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街中魔窟:魔への誘い

 街灯が照らす道を急ぎ足で駆け抜ける。

 通学路、学校前、脇道に至るまで剣聖総出で駆けまわってみたが、カオリを見つけることはできなかった。有力な情報を得られないまま宿屋へと戻る途中。街の大通りから逸れた脇道に、一人の男が立っていた。

 その目は僕、いや背後にいるエリカを見ていた。彼は僕の方へと歩いてくると、すれ違いざまに一枚の紙を手渡してきた。紙には、この街の地図が描かれている。よく見ると地図には何かの目印のように赤い丸が書きこまれていた。


「ここに来いという事かな」

「なんでアラタ君に手渡したのかしら」


 呑気なエリカを僕は黙って見つめた。


「アラタ」

「ど、どうかしましたか」


 街中を走り回っていたであろうセブンとトレイ。彼らも僕と同じように彼女の手掛かりを得られないまま宿屋へ戻ろうとしていた。


「そ、その地図は一体?」


 僕は二人にいきさつを話し、共に地図に描かれた目印の場所へと急ぐことにした。街路を走り抜け、たどり着いた先には大きな洋館があった。人気のない通りに面した洋館の前には、全身鎧を着た兵が門番のように待ち構えている。兜がぎこちなく動き、僕が手にしていた紙を気付くと背後の門に手をかけた。


「おい、あの中身って」

「だ、黙っていてください。今は潜入するのが先です」


 全身鎧が開けてくれた門を潜り、細かな装飾が施された洋館の扉を開く。目の前に広がる大きな広間。赤い絨毯が敷かれ、正面には二階に繋がる階段が左右にのびている。、


「絵にかいたような金持ちの屋敷だな。こりゃ」

「これは素晴らしい。よく来た同胞よ」


 突如聞こえた声の主は正面の階段を降り、踊り場に立つと、僕達を歓迎する様に拍手をしている。道化師の仮面で目元を隠した男の口元には笑みが浮かんでいる。


「特に君は憑依がうまくいっているようだ。そこまでいけば乗っ取るのも、もはや時間の問題。そのまま乗っ取ってしまえば人間の生活に紛れ込めるぞ。あとは声がかかるまで、好きなことをして時を待てばいい。うん、着々と仲間が増えてきている。良い傾向だ」


 彼は僕の両脇に立つ二人にも微笑みかけた。


「君たちも憑依してほしいのかな」


 道化の男は階段を一歩、また一歩降りてくる。


「最近、君たちのような人が多く訪れるのだよ」


 僕たちの目の前まで来た男は、僕の肩に手を置いた。


「魔に身を委ねると良い、乗っ取られたとしても自我が完全に失われるわけではない。そこには苦悩も、焦りもない。あるのは安寧、そして平穏だ。喜怒哀楽といった感情に心を大きく揺さぶられることもなく、平穏に身を委ね生き続けることができるのだ」

「ねえねえアラタ君、私、彼の言っていることがちっとも理解できないんですけど」

「奇遇だね、僕もまったく理解できない」

「何? 貴様は憑依されていないのか。それに、なぜ互いに意思を持っている。魔と意思の疎通迄図れるとは、どういうことだ」


 驚きで目を見開いた男の肩に急に置かれた手。道化の男を半ば強引に振り向かせたトレイは無防備な顔面に拳を叩き込んだ。


「俺達は剣聖だ。最近起きている誘拐事件の犯人は手前だな」

「なっ……」


尻もちをついたまま、男は後ずさる。


「くそっ……! しくじったのか。出てこい!」


 叫び声に呼び起された異形が形を成し、瞬く間に広間を埋め尽くす。金切り声をあげて、襲い掛かる異形をトレイは両手で握りしめた武器で容易く薙ぎ払った。トレイが手にしているのは、剣を模した鉄の塊だった。剣よりも鈍器と呼ぶに相応しい凶器は迫る異形を砕き、潰し、そして吹き飛ばしていく。

 無双するトレイの背後から迫る魔の存在。それらはセブンが構えた槍によってことごとく貫かれていく。長い獲物を操るセブンの武器は異形の足元を払い、近寄ることすら許さなかった。

 視界を埋め着くほどに存在していた異形は、わずかな時間で殲滅されていった。


「ねえ、アラタ君。君の出番はないみたい」


 エリカの言う通り、僕が武器を構える必要はなかった。瞬き一つの間に、武器の一振りでいくつもの異形が蹴散らされていく。そんな光景を目の当たりにし、恐怖におののく男の胸倉をトレイは掴んだ。


「てめえらが攫った子供はどこだ」

「ひっ!」

「ご、ごまかしたら承知しませんよ」


 槍の穂先を近づけて強迫するセブン。男は広間の左右に並ぶ扉を指さすと。


「攫ってきた子供たちはその扉の先にいます。ですから命は」

「嘘ついたら、わかってんだろうな」

「い、今は一刻もはやく助けないと」


 トレイとセブンは弾けるように左右に分かれると、け破るような勢いでドアを開いていく。


「出来れば、もっと丁寧に! ここは賃貸なのです」


 悲痛な叫びは無視され、聞こえてくるのは破壊音。その度に悲鳴があがった。


「ふふふ」


 涙目を浮かべていた道化の男は、突然笑い出した。とうとう壊れたのかな。


「油断、しましたね」


 爪が長く変形したかと思えば、皮膚が次第に赤黒く変色していく。


「一対一なら負ける気はありませんよ」


 音もなく足元から湧き上がる異形の群れ。


「騒ぐ間もなく殺してあげましょう」


 今まで気弱に振舞っていた彼は奇声をあげ、とびかかってきた。

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