街中魔窟:皆で朝食を
「アラタお兄ちゃん、起きないとみんな朝ごはん食べ終わっちゃうよ」
「今行くよ」
扉越しに声を掛けてきたのはシズクだった。服を着替え、宿屋の一階にある食堂に行くと見慣れた顔がいくつもあった。四人掛けのテーブルが並ぶ中、空いていた席に腰を掛けると隣の席に座っていたアリスが声を掛けてきた。
「おはよう。アラタってそんなに朝弱かった?」
「おはよう。弱いってことはないけど、得意ではないかな」
席に座ったタイミングを見計らって、シズクが朝食を持ってきてくれた。
「アラタお兄ちゃん。朝ご飯をどうぞ」
「ありがとう、シズク。朝から賑やかで大変じゃない?」
「全然、今までお客さんがいなかったから、お母さんも張り切っているよ」
シズクは歯を見せ、満面の笑みを浮かべていた。
「アラタがいい宿を見つけてくれたおかげで、ぐっすりと眠ることができたよ」
キングは眠そうに眼をこすりながら、僕の隣の席に腰を掛けた。パジャマのまま、寝ぐせも直さずに。
「ちょっと、キング。ここは里じゃないのよ。少しは身だしなみに気を付けて」
「いいじゃないか、アリス。これがありのままの私なんだ。この程度で軽蔑の目を向ける仲間ではないだろう」
「見ているこっちが恥ずかしいって言っているの」
昨晩ケイトが誘ったのはアリス、トレイ、セブン、そしてキングの四人だった。
「ほかのみんなは?」
「外に出て、情報収集をしているみたい。昨日の事はエイトから聞いたわ」
「里に下りて早々、そんなことに巻き込まれるとは、羨ましい限りだよ。私の方も教会に顔を出したけど、どうやら入れ違いだったみたいだね。ああ、シズク、有難う」
キングに朝食を渡したシズクは、頭を下げると一人離れた席に座ると黙々と朝食を食べ始めた。
時折、こちらをちらちらと見ているという事はこちらに加わりたいのだろうか。二人に目配せすると、無言のまま頷いてくれた
「シズク、一緒に食べようか」
「え、いいの」
「おいで、一緒にたべましょう」
「来ないなら、私達が行くだけだがどうする?」
アリスとキングの後押しの甲斐もあってか、台所から顔を出したシズクのお母さんは、ありがとうございますといって、頭を下げた。母の許しを得たシズクは嬉しそうに、僕の正面の席に座った。
「シズクは、いつも一人で食べているのかい」
「うん、お客様の邪魔をしちゃダメだって言われているから」
「私達は気にしないから、これからも一緒に食べようよ」
「いいの? でも、私はお店のお手伝いがあるから、食べるのは最後の方になるよ」
「構わないさ、その分私は沢山眠ることができるからね。アラタもそのつもりだろう」
僕の考えを見透かすように、キングはにやりと笑みを浮かべたが僕はあえて無視することにした。
「そういえば、エリカお姉ちゃんは一緒じゃないの?」
「すぐそばにいるよ。でもキングとはまだ顔を合わせていないから緊張しているみたい」
「そうなのかい。私は気にしないから紹介してくれないか」
姿を見せたエリカは緊張した面持ちでキングを見つめている。
「キングちゃん、はじめまして」
「はじめまして、エリカさん。私の事は呼び捨てで構わない」
「なら私もエリカでいいよ」
案外あっさりと打ち解けるキングとエリカ。宙に浮かび、足のない彼女を見てもキングは動じることはなかった。
「大物だね。キングは」
「こんな容姿端麗な女性を遠慮なく連れまわしている君には負けるさ。ところでアリスはどうしたんだい。どことなくぎこちないね」
キングの言う通り、アリスは落ち着かない様子でそわそわとしている。
「アラタ。二人の間でなにかあったのかい」
「特になにもないよ、強いて言うなら初対面の時、アリスがエリカを押し倒したくらいかな」
僕の言葉に絶句する二人。そして、ぽかんとした顔で首をかしげるシズクだった。キングがゆっくりとした動作で、手にしていたナイフとフォークをテーブルの上においた。ナプキンで口を拭き、姿勢を正す。
