剣聖テンプテーション:姉妹の興味
「ナインってば、本当に馬鹿よね」
「アラタ、アリスにあまり心配をかけては駄目ですよ」
「そうそう、幼馴染だからって、物事には限度があるんだから」
「二人とも急にどうした」
二人は互いに顔を見合わせると、わざとらしく大きなため息をついた
「はぁー相変わらずだねアラタは」
「こんなんじゃ先が思いやられますね」
「アラタ君、なんだかルリちゃんとアサギちゃんの方が、君より大人に見えてくるんですけど」
「気のせいだよ。里から少し離れて、大人になった気でいるだけ。子供の言うことをいちいち真に受けなくていいよ」
子供という指摘が気に入らなかったのか、二人は同時に眉根をつりあげた。
「誰が子供よ」
「忘れたんですか。私達の方が順位は上なんですよ」
これ見よがしに取り出した剣聖のエンブレム。二人の言う通り、僕が手にしたエンブレムは剣聖の中で最下位である。だからといって気にかけたことはないのだが。どうやら二人にとっては重要なものらしい。
「二人で戦えば、そこそこいい線いくからね」
「そうそう。アラタに何て負けませんから」
対抗心を燃やし騒ぐ二人に僕は店のメニューを差し出した。
「わかった、わかった。お詫びに好きなのどうぞ」
「え、嘘、おごり?」
彼女たちの不機嫌だった顔はあっという元通りになった。どれを食べるかでおおいに悩み、笑いあう彼女達の笑顔は年相応のものだった。運ばれてきたお菓子を頬張る彼女たちをエリカは嬉しそうに見守っていた。
「えへへ、アラタありがとうございます」
「それにしてもエリカさんは大人な女性って感じでうらやましいな」
「ありがとうね、ルリちゃん。ほら、お口の周りを拭いて」
エリカは手にしたナプキンでルリの口の周りに残っているクリームを拭き取った。
「アリスも、そろそろ危機感もてばいいのに」
「でも、アラタのどこがいいのでしょう。不思議です」
食事をおごったというのに酷い言われようである。
「ねえ、エリカさんはなんでアラタの傍にいるの」
「ええ、いきなり言われても」
突然の質問にエリカは驚き慌てふためいている。
「うーんと、目が離せないというか。放っておけないというか、時折見せてくれる子供らしい一面に母性本能がくすぐられるというか……」
真面目な性分であるエリカは、悩みながら思いつく言葉を紡いでいる。その度に、二人が面白おかしく顔を見合わせているとも知らずに。このままにしておけば、エリカにとって取り返しのつかないことになりそうな気がする。どうすれば二人の興味を別なことに向けられるか考えていると、ちょうどいい相手を見つけることができた。
僕が手を振ると、さきほど別れたばかりのナインが晴れ晴れとした顔で近づいてきた。
「よう、まだこんなところにいたのか」
気味が悪いほど上機嫌なナイン。反面、ルリとアサギの二人は少し面白くなさそうだった。
「ナイン。無理に笑わなくてもいいですよ」
「うんうん、私達が慰めてあげるからパフェでもおごって」
「おごらねえし、慰めもいらねぇよ。そもそも無理をしている前提で話すなよ」
「だって、ねえ」
二人は珍しく歯切れが悪かった。普段であればあけすけにモノを言う癖に珍しい一面もあるものだ。
「里中の女の子達をナンパして成功したこと一度もないじゃないですか」
「最終的に妹に慰めてもらって、妹とずっと一緒にいるって泣きわめいていたじゃない」
「その話気になる」
「エリカさん、気にしないでください。よし、お子様にはパフェでもなんでもおごろうか!」
「で、今までなにしていたの」
「お、聞いちゃうの? 一皮むけた俺の話を聞いちゃうの」
上機嫌のナインは胸のポケットから一枚の紙を取り出した。
「女の子とデートの約束をしちゃいました」
照れ隠しに頭を掻きながら、一人一人の顔にわざわざ紙を近づけてくるナイン。紙には可愛らしい文字で、待ち合わせ場所と時間が書かれていた。ハートマーク付きで。
「本気で会うつもりですか?」
「やめた方が良いとおもうけどな」
二人の言う事に聞く耳をもつ様子のないナインは、首を横に振る。
「会うに決まっているだろ。モテ期が来た俺に妬かないでもらっていいかな」
「……だんだんイライラしてきました」
「アサギ、そんなに怒るなよ。まぁ俺の報告をゆっくり待ってなさいって。アラタ、あとで朗報を聞かせてやるからな。それと俺のあとをつけるような真似はするなよ。憑き女だけに」
浮かれすぎて何を言っているのかわからない。
「モテ期のナインにひとつお願いがある」
僕はテーブルに置かれた伝票を、ナインに手渡した。
「しょうがねえな。たまにはおごってやるぜ」
鼻歌交じりに店内へ向かうナイン。それから数秒後。
「ねえ、高くない!? 四人分にしては高くない!?」
そんなことを言いながらナインは戻ってきた。
本日最後の更新です。
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