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誠の乙女!黄泉がえりの局長は新選組の結成を全力で阻止する  作者: 二コ・タケナカ
第二章 「ソウジ」

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2-11 「これはマズいやもしれんな……」

道場の隅で見学していたツネも、顔を真っ青にして駆け寄ってきた。

「ソウジさん!」

ワシが抱きかかえた総司の体を揺すってみるも返事は無い。見ている内に顔からはスッと血の気が引き、そして唇は紫に染まっていく。慌てて首筋の脈に指をあてると、動いてはいる。しかし、その目は瞳孔が開いており、尋常ではない。口元に手を当てて確認すると、息をしていなかった。

「まずい!」

直ぐに背中を平手で思いっきりはたく。


パ――ンッ!!


「かはッ!」総司は意識を取り戻すと同時に、平手打ちにより空気を吐き出した。スーッ!と、大きな呼吸をしたのを聞いて、ワシは総司をその場に寝かせた。

「しっかりして!」

「おい!しっかりしろ!」

ワシらの問いかけに総司は応えず目をぱちくりするばかりで、そのまぶたは痙攣している。そして呼吸は浅く、早い。額からは大粒の汗も噴き出してる。

「もしや、この暑さに当てられたのではありませんか?」

ツネが風を通してやろうと道着の帯を緩めようとして、一瞬ためらい手を止めた。

「イサミさん!桶に水を!」

「お、おう!分かった」

すぐさま水を汲んで戻ってくると、総司はツネの膝に頭を乗せ膝枕されていた。その顔には幾分、生気が戻っている。水で絞った手拭いを額に当て、水を飲ませてやるとようやく落ち着いた。


「大丈夫か?」

「……はい、」

そう答えたものの、 声にはまるで力が無かった。いつも輝いている大きな瞳も、 今はどこか焦点が定まっていない。小さな肩は呼吸のたびに上下している。

「そうか……大事ないのであれば良かった。それにしても、いきなり気を失うのだから驚いたぞ」

険しい表情だったツネもようやく安堵したように胸を撫で下ろし、いつものにこやかな笑みを浮かべた。

「ええ、本当に。私まで心臓が止まったかのような心地でした」

「総司、お主もしや病を抱えておるのか?このように倒れる事は以前にもあったか?」

「……いえ……今回のような事は、」


総司はそう言ったが、ワシには心当たりがあった。前世で、あの池田屋に踏み込んだ時の事だ。激しい切り合いの最中、総司はいきなり卒倒した。

それまでの総司は青年らしい気力と体力に満ち溢れており、大きな病にかかった事など一度も無く、たまに風邪をこじらせる程度だった。なのにあの日、何の前触れもなく倒れたのだ。結核ならば徐々に体は弱るので、それまで健康だった者がいきなり卒倒するのはおかしい。

(何かの病とは違う気がする……)

先ほどツネが暑さに当てられたのではないかと言ったが、真夏ならいざ知らず、もう夏の終わりである今の時期、暑さに参る程ではない。それに、あの池田屋に踏み込んだ時も初夏であったのだ。総司が倒れた理由は、病気や暑さとは別の「何か」にあるはずだ。


ワシは稽古の最中からずっと気になっていた、もう一つの疑問を投げかけた。

「総司……お主、まさか立ち合いの最中、息を止めていたのではないか?」

ハッとした表情から、次第に子供じみた笑顔に変わる。

「息を止めているかもしれません。止めているというより、集中し過ぎて息をするのも忘れてしまうと言えばいいのか……」

(やはり、)

早朝の稽古では声を出していたのに、先ほどはまったく掛け声を出していなかったのだ。

「……そういう時、自分の周りの視界がだんだん暗くなって、何もかもゆっくり動く様に感じるのです……相手の剣筋が手に取るように分かるというか、」


ワシは腑に落ちた。

極限の状態に身を置いた事のある者なら理解できる感覚だ。生きるか死ぬか、真剣で命を切り結んでいるまさにその瞬間、不思議と相手の動作が緩慢に、遅く見えることがある。武道で言う無心とは違う。意識は一点の隙もなく鋭利に集中し、余計な雑念は完全に削ぎ落とされているのに、全身の血液は沸騰するほど熱く滾(たぎ)っている。いわば、『覚醒』とでも言えばいいのか……

ワシでさえ、動乱の京都で幾度も刃を交えるうちに知った感覚であるが、総司は命のやり取りをする以前からその境地を体感していたらしい。


(しかし、これはマズいやもしれんな……)

呼吸を忘れるほどの没頭。それが体に大きな負担をかけているのだとしたら?


「……よし、今日の稽古はここまでだ。もうゆっくり休んだ方がいいであろう」

ツネに支えられ、よろよろと帰って行くその小さな背中は、見ていて忍びない。

(ワシが守ってやらねば……)

ー補足ー


池田屋事件

元治元年 旧暦の六月五日(1864年7月8日)亥の刻(午後10時ごろ)に起きた。

当時、新選組は「京都に放火し、孝明天皇を長州へ連れ去る」という計画を知り、会津藩にも報告。共同で対応する予定が、会津藩の準備が遅れ、新選組だけで先に対処することになった。


新選組は探索箇所を二手に分けて探しており、近藤勇率いる「近藤隊」10名は池田屋へ、土方歳三率いる「土方隊」約24名は別の潜伏候補地であった「四国屋」方面の捜索に向かった。

近藤隊が池田屋に到着した際、逃走を防ぐために表口や裏口の警備に6名を配置し、実際に屋内に踏み込んだのは近藤を含むわずか4名。


・屋内に踏み込んだ4名

近藤勇(局長) 沖田総司(一番隊組長) 永倉新八(二番隊組長) 藤堂平助(八番隊組長)

・屋外を固めた6名

武田観柳斎 谷万太郎 浅野薫(藤太郎) 奥沢栄助 安藤早太郎 新田革左衛門


池田屋にいたのは20〜30名からなる尊皇攘夷派志士。

近藤勇と 沖田総司が先陣を切って二階に駆けあがり、永倉新八と藤堂平助が一階で逃げようとする志士と対峙したと言われています。


戦の途中で沖田総司が昏倒により戦線離脱し、藤堂平助も額を斬られて重傷を負うなど、一時、近藤と永倉の2人のみが残される窮地に陥ったが、遅れて駆けつけた土方隊が合流したことで一気に事態は制圧へと向かう。

また、屋外を固めていた隊士のうち、奥沢栄助は戦死(討死)、安藤早太郎と新田革左衛門も激戦の中で負傷し、後に怪我がもとで亡くなる。

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