「その話、詳しく」
「教えないから!」
二人の声が見事にはもっていた。
「今日も隠れないと駄目?」
自室をでる直前でエリカがそんなことを聞いてきた。
「僕はいいけど」
「……少しわがまま言ってみただけだよ」
彼女は不機嫌そうに姿を隠した。昨晩、試しに彼女を連れて歩いてみたが、初めて街を訪れた時と変わらず奇異な目で見られていた。いや人が多くなる分、反応が過敏になっていた気がする。つまり、それほどまでに憑依が街中に蔓延し始めているということだ。
シズクのお母さんの話では、少しづつではあるが街の雰囲気が変わりはじめていると言っていた。もちろん、良くない方へと。正直な話、僕もエリカと共に歩きたいのは山々だったが、何も知らないとはいえ敵として指をさされてしまうのは、あまりいい気分にはなれなかった。
だからこそ、宿屋の中では彼女の好きにさせていた。アリスやキングをはじめ、好意的に接してくれる人が大勢いるので、彼女も楽しそうにしているのが嬉しかった。中でも、シズクは特にエリカの事を慕ってくれていた。
「アラタお兄ちゃん、お出かけ?」
宿屋の玄関でシズクに出会った。
「少し、街を見て回ろうと思って、シズクも出かけるの」
「うん、今日は学校のある日だから。エリカさんと一緒におでかけするんだよね。羨ましいな。ねえ、アラタお兄ちゃんが居た場所にも学校ってあった?」
「あったよ、シズクが着ている様な可愛い制服はなかったけどね」
シズクに付き添うように学校への道を一緒に歩く。周りを見てみると、シズクと同じ制服を着た生徒が同じ方向へ歩いている。ただ気になるのは、行き交う生徒を険しい目つきで見る集団が等間隔で立っていることだった。
「あまり見ない方がいいよ」
シズクは僕の服の裾を引っ張った。
「あの人たちは?」
「自警団ってお母さんが言っていた」
「自警団?」
「最近、子供が攫われる事件が多いって。だから不審な人がいないか監視しているみたい。挨拶しても無愛想だし、偶にじっと見られている気がするの。私達の為に、見守っているのはわかるけど。少し、怖いかな」
確かに、シズクの言いたいことは分かる気がする。彼らが僕を見る目は少なくとも好意的ではない。おそらく見慣れない顔という理由もあるだろうが、シズクのような低学年の子供に交じっていること自体が異質に見えるのだろう。
「アラタお兄ちゃん、どうかした?」
「いや、そろそろ別れようかなと」
シズクは何故か、悲しそうに笑った。
「そっか、てっきり校門まで来てくれるのかな、なんて勘違いしちゃった」
「……シズクがいいなら着いていこうかな」
「うん!」
彼女はあっという間に上機嫌となった。
「ねえ、放課後になったら一緒に遊びに行こう。もちろんエリカさんも一緒に」
「でも、エリカは」
「大丈夫、街のはずれにある川だから、あまり人もこないよ」
シズクは大人顔負けの気遣いが出来るいい子であることを忘れていた。余程うれしかったエリカは音もなく現れるとシズクを軽く抱きしめた。
「あれ?」
シズクはきょろきょろしながら周りを見渡していた。
「今のって」
「エリカの愛情表現、かな」
「えへへ、じゃあ約束だよ。いってきます」
「いってらっしゃい」
元気に手を振るシズクは校門を潜り抜け、傍に居た人に声をかけた。親しく話すということは友人のようだ。纏わりつくような視線に後ろを振り向くと、自警団と思われる集団と目があった。居心地の悪さを感じた僕は、早々に立ち去ることにした。
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今日も二話投稿予定です。
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