街中魔窟:自警団
シズクを見送った後、街を散策しているとトレイとセブンに会った。
「あ、アラタ君」
「おう、元気そうだな。エイトから話を聞いたぞ」
トレイは嬉しそうに僕の肩を抱き、笑みを浮かべた。
「敵の親玉をとったって喜んでいたぜ。俺達も負けてられないからな。朝から情報収集に精を出していたって訳だ」
「何か気になることはあった」
「さ、最近、子供が攫われる事件が多発しているという話がありました」
「僕も聞いたよ。つまりは誘拐ってこと?」
「いや、ただの誘拐事件じゃねえんだ。いなくなってから半日後にはきちんと親の元へと帰ってくるらしい」
トレイはいら立ちを隠さず、吐き捨てるように言った。
「魔に憑依された状態でな」
「ルサールカの仲間がまだいるのかな」
「す、少なくとも魔を操る存在がいるのは間違いないかと」
二人と共に街を散策していると、行き交う人の右腕に腕章をつけている人が目についた。
「き、気になりますか? あの腕章はこの街の自警団であることの証明、だそうです。中心となっているのはこの街出身の腕に覚えがある戦士たちらしいです」
「普段から街の見回りをしているらしいが、誘拐事件が多発する様になってからは頻繁に見回る様にしたらしいぜ。ところでだ」
トレイは僕の肩を指でトントンと叩いた。
「噂の彼女は、そこにいるのかい」
「エ、エリカさんでしたっけ。みんなから話を聞いてはいますが、聖剣を守護していた霊とはどんな人なのか気になっていまして、トレイと話していたんです」
二人の期待にした眼差しが僕の肩から離れない。会いたくて仕方がないといった様子だった。人通りの多い中央通りから狭い路地に入り、二人を手招きする。周りに人影がないことを確認してからエリカを呼んだ。
「エリカ、出ておいで」
彼女も律儀な性格をしているみたいで、僕が呼ばないと滅多に姿を現さないのだ。こうやって、各々に紹介するのも手間なので、剣聖を全員集めるか聞いては見たが、恥ずかしいの一点張りだった。
「トレイ君に、セブンちゃんだよね。エリカです。よろしくね」
「よ、よろしくお願いします」
「おう、こちらこそよろしく頼みます」
幽霊である彼女を、なんのためらいもなく受け入れてくれるのは剣聖ならではなのだろうか。
「せ、せっかくだしみんなで街を見て回りませんか」
「私はいいけど、大丈夫かな」
「大丈夫っす。気にすることはないっすよ。」
「ないっすよって、トレイ。いつも通りでいいよ」
「変か?」
初対面ということもあって、言葉遣いに気を付けているつもりなのだろうか。あまり聞きなれないトレイの話し方に、セブンは口を押え静かに笑っていた。
「おう。笑う事ねえだろう」
「んふ、っふふ。だってトレイ緊張しているから」
「緊張なんかしてねえよ」
「か、顔真っ赤だよ」
「あぁん?!」
セブンの言う通り、トレイの顔は真っ赤に染まっている。トレイ自身は否定しているが、見知らぬ女性と話すと緊張して口下手になるというのは僕達の中では有名な話だった。
「トレイ君、緊張しているの」
「え、あ、いや。してねえっす!」
「ふふ、無理しなくていいよ。私も初対面の人と話すときは緊張しちゃうから」
「そうなんすか!?」
トレイの大きい声のせいで、行き交う人がこちらを訝しげに見ている。彼らの視線の先に居るのは、エリカだった。どうやら悪目立ちをしてしまったせいで、腕に腕章を巻いた三人の自警団がこちらに近づいてくる。
「おい」
こちらを威圧するような声でしゃべりかけてきたのは、僕と年齢はさほど変わらないであろう青年だった。彼は高圧的な態度のまま僕達をじっと、いやエリカのじっと見ている。
「あぁ? なんだよ」
