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エスパーチョンカ!  作者: ちぇり
第5章
90/109

4

「ぶぇーーーーっっ!! ぺっぺっ!! さ、最悪だわっっっ!! あ、あたしこの旅を始めてどんどん穢されてる……!! も、もうお嫁にいけない……!!」


「ふ、ふ、ふぅーーーーーぃ!! いっぱい出ちゃったぜ……満っ足……っっ!」



 シャルロットはその場に四つんばいになり、涙を流していた。

 対して乳をかけた張本人であるスジ太郎は満足そうな表情を浮かべている。

 荒縄で締め付けられていたので、やっといつも通りの出力で射乳できたのだ。スジ太郎としては、わざとかけたわけではなかったのだが、心のどこかに、チョンカにかけてみたいという願望があったため、満足感の他に達成感にも満たされていた。

 涙を流しているシャルロットの隣では、膝をつき口をパクパクさせながら呆然とするチョンカの姿があった。



「あ……あれ……この味……うち……え? し、知ってる……え……なんで……?」



 スジ太郎のミルクは普通の牛乳とは違う。

 無駄に垂れ流していて品質は最低だと思いがちだが、その味はまろやかで甘みがあり、何よりも他の牛乳に比べて異常なまでに味が濃いのだ。さらに搾りたてである。不味いわけがない。

 ランプが商品化に踏み切ったのにはそういった理由がある。


 以前チョンカがランプの家で寝起きに飲んだミルクも記憶に残るほどに美味く、またいつか飲みたいと思っていたのだ。

 チョンカの願いは今ここに成就された。



「ま、まさか……え、でも……いや、そうとしか考えられん……いや、でも……」



 チョンカは自身の頭に渦巻く悪い予想を振り払おうと必死で葛藤していた。

 舌が覚えている。そして間違いないと言っている。

 しかし頭は、何かの勘違いであると言って聞かない。

 西京とラブ公に確認することも出来ない。答えを聞くことが怖くてたまらないからである。

 対立する二つの意見は、チョンカの処理能力を超え、現実を直視できないあまりに『顔にかかっただけで飲んでいないことにしてしまおう』という結論をはじきだしてしまった。

 そして脳内で一応の解決を得て、今度はスジ太郎に対する殺意が沸き立ってきたのだった。



「シャル……」


「ええ……チョンカ」



 二人のマフラーが風に揺れる。

 両手に殺意の象徴である光を纏っていた。



「サイコキネシスっっっ!!」


「パイロキネシスっっっ!!」


「あ、ちょ、やめ、あ、あ、あーーーーーーーーーーーーーーっっっ!!」



 必死になって走り回るスジ太郎を、多数の燃える石つぶてが追い回す。

 顔面に、火傷しそうなほど熱くたぎった白いマグマを浴びたチョンカとシャルロットは、汚れを洗い流すことも忘れ、問答無用でスジ太郎に攻撃を加えていた。


 この追いかけっこは三十分程続き、最後には力尽きたスジ太郎の背中にかなりの数の根性焼きが入れられた。



「ひぎぃぃぃぃぃぃぃっっっ!! おっ、おっ、おっ!! あっひ!!」



 たまらずスジ太郎はその場に横になり白液を噴きながら気を失ってしまった。



「先生!! うち変態と一緒に旅しとうないっ!!


「マスター!! あたしもチョンカに同感よ!!」


「ふむ……まぁ気持ちは分かるが……その前に、それ」



 怒りに我を忘れる二人を優しく水流が包み込み、ミルク汚れを綺麗に落としていく。



「落ち着いたかい?」


「落ち着いても、スジ太郎とは旅できんっ!! あいつうちらに乳をかけた後、白目剥きながらマジェスティックとか訳分からんこといいよったもん!! 絶対わざとじゃもん!!」


「ぞわぞわっ!! そ、そんなこと言ってたの!? あたしも絶対反対!!」



 二人の乙女に詰め寄られ、さすがの西京も気圧され一歩後ずさった。とても珍しい光景である。



「……ふむ。二人とも、意識を集中してごらん? まわりにエスパーがいないかどうかを確認してみなさい」


「えーーー!! うちごまかされんよ、先生!?」


「そうよそうよ!!」


「僕もちょっと遠慮したいよっ!!」


「……まぁ、そう言わず、言われたとおりに集中してみなさい。面白いことが分かるから」



 そう言われて、ぶーぶーと文句を垂れていた二人は顔を見合わせ、渋々あたりのエスパーの気配を確かめることとした。両目を閉じ、精神を集中させる。



「ラブ公、君も両目を閉じて集中してみなさい」


「え!? 僕も? 西京、僕はエスパーじゃないよぅ??」


「いいからやってみなさい」



 頭上にクエスチョンマークを浮かべながら、ラブ公も西京に言われるがままに両目を閉じた。


 ラブ公の体が浮かび上がった。

 集中し、両目を閉じているラブ公はそれに気付かない。それほどまでにゆっくりと浮かび上がっているのだ。気付けるはずがない。さらにラブ公の体をサイコガードの球が囲う。サイコキネシスでの移動に際して、風を感じないようにする為である。


