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魔竜討伐:悪霊エリカ2

 彼らの困惑した顔が次第に、恐怖で染まっていく。なぜなら僕の背後に浮かぶ彼女の姿が、彼らの目にはっきりと映っているからだ。顔は無造作に伸びた髪で覆われ、前髪のわずかな隙間から見える赤い瞳。そして黄ばんだ白い服という懐かしい姿で登場したエリカの姿に、彼らは動くことすら出来なかった。


……まさかとは思うが、金縛りかけてないよね。

 腰を抜かしたのか、その場に座り込む彼らを注意深く観察してみると、動いているのは首だけで、ほかの部位は一切動いていない。


……かけたな。間違いなくかかっている。

 徐々に近づいていくエリカという名の幽霊。彼女の姿は彼らに強烈なトラウマを植え付けたに違いない。エリカが指を鳴らすと、彼らの金縛りが解けたのか、一斉に出口へと駆け出した。ドアノブを回し開けようとした寸前で、再びエリカが指を鳴らすと、彼らは不自然な姿勢のまま固まっていた。

 鬼だ。


「ねえ、わたし貴方達の顔、覚えたからね……」

 彼女のアドリブは留まることを知らず、彼らがようやく宿屋から抜け出せる頃には腰は砕け、顔は涙と鼻水でぐしゃぐしゃになっていた。


「清々したわ」

「ひっ!」


 エリカが揚々と振り返った先には宿屋の彼女が一人取り残されていた。次は自分の番とでも考えているのだろう。ひきつった顔をしてがたがたと震えていた。さてどうやって彼女の誤解を解くべきだろうか。

---------------------------

「ほ、本当に剣聖なんですか?」


 こういうときに頼りになるのは肩書とそれを証明することが出来るエンブレムだった。彼女は半信半疑だろうが、肩書一つでここまで歩み寄ることができれば十分だろう。それに、献身的に振舞うエリカのおかげで彼女は、笑い顔まで見せてくれるようになっていた。

 彼女に案内された寝室には、男子が言っていたようにベッドで寝込む、母親の姿があった。


「ずっとこんな感じなの。代われるなら代わってあげたいっ……!」


 泣きそうになる彼女の背を、エリカは優しい手つきで撫でた。

 この程度であれば、祓うのは造作もない。僕が黒檀の杖を構えたところで、エリカが急に声を掛けてきた。


「ねえアラタ、どうやらこの黒い靄は貴方に言いたいことがあるみたい」

「!?」


 靄に意識があるというのは初耳だった。それよりも、なぜ彼女がその声を聴くことが出来るのか。彼女に対する謎がまた一つ増えてしまった。


「言いたいことがあるなら、さっさと言え」


「……」

「えーと、小さい子が苦しむ姿が好きだ。それを見て泣いている母親の顔をみるのが堪らない。だそうよ」


 僕は無言のまま、杖を掲げた。


「……!……www」

「やれるものならやってみろと。剣しか能のない凡人め。娘の前で母を切り捨てるのか、だって」

「僕が剣聖だといってやれ」


「…!?」

「あ、急に慌てだした。凄く焦っているみたい」

「……!!」

「あなたがもし剣聖であり賢人であるならば話で解決するのが互いにとって最善の選択であると……あぁ!」


 杖が母親の体に触れると、体内に巣くう魔の存在を捉え、欠片も残さず霧散させていく。すると血色が悪かった顔に、徐々に生気がもどっていく。苦痛に歪んでいた顔も元に戻り、ゆっくりと瞼が開いていった。


「……シズク? あなた達は、一体?」

「お母さん!」


 シズクは母親の胸元へと飛び込むと泣き始めた。母親は泣きじゃくるシズクを優しく受け止めると、強く抱きしめていた。僕はエリカの服の裾を引っ張り、部屋を後にした。親子に気を使ったのもあるが、エリカの顔が涙でくしゃくしゃになっていたからだ。


