが二つ、そして部屋の中央にテーブルが一つ。僕とエリカは中央のテーブルで彼の帰りを待っていた。酒を飲みながら。
「学園に潜入しているとはいえ、生徒と同じように生活をしなければならないということを理解しているのか。それに学園に入る際、持ち物検査があっただろう。どうやって持ち込んだんだ」
「彼女の懐に、こう持たせて」
「まったく君というやつは……エリカさん。貴方もこの男をつけあがらせる真似は控えてください」
「たまにはいいかなって……」
「……まったく、アラタ。ほどほどにしておくんだぞ」
「意外だね、もっときつく言われるかと思ったけど」
「待ってくれ。僕はそこまで頭の固い人間に思われているのか」
「そういうわけじゃないよ。ところで新聞部の彼女の話はどうだった」
「他人事のように言うな。ただの学生かと思っていたが、どういうわけかとても勘が冴えている。恐らく、今後も付き纏われることになると思うが、隙は見せるなよ」
話から察するに剣聖であることは隠し通せたのだろうか。デュークは制服から部屋着に着替えると僕の前にある椅子に腰を下ろした。僕は空いたグラスに酒を注ぎ、デュークに差し出した。彼はグラスを前にして少し考えこんでいたが、受け取ってくれた。
「お疲れ」
軽く合わせたグラスは耳鳴りの良い音色を奏でた。
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目を覚ましたデュークは上半身を起こし、辺りを見渡した。窓から見える空はまだ暗い。アラタとエリカと共に、酒を飲んだところまでの記憶はあった。さほど飲んだ記憶はないので吐き気はない。鈍く頭に響くような頭痛は寝ていれば自然に治るだろう。そんな事より彼には気になることが一つあった。
「あの、エリカさん」
「ん、デューク君。こんな夜更けにどうしたの」
それは、アラタと同じベッドで横になっているエリカの事だった。
「ふと目が冴えてしまって。ところでエリカさんは普段からそうしているのでしょうか」
「うーん、そうだね。最近はずっとかな」
そう言いながら、エリカはアラタの寝顔を愛おしそうに眺めていた。
「ちなみにアラタは貴方がそうしていることは知っているのでしょうか」
「多分、知らないと思うよ。こうしているのはアラタ君が寝ている時だけだし。恥ずかしがったら困るし、内緒にしてもらえると嬉しいな」
彼女は秘密ね、と言いながら唇に指をあてた。
「え、ええ。わかりました。アラタには黙っておきます」
「ありがとう」
彼女は、無邪気な笑みを浮かべ、再びアラタの顔を眺め始めた。これ以上話しかけるのは野暮だろう。そう考えたデュークはアラタ達に背を向けるようにして、ベッドに横たわった。
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「模擬戦?」
放課後、デュークと顔を合わせるといきなり物騒なことを言ってきた。
「なんで私達がそんな事しなければならないの」
「僕も突然言われて正直困っている」
デュークにしては歯切れの悪い答えにアリスは顔をしかめた。
「どういうこと」
「ある教官が話をしたいと僕のところにやってきた。聞かされた内容をまとめると、私が育てた自慢の生徒達と手合わせをしてもらいたいらしい」
「よし、断ろう」
「待てアラタ。この件に関しては君にも一端の責任があるぞ。まあ、半分八つ当たりみたいなものだけど」
「この学園に来てまだ数日だよ。恨まれることをした覚えはないけど」
「昨日、君たちは僕とアリスに新聞部の彼女を押しつけただろう」
押し付けた、部分をやけに強調してくる。どうやら根に持っているようだ。
「そのあと、どこにいった?」
質問の意味にしばし考える。思い出したのは訓練場での出来事。なるほど、ようやく合点がいった
「そういうことか」
「模擬戦と言い出したのは、君が昨日会った聖騎士からだ。アラタは私が育てた自慢の剣士に見向きもせず、訓練場の端っこで素振りをしていた生徒に目をかけていたとな。その非凡な観察眼が羨ましいと言っていた」
「はは、なかなか皮肉が効いているじゃない」
キングは愉快そうに喉を鳴らして笑った。
「笑い事じゃない。この学校には良家の人も多く、幼い頃から有名な剣士に剣術を習っていたりするらしい。それだけの研鑽を積んでいる人を無視して、何故凡才の剣士を気にかけたのかとしつこく聞かれたぞ」
そんなことを言われても正直困る。英才教育をいくら受けていようが、僕が見たところ剣術が多少上手位の印象しかなかった。
「アラタじゃないけど、行かないって言う手は? そんなことに巻き込まれたら嫌でも目立つことになるじゃない」
アリスは半ばあきらめた顔をしながら、デュークに問いかけた。
「残念ながら無理だ。実力者同士の戦いは滅多に見られないからと、既に人を集めているらしい」
「そんなことは、どうでもよくないか」
「何を言っているアラタ。売られたケンカは買うのが筋だろう」
やる気に溢れたキングは既に戦闘態勢に入っていた。
「まあ、アラタはそういうよね」とアリスは微笑む。
「予想通りだな」とデュークは首を振った。
「まったく君は仕方がない奴だな」となぜか嬉しそうにキングは言った。
駄目なやつとでも思われているのだろうか。そうならば心外である。
「模擬戦は四対四の勝ち抜き戦で行うと言っていた」
「はぁ、結局やるしかないのね。それで戦う順番はどうするの」
「一応僕が考えておいた」
結局のところ、武闘派であるキングをはじめ、己の研鑽に緩みのないアリスとデュークがいればこうなることは目に見えていた。重い腰を上げる気になったのは、相手がクラスメイトのような素人ではなく、そこそこの手練れであるということが分かったおかげだろう。
「キング、アリス、僕、最後にアラタ」
「僕が大将でいいのか」
「良いも何も君は元々参加するつもりはないだろう」
「まあね」
「まあね、じゃない。キングは適当に戦いつつ、適度なところで負けてくれ。最後はアリス、君が決めろ」
「私が全員を倒してもいいが」
「馬鹿な事を言うな、そんなことしたらを相手だけでなく、教官の鼻までへし折ることになるだろう。恨まれるような真似は辞めてくれ」
「わかったよ。デュークまで出番は回ってこないが良いよね」
「僕はこの後にも色々とやることがある。それにある程度、実力の差を見せつけておくべきだろう。中途半端な戦績を残して、再戦を申し込まれても困ることになるからな」
「委員長はずる賢いな」
「ずるじゃない、それに僕は委員長じゃない」
他愛のない話をしながら歩いているうちに、とうとう訓練場についてしまった。訓練場の中心には四人の生徒と、昨日見かけた聖騎士の姿があった。
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本日も二回投稿の予定です。