 ラブ公の体は、そのまま気を失っているスジ太郎のほうへ近付いていった。


 ラブ公の体が、スジ太郎と同じく横向きにされる。体にかかる重力方向の変化で異変を感じないように、西京は重力すらコントロールしていた。


 集中して半開きのラブ公の真っ赤な唇が、徐々にスジ太郎の乳首へと近付けられていく。



 西京のマフラーが、激しくたなびいた。



「西京~、僕やっぱり何も感じなうっっっっぷ!! ぷっ……ちゅぱ……」



 サイコガードが解かれ、乳首と唇の距離が一気に詰められた。

 出会ってはいけないものが出会ってしまった。

 ラブ公の口の中に暴れる乳首が放り込まれ、それではまだ足りぬと言わんばかりに、さらにスジ太郎の乳に顔が押し付けられる。



「もごっ!! もがっ、な、なになに!? なにがちゅぱっ、ごくごく……え、なにこれもごごご!!」


「先生っ!! うち分かったよ! スジ太郎のほうから──えっ!? ラ、ラブ公!?」


「マスター、もしかしてこの変態牛が──え!!! 騎士君っっ!?」



 チョンカもシャルロットも、それぞれ何かを感じ取って両目を開き、飛び込んできた光景に絶句する。

 そして気を失っていたスジ太郎も目を覚ました。



「あいっててて……チョンカ……少しは手加減してくれようっほっ!! 気持ちいい!?  こここ、これは!? えっラブ公!?」



 とんでもない光景を見せられ、チョンカもシャルロットも思考が停止してしまう。

 ラブ公が、横たわるスジ太郎に添い寝をしながら乳を貪っている。自分達が集中している間に一体何が起こったのか理解が及ばない。



「ラブ公には実験に協力してもらっているのさ」


「じ……実験? でもマスター……あ、あれは……」



 シャルロットにはラブ公が、母牛の乳を必死になって貪る子牛のようにしか見えなかった。



「チョンカ君、シャルロット君、何を感じたのか聞かせてくれるかい?」


「え……あ、うん……もしかしてじゃけど、スジ太郎からエスパー反応が出とるんじゃろ? ……ラブ公……必死に飲んどるけど……ぞわぞわっ」


「あたしもそう感じたわ。一般人なのよね? 何かのきっかけで才能が開花したのかしら? それにしても騎士君……実験って……気持ち悪いわね……うっ」




 エスパーは、生まれてすぐにその能力が使えるわけではない。

 ほとんどのエスパー達は何かのきっかけで自分の才能に気付き、それを磨くことによって能力を得る。しかし当然であるが、エスパーの適正のない者が努力をしても能力を得ることは出来ない。

 そもそも適性を持つものが少ないのだが、多くのエスパー達は師に当たるエスパーから才能を見出されるケースがほとんどである。

 エスパーの才能を持ちながら気付かぬままに生涯を終えるものも少なくはない。

 その中でもシャルロットは自分で才能に気付き、自己流でその能力を磨いていたのだが、それは稀有な事例であった。




 スジ太郎に抱かれながら乳を飲むラブ公の体が淡い光を放っていた。



「あ、あれー……なんだか僕……ちゅぱちゅぱ……心地いい……」



 もちろん見ているチョンカとシャルロットはドン引きしている。



「ふむ、やはりね。おーい、スジ太郎君!」


「んはっ! んはっ! こ、これが夢にまで見た授乳……んっほ! く、癖になる……母親の気分……」


「ふむ、全然聞いていないね」


「ぞわわわわっ!! シャルと同じこと言いよるっ!!」


「ち、ちがっ! 違うわよ!! 馬鹿ねっ!! あたしはあんなこと言ってないわよ!!」


「二人ともラブ公の体を良く見てごらん? 回復しているだろう?」



 西京の言葉に二人は嫌々ラブ公のほうへ視線をやった。先程からラブ公の体が光っているのは分かっていたのだが、何かの気のせいとも思っていたのだ。よく見ると西京の言うように確かに回復しているように見える。数日前にできた尻の火傷の痕が綺麗に治っていたのだ。



「あれはサイコ……なんだろうね。とにかく乳にサイコヒールの効果が乗っているようだよ。スジ太郎君、おーい!」


「んっほ! んっほ! もっと、もっと吸って……あっひっ! え? あ、はい、西京さんっほおおお!!」


「体から炎が出るところを想像してみなさい。なるべく現実的に、しっかりとイメージしてごらん。そうだね、君が想像しやすいとすれば乳から火を噴くような感じかな?」


「は、はい? 乳から火……ですか? 乳から火、乳から火……んっほ! ラブ公、お前もうちょっと優しくあっひ!!」



 ラブ公は夢中になってスジ太郎の乳を吸い続けている。実はラブ公は自分が乳を吸っていることに気付いていない。それほどまでに回復によるリラックス効果が高いのだ。しかしそれはチョンカたちは知る由もないことである。

 一心不乱にスジ太郎の乳に吸い付く姿は二人の乙女の目には変態が二人いるようにしか映っていなかった。



「せ、先生……そろそろ見てられんのんじゃけど……ぶちキモイ……」


「あ、あたしも吐き気が……」


「む、二人とも見てごらん!!」



 ピンク色の乳が、いきむスジ太郎の呼吸に合わせ徐々に赤みを増していく。



「ひっひっふー! ひっひっふー!!」


「ちゅぱちゅぱ……ごくごく……ふぁーなんて心地いいんだろう……僕、寝ちゃいそうだよぅ……ちゅぱちゅぱちゅ……あ? ん? ちゅ……あ! あっつ!! あつーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!!」



 スジ太郎の乳に吸い付いていたラブ公があまりの衝撃に飛び上がった。

 その体には炎を纏っている。


 ラブ公はそのまま地面に落下し、派手に転げまわってようやく身を焦がす炎を鎮火させる。

 黒ずんで体から煙を出すラブ公はようやく夢から覚めたのか、しかし現状の把握がまるでできていないようで、野生動物のように目を見開いて周囲の状況を確認していた。



「ふむ、スジ太郎君は乳に属性を持たせることに成功したようだね。全くもって聞いたこのないような能力だが、乳を操ることに長けたエスパーの誕生だね」



 横たわるスジ太郎の魔乳からマグマのように赤く粘り気のあるミルクが地面に零れ蒸気を立てていた。

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