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「やぁ、チョンカ君にシャルロット君。昨日は二人して砂浜で寝たのだね。良く眠れたかい?」
チョンカは昨日の落ち込みようが嘘のように、晴れ晴れした笑顔を見せていた。
対してシャルロットは、さらさらの金髪も所々爆発しており、服装は乱れ、口の周りが何かに吸われたように内出血をしていた。
「先生おはよう!! テントじゃなかったけどお星様も綺麗じゃったし、よー眠れよったよ!」
「……そうね……」
『シャルロット君』
「ひゃいっっ!!」
相変わらず突然の西京からのテレパシーにシャルロットは飛び上がってしまう。
『マ、マスター!! 急にはやめてって言ってるじゃないの!!』
『ふふ、ファーストキスの味はいかがだったかな?』
『……っえ!! み、み、み、見て……??』
『おや? 冗談だったが本当にしたのかい? ふふ、これからもチョンカ君のことをよろしく頼むよ』
「~~~~~~~~~~~~~っっっっ!!」
突然テレパシーを送りつけて突然切る。いつもの西京であった。シャルロットは真っ赤になりその場に蹲ってしまう。
「ねぇ、先生。おさかなちゃんパラダイスにテレポーテーションしたいんじゃけど……うちらのいる場所ってどこなん?」
テレポーテーションとは、人体の瞬間移動をするエスパーの能力であるが、自身のいる場所と、行き先との関係性が明確にイメージできないと使用することは出来ない。
例外は行き先に目印となるエスパー反応を感じているとき等である。
テレポート先が見えていたり、一度行ったことがあり今いる場所との地理感覚がイメージできていて初めて使える能力なのだ。
その他にも個人の能力差によって移動距離なども大幅に変わってくる。
現在チョンカは自身の居場所を把握していないためおさかなちゃんパラダイスに戻ることが出来ないのである。
「そうだねぇ、チョンカ君もサイコキネシスで上空に上がってみれば分かると思うけれど、ここは我々が降りた橋がかかっていた場所から相当東にある場所だね。この入り江が、あの長く続いているように見えた崖の終着点のようだよ」
「ああああああーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!」
チョンカと一緒に西京の話を聞いていたシャルロットが、突然叫び声をあげた。
シャルロットは急いで振り返り海のほうを見てワナワナと震えていた。
「そうよ……そうだわ……なんで……あーーーー!! なんで気付かなかったのあたしぃぃぃ!!」
ポカポカと自分の頭を殴りつけるシャルロットを急いでチョンカが止めに入る。
「ちょ、シャル! どうしたんよ?」
「チョンカ……あたし昨日から、なんかこの場所に見覚えがあると思ってたの……おかしいなぁって……当たり前だわ……この入り江、あたしの家の裏にあるんだもの……」
「え、シャルの……家?」
「そう言えばシャルロット君、橋を渡る前に言っていたね。なるほど、ここがそうなのかい?」
「ガーーーーーーッハッハッハ!! ということはワシの目的地もこのあたりというわけであるな!! 重畳、重畳!!」
「ば、馬鹿みたい……あたし自分の家の裏庭でキャンプしてたなんて……」
「おぅ、もう朝やんけ!! 全員揃っとるな? もう出発するんか? ん? ん?」
チョンカは抜けている。マヌケと言ってもいい。そんなチョンカを見ていて鼻で笑うことも多かったシャルロットにとって、今回のマヌケっぷりは自分で自分が許せないレベルなのであった。
「ふふ、まぁまぁシャルロット君。チョンカ君も一度サイコキネシスでこの場所を確認する必要がある。時間はまだあるのだから実家に行ってみてはどうかな?」
「え、ええ……チョンカ……」
「にへへ、シャル! 気にせんでもええって!! ゆっくりしてきてもええよ?」
「ありがとう……実はパ父さんの病気の進行具合を一度見ておきたかったの……」
「シャル、パ父さんって何?」
「う、うるさいわねっ!! それじゃあお言葉に甘えさせてもらうわ」
「うむ、ワシも行こう!! 村に行って友に会いに行かねばならぬっ!! ガーーーーーーッハッハッハ!!」
「え……ダ、ダディさん、何も一緒に行かなくても……」
「ガーーーーーーーッハッハッハ!! シャルロット嬢よ、遠慮などいらぬっ!!」
「ワシも行くで! 美人の姉ちゃんの実家の空気を吸うんや!」
その時であった。
シャルロットが今から向かおうとしていた先にある茂みが揺れ、大きな音を立てた。
一瞬身構えたシャルロットであったが、茂みから顔だけを覗かせていた男が視界に入り動きを止めた。
「シャル……シャルか?」
「パパ……? どうして? 動けるようになったの? パパ!!」
シャルロットは涙を流し走り出した。
シャルロットの父親は謎の奇病で下半身が固まってしまい、身動きが取れない状態であった。それを治す手段を探すためにシャルロットは家を出たのだ。
その父親と外で再会した。それは単純に考えて病気の治癒を意味していたのだ。
「パパ!! パパーーーーーーーーーー!! パッ!?」
驚きながらもほっこりしながらシャルロットを見ていたチョンカ達であったが、急ブレーキをかけて止まってしまったシャルロットの視線の先、茂みから出てくるパパと呼ばれた男の姿を見て戦慄を覚えた。
「キャーーーーーーーー!! パ、パ、パパ!! その格好は何よっっっ!!」
