街中魔窟:魔の狙い
更新のたびPV増えるのが嬉しいです。
「それで、貴方は一体何者ですか」
「えと、その……」
先程迄の強気の姿勢は微塵も感じられず、彼は正座をしたままこちらを見上げている。
……どうやら、やりすぎてしまったようだ。
周囲を取り囲んでいた異形は、エリカが放った剣によって跡形もなく消滅させられている。それどころか爆散した剣は、壁に大きな穴をあけている。異形と共に襲い掛かってきた本人も、今では顔を赤く腫らし、うなだれていた。
「アラタ君が殴りすぎるから、萎縮したのかな」
あれだけの異形を消滅させたエリカには言われたくはない。
「私は、魔の者です」
「うん、それは見ればわかります」
「ははっ、やはり若くても立派な剣聖ですね。流石でございます」
時折誉め言葉をまぜる喋り方に、むずがゆさを覚えてしまう。
「ご存知かとは思いますが、憑依をさせるのにも順序がございます。下準備としましては、心を蝕み憑依させる隙をつくります」
「負の感情を増幅させるという事だね。誘拐された子供はさぞ怖がるだろう」
「その通りでございます。そして、子供の心に生まれた恐怖を利用し、魔を憑依させ、徐々に心、そして体へと魔が浸食していくのです」
「その結果、人が魔人となる」
「仰る通りでございます。子供とはいえ魔人に変貌すれば、魔にとって貴重な戦力なります。そうして人知れず魔人となった子供などを街に潜伏させ、魔の軍勢がこの街に迫ったとき、内部より人を殲滅する大事な役割を果たすのです」
壮大な野望というべきか、とんでもないことを聞いてしまった。魔の存在を増やすという事は、洞窟で遭遇した彼女とも関係がありそうだ。
「ルサールカって名前に聞き覚えは?」
「ええ、ありますとも。私と同じように命令をうけて魔を人に憑依させていたはずです。その名前を御存じということはもしや」
「ええ、僕たちが殲滅しました」
男は、驚くこともなく恭しく頭を下げた。
「剣聖という力、正直みくびっておりました。それほどまでの力をお持ちとは、わが主が接触を避けるように厳命していたのも頷けます」
「主ってことは君たちのリーダーがいるわけだ」
「ええ、おります。ですが、正体は私達も知らないのです。なぜなら道化の仮面を被り、素顔を誰にも見せたことがないのです。ちなみに私が仮面を被っているのは、あのお方にあやかりたいという願望で」
「そんなことはどうでもいい。最後の質問。なぜ子供ばかりを狙った」
長い沈黙が続く。男は天井を見上げ閉じていた目をゆっくりと開いた。
「私、子供が大好きなのです。接することも、眺めることも、そして性的な……」
僕は躊躇うことなく彼の胸元に聖剣を突き立てた。
「がぁっっっ! 流石、剣聖の技。魔の存在である私が、徐々に崩れ去っていくこの感覚。たまりません」
身体に電流が走ったように、小刻みに体が震えだした。男の体は指先の末端から崩れ落ちている。にも関わらず、なぜか恍惚とした表情をして悶えていた。
「この感覚、素晴らしい。つかぬことを伺いますが、剣聖には貴方よりも年下で可愛らしい少女はいるのでしょうか」
頭に浮かんだのは、ルリとアサギの顔。ただ思い浮かべただけなのに、なんだか申し訳ない気持ちになってしまった。
「いるんですね! 残念だ、とても残念だ。出来る事なら私はその彼女に見届けていただきたかった。私が天に昇る姿を…昇天していく、わた……」
「ああ! アラタ君。この人まだ何か言いかけていたのに、首を刎ねるなんて」
いや、それ以上聞いちゃいけない気がしたのだ。
「もう、アラタ君はルリちゃんとアサギちゃんのお兄ちゃんみたいなものかもしれないけど、あまり過保護になっちゃだめだよ」
四六時中、僕を守ると言ってきかない貴方が言えることか。広間で二人の帰りをまっていると扉の奥から、泣き声が聞こえてきた。
「おい、泣くなよ、泣くなっていってんだろ……」