「これでよくなると思うよ。あとは栄養のつくものでも食べてれば大丈夫だよ」

「うん!」


 宿屋をでようとすると、後ろから僕達を追いかけるようにどたどたを慌ただしい足音が聞こえてきた。

 バンっと勢いよく開かれた扉。


「あとでまた来てください。お部屋の準備をして待っていますから!」


 笑顔を取り戻したシズクは元気に手を振りながら、僕達が見えなくなるまで見送ってくれた。

 シズクと別れた後、僕たちは教会への道を歩いていた。エリカと話し合った結果。魔を払うことを優先にしようと決めたからだ。教会の前まで戻ってくると、サイスがシスターと話していた。


「サイス」

「……アラタ。そちらの彼女は……憑き女じゃないみたいだね」

「シスターとは何を話していたの」

「……何故、こんなことになったのか知りたくて状況を確認していた。わかったことが一つあって、ここにいる大半の人たちは、他の街からこの街に来る途中、魔物に襲われたらしい」

「魔物?」

「……ああ、街から少し離れた場所にある沼地。そこに出現する魔物が、この事態を引き起こした犯人である可能性は高い」

「確証はあるんだね」

「……ある。シスターに無理を言って、教会の中にいる人たちに詳しく話を聞かせてもらったから。危険な場所らしいけど、一緒に行くかい。……って聞くまでもなかったかな?」

「どこに行けばいい」

「……まずは他の剣聖と合流しよう。情報を集めるなら酒場だ、って言っていたから酒場に行けば会えると思うよ」


 サイスと共に酒場へと足を運ぶと、なにやら言い争うような声が聞こえてきた。


「エイト君。お願いだから言うことを聞いてください」

「なぜだ、俺達なら。いや俺達にしか倒せない相手だ。請けない理由がない」

「……ケイト」

「あ、サイス君。それにアラタ君。あぁ……ちょっち、タイミングが悪いかも」

「二人が加わるなら、十全で万全だ。受けるぞ」


 そういいながらエイトは一枚の紙をボードから引きはがした。引きはがした紙には賞金首と書かれた竜の姿が描かれている。


「この竜は最近、沼地を住処としているらしい。竜への恐怖心が魔を引き寄せ、衰弱した心に取りついていることに違いないはずだ。ここは住民の為にも憂いは断っておくべきと思わないか」


僕はエイトの言葉に頷くと、彼は満足そうに微笑んだ。


「アラタ、即断即決とはお前らしいな」

「エイトは言い出したら聞かないから」


 違いないと、大声で笑うエイト。それを隣で見ていたケイトは頭を抱えていた。


「うぅ、こうなるのが分かっていたから引き留めていたのに」

「……ごめんね、ケイト。もう少し、あとに来ればよかったかな」

「違うのよ。サイス君。君が悪いとかじゃないの。でも相手は竜よ。私達は剣聖だけど不安というか」

「案ずるなケイト。俺たちの剣は、魔を払うためだけではない。共に磨き上げた剣技がある。問題はない」

「その自信は一体どこから来るのよ~」

「……いつものことだから。気にしちゃだめだよ」


 酒場の一角で話す僕たちに酒場の店員が声をかけてきた。


「自棄になっちゃだめよ!」


 女性の店員は、僕たちが言い争う姿を見かねて口を挟んできた。


「貴方達が相手にしようとしているのは、名をはせた熟練の戦士でも手が出せない相手なのよ」

「知っている。相手は竜だ。油断するつもりはない」

「最近、街で流行っている憑き女、憑き男、憑依のことなら心配いらないわ。教会で聞いた情報だけど呪いを解くことが出来る聖女様が聖国からから来てくださるって話よ。竜が出る場所は分かっているから近づかないようにすれば、被害を抑えられるわ。一つしかない命を無駄に捨てては駄目よ」

「気遣い感謝する」

「わかってくれればいいのよ」 

「だが心配はいらない」


 エイトはそういいながら首から下げた剣聖のエンブレムを店員に突きつけた。

彼女は驚き、眼を見開いている。


「その、エンブレムは……貴方、もしかして」

「俺だけではない。俺達、ここにいる四人全員が剣聖だ」


 エイトの言葉に、ざわめきが起こり始めた。剣聖の存在が気になる酒場の客たちは、こちらをちらちらと見ている。


「変に目立ってない私達?」

「……いつものことだよ」

「でも貴方達四人だけでは無茶です!」

「いや、十分だ」


 エイトは持っていた手配書を店員に差し出した。


「こいつは俺たちが倒す」

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