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魔竜討伐:山賊

 意気揚々としたエリカと共に里をでたが既に夕方。山を下り、麓の街へと着く頃には夜中になるだろうと、これからの事を考えていた矢先。僕たちは早々にトラブルに巻き込まれることになる。

 僕達を取り囲む数は4人。そのいずれも武器を握っているところを見ると、ただでは帰してくれそうにはなかった


「山賊なんてやっている人がまだいるのね」

「里でも商人の護衛を頼まれたりするから珍しくはないよ」


 山賊に取り囲まれている状況でも、軽口を言う余裕はあった。なぜなら相手はド素人の山賊だからだ。切り立つ岩が立ち並ぶ山道を利用して、足場の悪いところで待ち伏せるのは理解できる。しかし、相手はわざわざ僕を取り囲んでいた。岩の上に立ち、弓で威嚇でもするか、足でも射抜いていれば有利に物事が運ぶというのに。

 それに加え、賊と呼ぶには程遠い出で立ちをしている。体つきも平々凡々で、ただの街人が武器をもっただけにしか見えないのだ。


「……ちょっと待て、君の後ろにいるのは憑き女じゃないのか」


 憑き女? 聞きなれない言葉だった。勇ましく道を塞いでいた男が、急にエリカを指差した。


「憑き女?」

「ああ、お前の傍に居る女の事だよ」

「お前にも見えるってことは、見間違いじゃないな。こいつは人に取りつく悪霊だ!」

「こいつらは、君みたいな子供に取りついて体を乗っ取ろうとするぞ!」


 山賊はなぜか僕を同情するような目でみている。


「アラタ君、山賊が君を見る目は優しいのに、何で私を見ると鬼のような形相をするのかしら」

「話を聞いていました? エリカは憑き女。僕に憑りついた悪霊だと思われていますよ」

「えぇ……」


 エリカは抗議の声を上げたが、それを気にする山賊ではなかった。


「なあ少年よ、俺たちに出来ることはあるか。なんなら街まで送り届けるよ」

「それがいい。街には教会がある。除霊できるかもしれない」


 相手は自分たちが山賊であることを忘れているのではないか。面白いことに今の僕は、大人に心配される子供のようになっている。


「お気になさらずに。それよりも今からでも遅くはないです。山賊なんか辞めて真面目に働きませんか?」


 僕を取り囲んでいた大人たちは項垂れると、手にしていた武器を次々と手放した。


「やっぱり無理があったか」

「まあ、元々うまくいくとは思ってなかったよ」


 素直に言う事を聞いてくれた元山賊たちはため息交じりに呟いた。


「なんで山賊の真似事を?」


 僕の質問に、眼鏡をかけた男性が首を横に振った。


「麓にある街に行けばわかるよ。街では憑き女、憑き男といった悪霊に取りつかれる病気が多発してね。僕の家族も憑りつかれてしまった。そうなったら、付きっきりで看病しなきゃならない。仕事なんかしている暇なんてない。すぐに治療する為の金が必要だ」

「付きっきりというなら貴方は何故ここに?」

「お金が心もとなくなってね。恥ずべきことだが、幼い娘に妻を任せ、こうして物取りのまねをしようとしたわけさ」


 押し黙る周りの大人を見る限り、大体が同じ理由なのだろう。


「わかった」

「頭!?」

「騒ぐな!」


 僕の正面に立つ頭と呼ばれた男は怒鳴り、周りの元山賊たちを黙らせた。


「瀕死になりながらも山を下りてくる子供の願いだ、聞いてやろうじゃねえか」

「ねえ、そんないい方されると、私は凄く微妙な気持ちになるよ」

「黙れぃ! この悪霊が! お前らのせいで、俺達みたいな平民はな仕事を続けることができねぇんだ」

「それって、只の八つ当たり」

「はっ! 八つ当たりをする卑屈な人間でわるかったな。でもな俺らだって誰かのせいにでもしなきゃ……」

「もう、いいですよ頭」


 眼鏡をかけた男が、頭の肩を叩いた。


「やはり、我々では無理でした」

「そうだよ、頭。いや、おっさん。元々、山賊なんて俺はやりたくなかったしな。アンタが俺の強面を見れば、簡単に金を出すなんて言うから付き合ってみたけど、襲ったのは女子供ばかりじゃねえか」


 一回り程年の離れた茶髪の若者がため息をついた。


「そもそも強面って言うか、只ひげが濃いおっさんだろ」

「やかましい、若造が! お前らがそんなんだから一度も奪えなかっただろうが!」

「そんな事言っていますけど、数時間前に少女に殴り飛ばされていたじゃないですか。それも小柄な少女にですよ。大体貴方、私達の中で一番年上ですが、仕事歴は一番短いでしょう」

「そんなの今関係ないだろう!」

「そのくせ態度が一番でかくて迷惑していると言っています」

 小太りの男性が肩をすくめながら首を振っている。年下二人に言い寄られている頭の姿は、なんだか切ないものを感じてしまう。そんな僕の視線に気がついたのか、頭はわざと大きな咳ばらいを一つした。


「まあ、なんだ。お前もこんなところにいつまでもいないで、さっさと麓の街まで降りてこいよ。それとも一緒にいくか? そんな奴と一緒じゃ不安だろう」

「これでも剣聖なのでご心配なさらずに」


 剣聖という言葉にざわめく元山賊。


「それに、彼女は大切なパートナーなので不安はありませんよ」

「そ、そうか。まあ、何かあったらいつでも相談に乗るぜ」


 頭とよばれたおっさんは、最後まで強気な姿勢を崩さずに立ち去った。

---------------------------

「ねえ、アラタ君。今日はこのまま野営するの?」

「その予定だよ」


 僕の見立て通り下山する途中で陽は沈み、辺りは闇に包まれつつあった。


「出来れば、今のうちに準備を終えよう。陽が沈んでしまったら、野営の準備もままならないと思うから」

「獣とかいないかしら」

「いると思うけど、火を焚いておくし問題ないよ」

「じゃあ、夜はお姉さんが見張っているね」


 僕は野営の準備を手早く整え、見張りはエリカに任せることにして早々に休むことにした。


「ねえねえアラタ君、起きてもらってもいいかな」

「どうしたの。まだ夜だよ」

「いいから、あれ見てよ」


 僕が寝ている場所から少し離れたところに、見慣れない荷物が積まれていた。


「……寝る前になかったよね。何あれ」

「アラタ君が寝ている間に、さっきの元山賊がきたのよ。私を見ると、憐れんでいるのか怒っているのか分からない複雑な感情が入り混じった目を向けてくるの」


 彼女に対する拒否反応はさておき、置かれた麻袋の中身を見てみると、労いの手紙と共に食糧が入っていた。どうやら僕の為に用意してくれたらしい。一人では食べきれない量の食糧をどうするか悩んでいると、元山賊の一人が、慌てた様子で山を駆けあがってきた。


「た、助けてくれ!」


 彼の顔は何かに怯えているように見えた。全速力で山道を駆け抜けてきたせいか体の至るところが汚れ、擦りむいた傷には血が滲んでいた。


「あいつが、あいつが化け物になっちまう!」


 慌てふためく男が指さした方角。僕は化け物という言葉に引っ張られるように、全速力で駆け抜けた。


山賊。それは話を広げるのに便利な存在。


本日も二回投稿の予定です。

ご覧いただき有り難うございました。

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