魔竜討伐:外魔
本日二回目の更新となります。
よろしくお願いします。
けたたましい竜の咆哮が洞窟に響き渡る。
「……ほう。これで逃げ出さないとは中々肝が据わっているようだな」
「当然だ。剣聖たるもの、この程度のことなんてことはない」
「剣聖ぃ!?」
威厳のあった竜の声が可愛らしい子供のような声に様変わりしていた。もしや今まで演技でもしていたのだかろうか。その愛らしい声は、どことなく喜んでいるようにも聞こえた。ケイトやサイスも同じことを考えたみたいで、互いに顔を見合わせた。
「ねえ。これを見て、この首輪」
「……君、口調が変わってない?」
「そんなの気にしないでいいからさ、これ見てよ」
人懐っこく話しかけてくる竜。今までの威厳のあった話し方よりも、今の方が自然に聞こえるという事はやはりキャラをつくっていたのだろうか。
「見ているが、一つ答えてもらおう。なぜ俺達を試すような真似をした」
エイトの問いに、竜は大きなため息をついた。
「だってさ、今まで沢山の大人たちが来たのに、誰も僕を助けてくれないの。それどころか、僕が叫び声を出しただけで悲鳴を上げて、驚いたり腰を抜かしてばかり。君たちもそういう人かどうか試してみたの。もしかして怒らせちゃった? もし、そうだったら御免なさい」
竜が頭をさげて謝っている。
「あたし、竜が謝る姿なんて初めて見た」
「私もよ。こんな子供みたいな竜もいるのね」
「子供扱いしないでよね。おねぇ……お姉さん?」
僕の肩辺りで宙に浮かぶエリカの姿を見た竜は茫然とした様子で、口を開けたままエリカを見ていた。
「ただの幽霊だから気にしないで」
「ただの幽霊って、こわっ! 怖いってば! しかも足ないよ、お姉ちゃん、痛くないの!?
「痛くないから大丈夫よ。それで話の続きを聞かせて頂戴」
「あっ、そうだね。お兄ちゃんたちは逃げなかった。ということは、僕を怖がる弱虫じゃないよね。それに剣聖ならとても強いでしょう? ね、だから、僕の事助けてよ」
竜ははしゃぎ、懇願し、ころころ表情を変えては、僕たちに訴えかけていた。ケイトは人懐っこい竜が気に入ったのか、竜の顔をなで、優しく声を掛けた。
「ねえ、貴方は誰に捕まったの? 見たところ、まだ子供みたいだけど、大抵の敵に後れをとることはないっしょ」
「んーそうなんだけどさ。おいしいご飯を食べさせてあげるって言われたから」
「ご飯って、まさか人間とか言わないでしょうね?」
「そんな訳ないじゃない!」
竜は首を振り、ケイトの言葉を否定した。
「僕はこう見えて草食なの! 好物は苔。肉なんて食べないよ」
「……苔を食べるの?」
「ここに来るまでに沢山生えていたでしょ。こうやって食べるの」
竜は鎖でつながれたまま、傍にあった岩に生えていた苔を器用に舐めとった。舌の通り道にはねばねばとした粘着性のある透明な液体が付着している。見覚えのある液体に、僕はケイトの手を見た。
「もしかして、ここに来る途中に私が触ったのって」
「お姉ちゃん。もしかして壁触ったの? もしかしたら僕の唾液がついたかもね」
「かもじゃなくて、触っちゃったし!」
ケイトは唾液がついていた手を、竜の鱗に擦りつけた。
「うん。なんだか毒気が抜かれてしまったな」
エイトは抜いていた刀を仕舞った。
「ねえ、幽霊と友達のお兄ちゃん。この鎖切れたりしないかな。僕、悪い奴らに捕まっちゃった」
「僕の名前はアラタだ。そして彼女の名前はエリカ。それで悪い奴らって言うのは、誰の事」
「エロい格好をしたお姉ちゃん。人前に出て叫んで頂戴って頼まれて。見返りにおいしいご飯をあげるって言われたの。でも、もう飽きてきたから、おうちに帰りたいよ」
とりあえず僕とサイスは竜の首輪に触れてみた。強固な鎖でつながれている首輪には鍵穴がついていた。
「首輪の鍵はエロい姉ちゃんがもっているはずだよ。でも剣聖には鍵なんて必要ないよね。僕知っているよ! こんな鉄でも剣聖なら簡単に切ることができるって」、
「それも悪くはないけど、まずは試してみようかな」
「試すって、何を?」
「まあ待ってごらん」
僕はサイスに目で合図を送る。頷いたサイスは鍵穴に手を伸ばし、手にした工具で弄り始めた。
弄ること十数秒。かちゃりとした音が響くと、竜を繋ぎとめていた首輪の鍵は外れ、地面に落ちた。
「サイス、うまくいったみたいだね」
「……仕組み自体は単純だったから。問題ないよ」
竜は、サイスと外れた首輪を交互に見ている。
「ええー斬ってくれないの~。見たかったのに」
不貞腐れる声まで出し始めた竜。こんなにも竜が表情豊かだとは知らなかった。
「さて、問題はここからだな」
「え? 僕もう人のこと驚かせたりしないよ」
「お前はそうかもしれんが、お前を利用しようと考えた輩はどうだろうな」
エイトが振り返った先、そこにはきわどい衣装を身にまとう女性の姿があった。竜曰くエロい格好をしているという話は、紛れもない真実だった。
「お前たちやってくれたじゃないか」
通路の奥から現れたのは赤い髪と小麦色の肌をした女。彼女は不敵な笑みを浮かべながら、僕たちに近づいてきた。
「まさか竜に近づいただけでなく首輪の鍵まで外されるなんてね。一応聞くけど、どうやって外したのさ」
「……鍵穴をこう。がちゃがちゃとしていたら、外れた」
「あきれた、大層な武器を持っている癖にコソ泥みたいじゃないか、アンタたち」
「な?!」
ケイトが反論するよりも速く、エイトが一歩前に出る。
「ついでだ。お前にも聞きたいことがある。竜を使って何をしていた」
「ふーん、コソ泥は礼儀もなっていないみたいだね。聞かれて素直に教えるとでも?」
女は笑みを浮かべると腕を組み、僕たちの前に立ちふさがった。
「外魔」
「なに?」
「恐怖や負の感情を好み、心の隙を狙い憑りつく魔のことだ。見慣れない竜の咆哮を聞いた一般人の心が何に支配されるか、想像するのは容易い」
「へえ、それで?」
エイトの考えに、感心した彼女は続きを催促するように、それでと尋ねた。
「外魔自体の存在は珍しいことではない。問題なのは数だ。一つや二つならともかく、数十といった規模で外魔が発生することなど、まずあり得ない。なぜなら外魔は群れる程、融合し異形と化す可能性が高くなる。ここの洞窟内にいた奴らのように」
「魔について、随分と詳しいじゃないか」
「異形にならないよう外魔の群れを操る魔が存在する、と仮定しよう。そいつは竜の咆哮によって人々を恐怖に陥れ、外魔を憑りつかせることが目的だと考えられる」
「それで、そいつは外魔を憑りつかせた後はどうすると思う?」
「知らん」
エイトは再び刀を抜いた。刀は洞窟に差し込む光を受け、まばゆい光を放った。
「今はそれよりもやるべきことがある。貴様らを葬る。それが俺たちの仕事だ」
ご覧頂きありがとうございました。
今更ながらタイトルを変えようか悩んでいます。




