魔竜討伐:対峙
「……ところでアラタ、二人に紹介しなくていいの?」
街を出てから、しばらく経ったところでサイスが話しかけてきた。紹介する相手というのは彼女のことに違いないだろう。
「おいで、エリカ」
僕は彼女に声をかけた。何も知らない人が今の僕を見たら、ひとりで喋るやばい人に見えやしないだろうか。そんなことを考えている間に、エリカは姿を現してくれた。
「なるほど、これが噂の守護霊か」
「本当に、いたんだ」
鷹揚に頷くエイトに対して、ケイトの顔はどことなくぎこちなかった。
「ケイトちゃん、怖い?」
「こ、怖くないよ。足が透けていて綺麗だなって思っていただけです」
「あら、ありがとう」
今のは別に褒めたわけではないと思うが、喜んでいるので良しとしよう。
「確かに足が透けている所を見ると、本当に幽霊なのだな。だが、この気配から察するに只者ではなさそうだ」
エイトは特に驚いた様子もなく、エリカに手を差し出した。
「俺はエイト。エリカさん、アラタの事をよろしく頼む」
「こちらこそ、よろしくね。エイト君」
二人が握手する姿を見て、ケイトの顔はますます強張っていく。
「手、触っているよね。幽霊なのに、触れるの?」
「触れるし、酒も飲めるよ」
「お酒も!?」
「里に居た時は、毎晩付き合ってもらっていたよ」
「そう、なんだ。なんか幽霊に対する考え方が覆りそう」
頭を悩ませるケイトに、エリカはふわふわと宙を漂いながら、すっと手を差し出した。
「よろしくね、ケイトちゃん」
差し出された手をどうするべきか悩んでいたケイト。彼女は意を決したように歯を食いしばると、差し出された手を両手で握りしめた。かなり強めに。
「よ、よろしくお願いします!」
「うんうん、緊張しているのが伝わってくるよ。大丈夫、怖くないよ。でも、もう少し力を弱くしてくれるとお姉さん、嬉しいかな」
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「これはひどいな」
「……吐き気がする」
険しい顔で歩く、エイトとサイス。そしてケイト。原因は洞窟内に漂う悪臭だった。思い返せば、洞窟の入り口からして最悪だった。沼地の水が入り込み、ひざ下位まで溜まっていた泥水。そして、ようやく泥水がなくなったかと思えば、洞窟内では湿った岩に苔が生え、岩のくぼみには水が溜まっていた。
足場の悪い中、探索を進めている最中、幾度となく異形との戦闘があった。
「……アラタ! 後ろ」
洞窟の物陰から突如飛び出してきた異形。二足の物もいれば、地に這うような四足の獣のような異形もいた。異形は人の気配に引き寄せられるように次々に姿を現したが、そのいずれも剣聖の一刀の元、葬られていた。
「サイスの武器は相変わらず格好いいね」
サイスが両手で構えているのは鎌。剣聖でありながら鎌を振るう姿は、何も知らない者からしてみれば違和感を覚えるかもしれないが、剣の里において、剣聖が扱う武器に制限はなく使いたいものを使えというのが長の考え方だった。重量のある鎌を軽やかに扱うサイスの姿は、剣聖の中でも一際目立つ存在だった。
「ケイトちゃん、そこ触っちゃダメ!」
「え? うわっ、ナニコレ」
エリカの忠告もむなしく、ケイトの手は既に壁に触れていた。結果、ケイトは悲鳴をあげることになり、手に付着した粘り気のある液体に顔をしかめていた。
「最悪。本当最悪だよ。アラタ君」
「ちょっと待って、ケイト待って」
汚れた手を突き出して、こちらにじりじりと近寄ってくるケイト。まさかとは思うが、僕の服で拭くつもりなんじゃないだろうか。
「アラタ君、何か拭くものとかないの」
「……エリカさん、僕が持っています」
サイスは懐からハンカチを取り出すと、ケイトに差し出した。
「うぅ、ありがとうね。サイス君。洗って返すね」
「……別に気にしなくていいよ」
「皆、そろそろ最奥につくぞ」
湿った風が洞窟の奥から吹くたびに、鼻につんとくる刺激臭が漂っていた。狭い道を潜り抜けると、広間のような場所にたどり着いた。
「ここが竜の巣なのかな?」
「……多分そう。油断はしないで」
ケイトとサイスが周囲を警戒する中、僕とエリカ、そしてエイトはさらに奥へと進んだ。竜の巣穴とみられるこの場所には多くの財宝があった。きっとそれらは、沼地を訪れた人のものだったのだろう。今となっては、泥で薄汚れた竜の玩具となり果てていた。
「もったいないね」
「だが、ああなってしまっては手を付ける気にもならんな」
「同感。でも売ったら結構いいお金になりそう。ん?」
エリカは突然、唇に人差し指を当てた。静かにしろという事か。耳を澄ますと、何か金属のようなものを引きずる音が聞こえてきた。時折休んでは、また聞こえてくる金属音。その音に導かれるように、さらに奥へと進んだ先にいたのは、横たわりながら欠伸をする竜だった。
巨大な体躯と翼をもつ竜は、強固な鱗で身を守り、鋭利な爪で獲物を吐き、そして口から炎を吐き出すと聞いたことがある。よく見ると竜の首には黒鉄の首輪がつけられていた。そのせいで身動きが制限されているようにみえる。
僕たちに気が付いた竜は喉をならし、鎌首を持ち上げると眼光鋭い瞳で僕たちを見下ろしてきた。
「何用だ」
「喋った!?」
驚くケイトを一瞥した竜は、僕たちに興味がなくなったのか、再び寝転がった。
「まったく、この程度で驚くとは……見込み違いだな。さっさと帰れ」
「待て、喋れるなら丁度いい。お前には聞きたいことがある。この付近で起こっている事件を知っているか」
「突然寝床に押し寄せたかと思えば、なにを訳のわからないことを」
流暢に喋る竜は、うっとうしそうにエイトを見た。。
「貴方の姿を見て憑依病が発症したって言っている人が多数いるの。本来、竜は人の目を避けた場所に生息するって聞いてるけど、何故人前に出るようになったのかな」
「……ケイト、意外とはっきり言うよね」
「ここまで来たら、やるしかないっしょ」
「そんなものは私の勝手だろう。それに竜の姿を見て憑依病を発症するのは、私の責任ではなく当人にあるはずだ。去れ、これ以上関わろうとするなら戦う以外に道はなくなるぞ」
「なるほど、これ以上話しても有益な情報は手に入らない様だ」
エイトは刀を構え、竜を見据えた。
「仕方あるまい」
竜は体を起こし、高々と雄叫びをあげた。
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