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誠の乙女!黄泉がえりの局長は新選組の結成を全力で阻止する  作者: 二コ・タケナカ
第三章 「ツネ」

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3-4 「ワシは、天然理心流の三代目宗家、近藤周助」

師匠が放った野太い大声に、一体何事かと慌てて下男《げなん》が門まで駆けつけてきた。

「へい、何用でございますか?」

最初は道着姿の物騒な集団に戸惑いの表情を浮かべていた男だったが、その中にツネの顔をみとめると、フッと警戒を緩ませた。

「お嬢さんじゃありませんか、どうなさったんです?そんな格好で、」

「主人はおられるか?話がある。お目通り願いたい」

師匠が堂々と言い放ち、後ろでツネがコクンと小さくうなずくと、下男は屋敷に駆けて行き、直ぐに戻ってきた。

「どうぞ、こちらへ」


通された居間でワシは胃がひっくり返るような思いであった。

(この緊張感……結婚の挨拶に伺った時の事を思い出すのぉ……)

当時のワシは緊張のあまり何も喋れず、ツネの父上とは一言二言当たり障りのない挨拶を交わすのがやっとだった。

(……そういえば、あの時も師匠が上手いこと間に入って、場を取り持ってくれたのだったな)


一体、師匠は何を切り出すつもりなのか?

静まり返る中、ドクドクと胸の鼓動が聞こえてきそうなほどだ。程なく、スッと静かにふすまが開き、この家の主が姿をみせた。


松井八十五郎《まついやそごろう》――ツネの父親である。

御三卿の一つである清水徳川家に「近習番《きんじゅばん》」として仕えているだけあって、その身なりは乱れなく整えられ、一つひとつの所作に染み付いた礼儀正しさが自然と見て取れる。

近習番といえば、主の側で身の回りの世話を焼きつつ、いざとなれば警護の任にもあたる重要な役職だ。だが、日々の実務に追われているとツネから聞いていた通り、荒々しい武芸百般に秀でた者というよりは、気品のある文官肌の印象を受ける。

豪快な師匠とは、まさに見た目も気質も真逆の存在だった。


八十五郎は、道着姿のワシらを見て怪訝そうに眉をひそめ、戸惑いの混じった声で口を開いた。

「それで……本日は、一体どのようなご用件でしょうか?」

「ふむ、」

師匠はあご髭をさすって考えている。ワシも少し、拍子抜けしていた。あまりにも落ち着いているのだ。てっきり、ツネが家を飛び出したことで、父上は怒っているものだとばかり思っておったのに……

ツネは書置きを残してきたと言っていたが、もしやまだそれに気付いていないのだろうか?

(どうするのだ、)


すると師匠は人当たりの良い笑みを浮かべてこう切り出した。

「いやぁ、日頃からツネ殿には道場の切り盛りなどで何かと、お世話になっておりますゆえ、一度ご挨拶に伺わねばと思っていたのです。――ワシは、天然理心流の三代目宗家、近藤周助と申します」

「それは、ご丁寧に」

お互い軽く頭を下げ合った。


「わざわざ挨拶に来られたのに申し訳ないが、私はそもそも……」

話の途中で、師匠がスッと片手をかざしてそれを遮る。

「いや、みなまで言わずとも十分、承知しておりまする。大切な娘を男っ気の強い道場に通わせているのですから。さぞかし気を揉んでおられることでしょう」

「はぁ……」

「我が天然理心流は実戦形式を重んじる武骨な流派ゆえ、勝気な男どもが多いのは

確かです。しかし、ワシもそれだけではイカンと考えておりましてな」

「……ほう、」

「これからの時代、おなごであっても身を守れるよう、武術を体得するべきだと思うのです」

「しかし、おなごの武術といえば薙刀で十分でしょう?」

師匠は大げさなくらいに頷いてみせた。


「ごもっとも。まったくその通りでございますな。しかし、ご承知の通り、昨今は世が乱れておりますでしょう?一見すると世間は平和を装ってはおりますが、その実情は富める者が大いに私腹を肥やし、貧しい者は搾取されるばかり」

今度は八十五郎の方が大きく頷いている。


「その上、巷にはどこのものとも分からぬ外国船が姿を現していると言うではありませぬか」

八十五郎の表情が少しだけ引き締まった。

「その事については我が主も懸念しておられる」

初めて師匠の話題に興味を示したようだ。

「流石は清水徳川家のお殿様は先見の明をお持ちであらせられる。ワシ如きが

心配する種は小さなものかもしれませぬが、こういった人々の不満や不安が芽を出せば、大ごとになるのではないかと愚考する次第」

師匠がビシッと力強く人差し指を立てる。

「そこで!先ほど申した、おなごにも武術を学ばせる道があって、よいのではと

考えておりまする」

「……なるほど、」


いつもの師匠といえば、どこか掴みどころがなく、酒と気さくな振る舞いが取り柄の豪傑なのだが、こうして語る理屈や世間の捉え方は、あながち的外れなものでは

なかった。

もう数年もすれば黒船が浦賀に現れる。未来では、幕府の対応のまずさを発端として、日本が血なまぐさい、激動の時代へと突入するのだ。

師匠のその言葉には、武芸者としての勘を超えた、確かな時代のうねりを捉える

鋭さが潜んでいる。

ー補足ー

下男《げなん》とは、武家や商家に住み込んで台所仕事や掃除、荷物持ちなどの雑用をこなした男の奉公人。女性の住み込み使用人は下女《げじょ》

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