剣聖テンプテーション:戦利品
「あ、貴方、少しは躊躇しなさいよ」
咄嗟に躱した性魔は肩で息をしている。
「流石だなアラタ、おまえならやると思ったぜ」
「アラタ、いま思いっきり行きましたね」
「いったいった、躊躇もなかった。……怖い」
今日で何度目になるかはわからないが、酷い言われようである。そんな僕を慰めるかのように、エリカは僕の頭を撫でてくれた。
「なるほどね、見た目じゃ誤魔化せないってことね」
不敵に笑う性魔は両手を前に突き出した。
「え」
アサギとルリが避ける時間はなかった。伸びた指先は鋭利な刃物のように尖っている。一つの武器で弾けたのは片方の爪だけだった。妨害を試みたナインのナイフはいとも簡単に弾かれてしまった為、もう片方の爪は、僕の体で受ける以外の選択肢はなかった。
「無理に動けば死ぬわよ、貴方」
僕の身体に突き刺さった五本の指。それは僕が体を動かす度に、じわじわと肉に突き刺さってくる。
「なに、本気!?」
剣の間合いまで距離を縮めることが出来た分、突き刺さった指が深く肉に食い込み、体を切り裂いていく。流れた血が、びたびたと不快な音をたて床を打ちつける。仲間が言葉を失う中、性魔の顔が次第に恐怖に染まっていく。性魔に向けて、渾身の力を込め聖剣を再び振り下ろす。
深く突き刺した指が仇となり体の動きが制限された性魔に躱す手段は残されていない。身動き一つとれないまま、振り下ろされた刃をその身に受け入れるしかなかった。
「化けも……!」
開きかけた口がそれ以上、言葉を発することはない。性魔とはいえ、首を落とされたら喋ることはできないだろう。
「アラタ。またか、お前! ああ、もう。傷を見せろ傷。おい姉妹、眼を閉じるな。止血だよ、止血!」
「ねえ、アラタ死んじゃうの」
「縁起でもないこと言うんじゃないよ!」
「でも、あれ? 血、止まっていますよ」
慌てふためいていたルリだったが、冷静に傷口を見極めようとしたナインとアサギ。ナインが傷口を確認するため、服をめくったが僕の体には傷一つついていなかった。ナインは僕の体と、切り裂かれた服を交互に見ている。
「まじだ、うまい事避けたのか。いや、でも血が出ていたしな、どういう事だ」
体を貫かれたときの激痛を覚えているし、床には流血の後が残されている。にもかかわらず、僕の体が無傷という事はなにかしらの現象が起きたという事だ。傷口を一瞬で直すという奇跡の御業ともいうべき現象。それを起こせるのは、僕から不自然に目を反らしたエリカだけだ。
傷を癒す奇跡の力。それは聖女と呼ばれる存在しか起こしえぬ奇跡の御業がエリカの手によって起こされた。
「まあ、あれだ。アラタ、とりあえず無事でよかったな」
「何、清々しい顔をしていっているんですか」
「街に憑依病を巻き散らかしている原因を探っていたのかなって思えば、あんなことしてるなんて」
双子は顔を膨れさせ、ナインの肩をバシバシと遠慮もなく叩いていた。
「いやまあ。そうだ、あのお香。あれでお前等動けなくなっていただろう。俺の機転で、お前らは体の自由を取り戻せた訳だし、プラマイゼロということでいいいじゃん」
ナインはそう言いながら、後ずさるように出口へと近づいている。片方の手は頭を掻き、もう片方の手は背中に隠したままで。
「何をもっているの?」
そんな違和感を姉妹が見過ごすわけがなかった。
「ちょっと待て。それは大事なものだ」
いつの間にか背後に回ったルリが、ナインの手から隠していたものを取り上げる。
「大事なものって、ただの紐じゃないのこれ?」
ナインの手に握られていた白い紐に見えるものを、姉妹はマジマジと観察していた。僕はそれを一目見たのちに、ナインを見た。僕の視線に気が付いたナインは、羞恥のせいか顔を隠している。同様に、背後ではエリカは深いため息をついていた。未だに紐を広げたりしている姉妹をエリカは手招きした。
その様子を見ていたナインは、脱兎のごとく走り出した。
「え、でもこれ」
「これで、その、隠せるのでしょうか」
エリカは姉妹の肩を抱き寄せ、なにかを話している。内容を聞き取ることはできなかったが、何を話しているかは大体予想がつく。姉妹は顔を真っ赤にしながら、自分たちが何を手にしていたのか。それが何のために、どのようなときに使われるのかを、エリカが事細かく説明するうちに、姉妹の表情が次第に変化していく。
エリカはようやく姉妹の傍を離れ、定位置である僕の背後にもどってきた。姉妹はナインが飛び出した扉をしばらく見た後。
「ど変態」
一言だけ呟いた。
本気で蔑む彼女たちを見る限り、ナインの判断は間違いはなかった。すまないが君のフォローはできそうにない。
この後、小話を二話ほど投稿します。
宜しければそちらもお願いいたします。
ご覧頂きありがとうございました。