敵対する相手に対してはとことん態度の悪いトイレは、長身を生かし見下ろすように自警団を睨みつけると肩を揺らしながら彼らの前に立ちふさがった。三人のうち、二人は慄くように後ろに下がったが、リーダーであろう青年は、トレイの威圧に一歩も引くことなく堂々としていた。
「お前に用はない。俺たちが用事があるのは、そこの女だ」
青年が指をさした先にいたのは、エリカだった。
「お前は今、街で流行っている憑依病の患者なのか」
僕と彼女を見る青年の目はとても冷たいものだった。それどころかこちらに向ける敵意を隠そうともしないところを見ると、闇討ちをされても何ら不思議ではない。街に来て早々、変な連中に目をつけられるとは。
「面倒くさいことになりそうだな」
「アラタ君!」
つい出てしまった本音に、エリカは慌てて僕の口を塞いでくれたが、後の祭りだった。
「なんだと?」
僕の失言に彼らの目がぎらりと光った。
「面倒とはどういうことだ」
彼らを見る限り、こちらの話を好意的に受け取ってくれる可能性は低いだろう。加えて、エリカを憑き女だと勘違いしている。いや、していて当然なのだが……。彼らの考えを正そうとしたところで素直に聞き入れてもらえるはずもない。それどころか、いわれのない誹謗中傷で彼女が傷つくのは目に見えている。だからこそ。
「今まさにこの状況が面倒くさいと言っている」
「貴様ぁ! 今この街がどういう状況なのか、分った上で言っているのか!」
煽ることにした。すると怖気づいていた二人が、僕の挑発的な言葉に息を吹き返し立ち上がった。トレイを避け、僕の方へと近づいてくる。煽ったはいいものの、本当に面倒くさいことになってしまった。
「あの、ごめんなさい。この子、本当はすごくいい子なんです。ただちょっと正直すぎるというか。素直すぎるというか。なので見逃してもらえたら……」
出来の悪い弟をフォローする姉みたいになるエリカだった。
「貴様、霊の分際で俺たちに指図するつもりなのか」
自警団というよりはチンピラの類の間違いではないだろうか。街の人も、僕らから目をそらすように足早に通り過ぎていく。だれも足を止めず、自警団の横暴な態度に非難の声すらあげないということは、巻き込まれたくないのだろう。
これならシズクが嫌な顔をするのも頷ける。
「さ、最低ですコイツら」
セブンから突如投げつけられた侮蔑の言葉に、事態はさらなる混乱を迎える。
「あ、煽ったアラタ君を責めるならともかく、エリカさんは止めに入っただけじゃないですか。なのに、そんな脅すような真似をして何様ですか」
「な……。そもそも。お前たちが憑き女を連れ回していることが発端だろう。ただでさえ事件が頻発しているというのに、これ以上俺たちの手を煩わせる真似をするんじゃない」
「そっちが勝手に突っかかってきただけじゃねえか。それとも何か、その腕章をちらつかせてたら、人が頭を下げるようになって勘違いでもしたか。てめえの体張って街を守ろうとする気概は立派だけどな、人様を踏みつけて良いわけじゃねえぞ」
「貴様!」
トレイの言葉に耐えかねた自警団の二人は公衆の面前にも関わらず警棒を引き抜いた。リーダー格であろう男が止めるのも聞かず、顔を紅潮させ、肩を上下させている。
「この街を混乱に陥れているのは、憑依病であることに間違いはない!」
「教会で除霊できないって言うなら、俺たちがしてやるよ!」
トレイとセブンを押しのけ、エリカを目掛け警棒を振り上げた二人だったが、手にしていた警棒はトレイとセブンにいとも簡単に奪われていた。
「す、隙あり」
警棒を奪われた挙句、セブンに足を払われた自警団の二人は無様にも、僕の目の前で倒れこんだ。
「いい加減にしろ!」
リーダーの激が飛ぶ。
「これ以上、恥をさらすな」
無関心を装っていた人々も、僕らのいざこざに興味を持ったのか、いつの間にか人だかりができ始めていた。