トレイの声は尻つぼみになって、最後の方は聞き取ることが出来なかった。その憔悴した顔みれば、それも仕方がない事かと思ってしまう。トレイが連れてきた十人の子供。その子供達は全員涙を流している。
その原因は強面であるトレイに違いないだろう。
すっかりと困り果ててしまった彼もまた泣きそうな顔をしている。本来子供と接することが好きなトレイにとって、助けた子供に泣かれるというのは衝撃的な出来事に違いないだろう。
その様子をしばらく眺めていると、今度は反対の扉の奥から次第に、集団の足音が聞こえてきた。
「ま、まって髪をひっぱるのは辞めてください」
ようやく姿を見せたセブンは、連れてきた男子に髪を引っ張られ涙目を浮かべている。
どれだけ説得しようと、子供たちは聞く様子はない。
「お兄ちゃん」
「カオリ、無事でよかった」
「お兄ちゃんが助けてくれたの?」
「僕だけじゃないよ、仲間と一緒にね」
子供たちは状況の整理がおいついていないのか、泣いたり、暴れたりとやりたい放題だ。途方にくれるなか、状況を一変させたのは、以外な人物だった。
「ほら、みんなこっちに来て」
手を叩き、子供たちの視線を一斉に浴びるエリカ。宙を漂う彼女の姿に驚く子供もいたのだが、段々と落ち着きを取り戻していく。
「みんないい子ね。すぐおうちに帰れるから大丈夫よ」
彼女の笑顔と優しい声音につられるように、子供達も笑みを浮かべ、慕うように周りを取り囲んでいた。
子供たちを連れ、外に出ようとしたところで屋敷の扉が開かれた。
「お、お前等」
自警団のリーダーであるカイトは扉を開いたままの姿勢で僕達を茫然と見ていた。
「よっ」
そんな彼の後ろから姿を現したのはアリスだった。
「みんな無事みたいだね。子供達も全員揃っているのかな」
「僕達には正確な数まではわからないよ。ここはこの街の専門家に任せていいんじゃないかな」
「おぉ、そうだな。この街のことは自警団に任せるのが筋ってもんだからな」
「わ、私はおなかが空きました」
僕達は各々、この状況に混乱しているであろうカイトの肩を叩いていく。
「じゃあ、あとよろしく」
これ以降の仕事は彼に引き継いでもらうことにした。
「お、おい。待て、俺はそこの女に連れて来られただけだ」
「貴方もリーダーでしょう。しっかりしなさいな。念のため、他の人にも声をかけたからそのうち来るわよ」
我らのリーダーであるアリスは、そう言い残すと彼に背を向けた。アリスは僕らの方を見ると姿勢を正し、わざとらしい咳払いをした。
「さて諸君、この度の働き、見事であった」
「あ? どうしたよ」
「魔の殲滅に加え、子供たちの救出。文句の付け所がございません」
「と、当然ですね。剣聖が三人もそろえば当然ですよ」
「従って、リーダーである私は貴方達の功績に報いるため一つの報酬を用意しました」
報酬という、魅力のある言葉に反応を示したのは僕だけではなかった。にやにやと笑うアリスが肩にかけていたカバンから取り出したそれは。
「酒じゃねえか!」
剣聖の中でもかなりの酒豪であるトレイは、眼を一際輝かせた。
「里のみんなから私達にって届いたの。だから今日くらい羽目を外して朝まで」
「飲もうじゃないか」
アリスの台詞を奪いながら颯爽と登場したのはキングだった。
「帰りが遅いから心配してきてみれば、こんなところで道草を売っているとはどういうことだい」
「ちょっと、キング」
「言い訳は聞かないよアリス。さあみんな急いで帰ろうじゃないか。アラタ、君にはアリスがエリカを押し倒したときの話を詳しく聞かせてもらうよ」
「!」
「いいけど、よく覚えていたね」
「こんな面白い事、忘れるわけがないだろう。夜は長い、詳しく聞かせてもらうから覚悟したまえ」
「お、押し倒したって、ど、どういうことですか」
肩を震わせる二人を除き、盛り上がり始める僕らだったが、当事者である二人の拒絶の声が夜の街に響き渡った。
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