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剣聖テンプテーション:裏切ったわけではない

「ナイン、出かけるのかい」

「おわ!? 急に声かけるなよ」

「そんなにきょきょろしてどうしたのさ」


 日に日に知り合いが増えていく宿屋。昨晩合流したナイン、ルリ、アサギ。新たに三人加わった宿はもはや里に居る時の状況となんら変わりがない。


「いや、今日はちょっと用事があって」

「面倒なことなら手伝おうか」

「いやいや、いいんだ気にすんな。おまえも色々疲れているだろ、今日くらい休んでおけって」


 ナインはじゃあなといいながら、そそくさと宿屋を後にすると、なぜか辺りを見回すように、歩き始めた。見つかってはいけないことでもあるのだろうか。


「なるほど、そういう訳ね」

「お姉ちゃんが傍にいるのに、アラタ君はこういうところ来ちゃうのね」


 違うといった所で説得力はないだろう。今にして思えば、ナインは人通りの少ない路地を選んでいた。

たどり着いたのは淫靡な外観が立ち並ぶ裏路地。ここにあるのは、いわゆる娼館と呼ばれるものだった。

ナインはその前で立ち往生しながら悩んでいた。


「うわっ! て、アラタか……驚かすなよ。つーかなんでこんなところにいるわけ」

「ナインの様子が気になってつい」


 文句を言いながらも、どことなく嬉しそうにも見える。


「流石親友、俺の気持ちが伝わったかな」

「気持ち?」

「まあ聞けよ、俺達剣聖になったじゃん。大人の階段上るなら、今がちょうどいいと思わないか」


 肩に手を回し、目の前にある娼館に入ろうとするナイン。心なしか僕の背中を押し、前を歩かせようとしている。こういう臆病な部分も相変わらずだな。


「結局、里じゃモテなかったと」

「違うって、隠れた魅力って言うのかな。そこらへんを敏感に察することができないのよ、あの里の連中は。剣一筋で生きている人が多いだろ。、それに比べてこの街の人はセンスがいいからさ。俺が街を歩いているだけで、声をかけてくるわけよ」


 それは何かの詐欺ではないかと思い、不安になってしまう。


「そのわりにはなんか震えてない?」

「ばか、お前。武者震いだよ。ところでさ、さっきからアラタの肩に抱き着いている彼女は何方なの」


 今更なのかと、思わず顔をしかめたが、ナインは気にするそぶりも見せず、視線はエリカに釘付けになっている。


「宙に浮いている? 憑き女って訳じゃないよな。そんなことより、美人じゃん」


 ナインは僕から離れ、頭を抱えだした。


「いやいやいや、話が違うじゃん。アラタに彼女が出来たなんて聞いてないって」


 ぶつぶつと独り言のように喋るナイン。朝という事もあり人通りはまばらだが、その誰しもが奇異な目でナインを見ていた。


「なにこんなところで騒いでいるのよ」

「相変わらずね二人とも」


 僕達の後をつけてきたのだろうか。声がした方を振り返ると、呆れた顔をしたルリとアサギがいた。


「お子様はちょっと黙っていて、親友と大事な話の途中だから」


 彼女たちの蔑む様な目を気にすることもなく、淡々としゃべり続けるナイン。


「約束したじゃん、卒業するときは一緒だぜって」


 とうとう身に覚えのないことまで、言い始めるようになってしまった。とりあえず、未だに一人の世界に入り込んでいるナインの手を強引にひっぱり、この場を離れることに決めた。


「ねえ。エロい店に入ろうとしていたってトレイにチクってもいい?」

「それはマジでやめて」


 裏路地を抜け、大通りにある適当な店に入る。ようやく一息ついたと思ったら、ルリの何気のない一言がナインを大いに焦らせていた。


「あと卒業って何ですか? 剣聖試験にはみんなで合格したじゃないですか」

「だから、それは俺とアラタの問題だから。お子様は口を挟まなくていいの」

「そんなこと言うなら、どういう意味か後で剣聖のみんなに聞いてみます」

「それもマジでやめろってば」


 アサギの追及にテーブルに額が付きそうなほど頭を下げるナイン。その様子をルリとアサギは意地の悪い笑顔を浮かべ眺めていた。


「感じ悪いですよナイン。もしかして、剣聖試験終了後に行った打ち上げに声をかけなかったことを根に持っていますか?」

「違うよアサギ。訓練が終わった後、いつも皆でご飯を食べに行っていたけど、ナインだけ誘っていなかった事がバレたからじゃない?」

「いろいろな事をぶっこまれて頭が追い付かねえよ。みんなで打ち上げ? 食事会? なんだよ、その情報。聞きたくなかったよ」

「嘘ですよ。そんなに怒ることないじゃないですか」

「本当にいい性格しているな! お前ら」


 ルリとアサギ、剣聖の中でも最年少である彼女たちにナインは翻弄されていた。


「なによりアラタに裏切られるとは思ってなかったぜ。聖剣に認められるってこういうことかよ。ちくしょー、知っていたらな」

「でも聖剣を手にしたのがナイン君だったら、認めなかったかも」


 エリカの一言にナインは膝から崩れ落ちそうになっていた。


「出会って数分にも関わらず、ここまで手厳しいこと言われる俺ってなんなのよ」

「ナイン君、大丈夫? 目に涙をためているみたいだけど」

「気にしないでください。どうせくだらない事でいじけているだけなので」

「ちっくしょー!!!!」

 アサギの一言が止めとなったのか、ナインはルリとアサギの手を振りほどき走り出した。娼館がある方へと。そんなに行きたかったのか。

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