学園生活:潜入準備
宿屋に届いた一通の手紙と荷物。手紙の差出人は長からだった。
「長の手紙には何が書いてあった」
デュークの声に、アリスは手紙から目を離すと、テーブルの上に置いた。円卓を囲うように座ったのはアリス、デューク、キング、そして僕とエリカの五人だった。
「学園内で行方不明者が発生。原因を究明するため学園に潜入してもらう……。どういうことだ」
「デューク、そのままの意味じゃないかな。見てごらんよ、荷物には丁寧に制服が詰め込まれているよ」
キングは席を立つと、手紙と一緒に送られてきた箱の中から一着の制服を取り出した。
「この小さな制服は、きっと私のだろうね。私達の分だけでなく、十数着あるところを見るとみんなにも学生気分を味合わせようと、長が気を利かせてくれたのかもしれないね」
「違う、僕がいいたいのはそういうことじゃない」
頭を抱えるデュークは、かぶりを振った。
「学園内で起きている事件は、魔が関わっているということかな」
「アラタもそう思うか。僕も同じ意見だ。わざわざ剣聖を潜入させるという事は、十中八九間違いない」
「その為に、この制服か。なんとも手の込んだ試みだこと」
エリカは、キングの手元にある制服を興味深そうにじっと見ている。着てみたいのかな。
「エリカ、着たいのなら着ると良いよ。きっと君の主も喜んでくれるはずだから」
「話をそらそうとするなよキング。正直、この人選には問題があると思う」
キングの申し出にエリカは目を輝かせたが、デュークに話の腰を折られ、しゅんと項垂れてしまった。
「そんなに駄目だったかな。私はいいかなと思っていたけれど」
アリスは少し気落ちした様子で、デュークを見ていた。
「違う、僕が言っているのはアリスのことじゃない」
「アラタはすぐにサボるからな」
「キングは加減が出来ないからな」
僕とキングの態度にデュークは眉間をおさえた。
「アリスは君たち、いや剣聖全員が知っての通り人望を集める才能がある」
「そうだ。アリスは私達の自慢のリーダーだ」
「つまりデュークの不安材料は、僕とキングという事になるね」
同調する僕とキングに、デュークは再び頭を抱えた。
「一位と二位。そして13位と14位。上位と下位といったところか。つまり、私とアラタは落ちこぼれ枠だ」
「自分で言っていて悲しくならない?」
「全然、むしろ仲間がいると安心できる」
仲間というのは間違いなく僕だ。デュークは大きなため息をつくと、テーブルを軽くたたいた。
「もういい、聞いてくれ。僕たちが潜入する学園は、文武両道をモットーにしていて女性であろうと剣の訓練があると聞いたことがある。言うまでもないが、僕たちが剣聖であることは極力隠す必要がある」
「学園に潜む魔に、わたしたちの存在を悟らせないためだね。そして、急にアクシデントに見舞われたとしても対応できる戦闘力を持ち合わせる剣聖を長は選んだというわけかな」
キングの考えに、デュークは頷いた。腑に落ちない顔をしながら。
「まったく、それだけ物事を考えられるのに普段は何故ふざけたことばかりを考えている」
「心外だな。私は真剣にふざけているだけだよ」
悪びれる様子もないキングの態度に、デュークはとうとう机に伏せてしまった。どうやら、何を言っても無駄だと、ようやく悟ったらしい。会話がひと段落したところで、エリカが僕の肩を叩いた。
「ねえねえ、私も着てみても良いのかな」
エリカは僕を見ながらそんなことを聞いてきた。制服を胸の前に抱きしめながら。
「いいよ。着替えるのはキングに手伝ってもらいなよ」
エリカはキングの手を引っ張り、部屋の奥へと姿を消した。テーブルに伏せていたデュークは気を持ち直したのか、顔をあげた。
「学園長と長は旧知の仲らしい。だからこそ僕達に声をかけたのだろうな」
「手紙に書いてあったのは、潜入のことだけかい?」
「いや、手紙にはちょっとした騒動が里で起こったと書いてある。だけど、詳細については何も触れられていないから、大したことではないだろう」
「デューク。あまり気負わないで。私達は普段通りに行動すればいいのよ」
「アリス。そうはいかない、長から任された仕事だぞ、何としても成果をあげなければ長の顔に泥をぬることになる」
そんな小さなことを気にする人だろうか。仮に、失敗したとしても未熟者と笑われる程度で済む気もする。ほどなくしてキングとエリカが戻ってきたが、あれだけ楽しみにしていた制服は着ていなかった。
「エリカ、制服は着なくて良かったのかい」
僕の質問に、エリカは何も答えない。ただ悲しそうな顔をしているのが気にかかる。ちらりとキングを見ると、そっと耳打ちしてくれた。
「きつくて入らなかったんだ。胸が」
エリカは真っ赤な顔を隠すようにテーブルに伏せてしまった。
次は昼頃に投稿予定です。
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