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学園生活:転校生として

 学園の教室というものに初めて足を踏み入れた僕は、かすかな戸惑いを覚えていた。等間隔で綺麗に並べられた机に姿勢を正した生徒たち。無法地帯である里の教室とは、わけが違うとデュークは言っていたが、その通りだった。

 

 学園に潜入することになった僕達は二手に分かれることにした。僕はアリスとペアを組み、同じクラスメイトとして学園生活を送ることになる。デュークとキングも僕達と同様にペアを組み、隣のクラスへ転入していた。

 淡々と自己紹介を済ませ、一連の授業をこなし、ようやく訪れた放課後。気が付けばアリスのの周りには自然と人だかりができ始めていた。男女問わず、分け隔てなく快活に話す彼女は、転校初日にも関わらず見事なまでにクラスの中に溶け込んでいる。

 その場を離れ、隣のクラスを覗き込んでみるとデュークもアリスと同じようにクラスメイトの一員として馴染もうと積極的に話しかけていた。真面目で丁寧な物腰のおかげなのか、クラス委員の勧誘を受けていた。

 そして当初問題視されていたキングは、どうやら図書室に入り浸ることにしたらしい。アリスやデュークとは違い、誰とも打ち解けようとはせず黙々と読書に励むキング。熱心に読書をする姿がミステリアスな雰囲気を醸し出していると、注目を浴びつつあった。まあ内面を知れば、その噂など吹き飛ばされてしまうと思うが。

 一方、僕はというと心霊クラブの部長に部室にくるよう熱心に誘われていた。部室には見慣れない魔方陣がいくつも床に描かれていて、古い書物が床の上に無造作に積み上げられていた。

 心霊クラブの委員長は僕をの周りをくるくると回りながら、先程からじっと見つめている。


「ほかに部員はいないんですか」

「いないよ。憑依病が多発し始めた頃、みんな気味悪がって辞めたのよ。魔方陣によって部室が呪われているだとか、根も葉もない噂を流されることも少なくないよ」


 彼女は、そんな噂話をいちいち気にしていられない、と付け加えた。


「君は不思議に思うかもしれないけど、君の周りにはもう一人、誰かの気配があるんだ」


 驚くことに彼女には、魔や目に見えざる者を察知できる才能があるらしい。突然、自分の存在を言い当てられたエリカの動揺が僕にも伝わった。


「そう!今みたいな感じ!」


 どうやら彼女に隠し事は出来ないらしい。


「え? えぇぇぇ!?」


 突然、姿を現したエリカを見た部長は悲鳴を上げた。全ての事情を説明する訳にもいかないので、エリカは自我を持った幽霊として説明させてもらった。僕の話が終わる頃には、彼女の興味はエリカに引き寄せられていた。


「私にできることがあったら協力させてもらうよ」


 委員長はエリカの手を掴み、ぶんぶんと振っている。ここまで積極的な人を、どう扱えばいいのかエリカも困惑しているようだ。


「ところで悩みを聞く代わりと言ってはなんだけど……」


 この含みのある言い方は正直、嫌な予感しかしない。


「エリカさんの事調べさせて!」


 僕は彼女の申し出を丁重に断ることに決めた。

 ある日、運動着に着替えた僕達は学校内に併設された訓練場に並んでいた。


「剣術の授業は初めてだったよな」


 僕の隣にいた生徒が小声で話しかけてきた。


「……ああ」

「指導してくれる教官には気を付けた方がいいぞ」

「すごく厳しくて有名なのよ」


 会話に加わってきた女生徒は不安げに僕とアリスを見た。


「何を言われてもあまり気にしない方が良いよ。厳しい事を言う人でさ。剣を振るうことに覚悟をもたない人間は、剣を持つことすら認めてないって。何をしたって文句を言われるだけだから適当にこなしたほうがいいよ」


 彼女の手元にある模擬剣をちらりと見た。手垢で汚れ切った剣。訓練の際に欠けたのだろうか、刃の部分がいびつに歪んでいる。正直な話、教官の言葉に共感してしまった僕には愛想笑いを浮かべる事しか出来なかった。おそらくアリスも僕と同じ意見だろう。笑みを浮かべ僕と同じように愛想笑いをする彼女から微々たるものだが怒気が伝わってくるのがわかる。

 剣の扱い方から握り方に至るまで。正直彼ら、いや生徒たちの態度は褒められたものではなかった。


 しばらくすると、中年位の男性が僕たちの前に立った。白髪交じりの頭髪に、袖のない服を着た彼の腕にはいくつもの古傷が刻まれている。聞いた話では昔は歴戦の戦士と呼ばれていたこともあったが、年齢のせいもあって既に前線は退いているという事だった。しかし、たくましく鍛えられた体躯と鋭い眼光は前線を退いてなお、健在だった。

 彼は僕とアリスをみると一つ頷いて見せた。


「君たちが転校生か。俺の名前はワーナー、見ての通り剣術を教えている。まずは見よう見まねで良い。素振り。その後に模擬戦を行ってもらうとしよう。では始め!」


 僕は生徒にまじり、同じように素振りを繰り返した。すると教官が、こちらへと段々と近づいてくる。彼は僕の様子をしばらく観察していると、今度はアリスの方へ向かっていった。僕の時と同じように、しばらく様子を観察していると。


「そこまでだ、次は模擬戦を行う」


 ワーナー教官の指示に周りの生徒たちは声を掛け合い、二人組をつくり始めた。


「よう、模擬戦なんて初めてだろう。俺と組もうぜ」


 気安く声をかけてきたのは、授業が始まる前に隣にいた男子生徒だった。


「適当にやっておけば、うるさく言われないから大丈夫だよ。ほら適当に打って来いよ」

「待て」


 男子生徒の背後に立った教官は鋭い目つきで僕達を見下ろしていた。教官に睨まれた彼は、腰が引けてしまったのか、その場に座り込んでしまいそうなほど足を震わせていた。


「そいつじゃ力不足だろう。彼女とやったらどうだ」


 教官が連れてきた相手は、僕と同等のレベルで剣を扱えるということだろう。そんな相手、彼女の他に居るわけがない。


「本気でやったら、あとでお説教だからね」


 アリスは僕の耳元で、そうつぶやくと位置へとついた。目が笑っていないアリスに気圧された僕は、彼女の指示にあわせ剣を振るうことにした。僕とアリスの剣戟は軽快な音をたてて響きわたる。通常であれば、模擬戦を行う際は男女で別れて行うのが当然だろう。腕力の優劣が勝敗を決する一因となるのは素人でもわかる。

 しかし、アリスは例外だった。彼女は僕の剣戟をいなし、躱し、隙を見つけては巧みな一撃を放ってくる。男顔負けの剣さばきに一組、また一組と訓練を忘れ、剣を振るう手を止め僕達の攻防を食い入るように見ていた。

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