「シャル元気だったか? あんっ! パパはもうすっかり大丈夫そうだぞ」
シャルロットと同じく人間であるシャルロットの父親は、透明な肉じゅばんを着ていた。
その下は裸であった。肉じゅばんの中には水が入っており、肉じゅばんと体の隙間の水の中を無数の小魚が泳ぎ、父親の体をついばんでいた。
魚たちについばまれ、その度に短く渋い声で嬌声をあげている。
父親は水の入った肉じゅばんを揺らしながらシャルロットの方へ歩み寄ってきた。
「ん? この格好かい? うっ! ははは、驚くのも無理はない。パパも驚いているんだ。水が入ってるからちょっと動きにくいが……おぉ! それでも歩けるようになるまで回復したんだからな」
「ば、馬鹿っっ!! そ、そ、そういうこと言ってるんじゃないわよっ!! 何で裸なのよ!! その魚、何よ!!」
「シャル……お、お父さんなん?」
「ギャーーーーーーーーーーーーー!!! お願い! チョンカ見ないで!! お願いよ!! あたしのパパはこの人じゃない、こんな変態じゃないの!! あーーーーーーーーーーーんっっ!!」
シャルロットの本気泣きであった。
あまりに悲痛なその泣き声に、チョンカはそれ以上声をかけることが出来なかった。
「この魚はドクターフィッシュと言ってな。あぉ! なんでも皮膚の表面を食べてくれる魚だそうだ。聞いたときは半信半疑だったが試してみて本当に良かった。……シャル、そうか泣くほど喜んでくれるか……うっ!!」
「違うわよっっっっっっ!! 馬鹿ぁぁぁぁぁあああああぁああ!!! 気持ち悪い声出さないでよっっっっ!!」
「ははは、困った子だ……ん? お、お……お前……まさか!? うっ!」
「ガーーーーーーーーーーーーーーッハッハッハッハッハ!! 久しいな!! ムッシュよ!! 三十年以上か? ワシじゃ、ンダディじゃ!!」
「ダディ!! 学生の頃以来じゃないか!! うっ! そうか、手紙を読んできてくれたのか……あふぅ!! はは、それにしてもお前、なんて格好だ」
「ガーーーーーーッハッハッハ!! 貴様に言われたくはないのであるな!!」
「違いない!! はっはっはっは!!」
「はっはっは、じゃないわよっっっっっ!! お家に、せめてもうお家に入って!! 一生のお願いよ!! 早く帰って!!」
チョンカの後ろに隠れながらシャルロットは必死に懇願した。
チョンカも変態を前に足がすくみ上がり立っているだけでやっとであった。
「そうだな、おいダディ、久方ぶりの再会だ。おほっ! 積もる話もある。さぁ我が家へ招待しよう」
「ガーーーーーッハッハッハ!! そうであるな!! しかしその前に!!」
「初めまして。私はエスパーの西京という者だよ。旅をしていてね。旅の間に偶然出会った御息女をお預かりさせて頂いていたのだよ」
「なんと……そうでしたか。あっふ! いや、これは申し遅れてすまない。私はシャルロットの父親のムッシュと申します。娘がお世話になってしまったようで……んっ!」
「ガーーーーーーーッハッハッハ!! ムッシュよ、西京殿は本当によい方であるな!! 積もる話は西京殿と共にしようではないか!!」
「ああ、そうだな!! ん゛っ! よし、一番いい酒を出すぞ!! まだ日が昇ったばかりだが今日は特別な日だ!」
ダディは全身タイツ。
西京はリスではあるのだが股間に葉っぱ一枚。
ムッシュは肉じゅばんは着ているが透明でその下は裸。
チョンカには大人達の社交を見ていて、服を着ているダディが少しまともに見えていた。
「やめて!! もうやめて!! その格好で社交的な挨拶をしないで!! 早く家に帰って!! うわーーーーーーーーーーああああんっっっ」
「シャル……」
「かわいそうに……ワイの胸で泣くか?」
ムッシュが西京達との話を切り上げ、チョンカの方へ歩み寄ってきた。
チョンカはどうすることもできずその場で硬直してしまう。
いつものチョンカであればきっと近付かれたらサイコルークスをお見舞いしていたか、サイコキネシスで吹き飛ばしてしまっていただろう。
しかし相手はシャルロットの父親なのだ。チョンカの目は泳ぎに泳いで潜水までしていた。
「君がチョンカちゃんかい? うぅっ!」
ムッシュはさすがシャルロットの父親だけあり、年老いながらもスラリとした体型をし、かなり美形である。薄い色の金髪をなびかせ、声は渋く、嬌声にさえ気品と色気があった。
「う、うち……うち……」
気品があろうが、渋かろうが、裸である。
「シャルロットのお友達になってくれた──ああぉっっっ!!」
チョンカの目の前で、ドクターフィッシュに乳首を噛まれていた。
「ひっ!! お、おじさん、い、い、痛くないん? それ……」
「ははは、おじさんは病気でね。こいつらはそれを治してくれてるのだが……そう、時折いたずらをするのさ」
ムッシュは、チョンカにパチッとウィンクをしてみせる。
裸でなければとても様になっていたであろう。
「パパ、もう、もう、もうやめて! もういいからチョンカから離れて!!」
「ははは、友達を親に紹介するのが恥ずかしいんだね? パパも昔そうだったから良く分かるさ。ともかくチョンカちゃん、うっ! あぁぉ……シャルロットの友達になってくれてありがとう。後で家に来るといい。かんげうひっ! ……歓迎するよ」
「は……はい……あ、ありがとうございます」
「ワシも一緒にお邪魔しますわ!」
大人たちはシャルロットの家へ向かった。
呆然としながら背中を見送ったチョンカは、泣き崩れるシャルロットの背中を優しくさすってやるのであった。




