2-7 「ならば一緒に入るか?」
その日の稽古は早々に切り上げられ、新しくやってきた総司の入門を祝して盛大な歓迎会を開こうという話になった。それぞれが食べたいものを買い求め、夕飯の席に持ち寄るという寸法だ。
「アナゴのかば焼きなど、いかがか?」
「いいですなぁ!そいつで一杯ひっかけるとしよう」
門下生共は総司の歓迎会にかこつけて、単に酒を飲みたいだけらしい。
「では、ワシは酒を買い求めに行ってくるとしよう」
師匠まですっかり宴会気分である。まずは皆で銭湯に行って、ひとっ風呂浴びてから、ついでに買い出しを済ませてくるのだという。
「ソウジ、皆と銭湯に行こうではないか」
林太郎が総司を誘ったが、もじもじとして返事をしない。
「今日は歩き詰めで疲れたであろう?銭湯で汗を流してさっぱりしてはどうかね?」
源さんも優しく声をかけたが総司は恥ずかしがっているのか曖昧な返事を繰り返すばかりだ。
そんな様子を見かねて、ツネがスッと間に割って入った。
「まだ道場の雰囲気にも馴染めないでいるのでしょう。特に子供のうちは、こういう大勢での連れ立ちに戸惑うものです」
さすがツネじゃ。よう気遣いが出来る。ワシもその意見に加勢する。
「ふむ。では、風呂を焚いてやろう。ここ試衛館には内風呂があるからな」
この提案に、総司の顔がパッとほころんだ。
「よいのですか?」
「ああ、構わんよ。遠慮するな」
すると源さんが残念そうに声を漏らした。
「せっかくの裸の付き合いだと言うのに……イサミ殿だって銭湯には一度も参られない」
「いや、ワシは……」
おなごじゃぞ?兄弟子と裸の付き合いが出来るか!
「よし、総司。風呂を沸かすのを手伝ってくれ」
「ハイ」
それ以上言及されぬよう、ワシたちはその場から退散した。
ワシが米を炊き、ツネが暖かい汁物を用意し、総司が風呂を沸かす。
総司は小さい体ながらに、桶に組んだ水を汗しながら運んでいる。水汲みくらいは代ろうかと言ったのだが断られた。これは遠慮ではなかろう。総司も既に剣術バカなのだ。鍛錬の一環として捉えているらしい。ワシはその様子を微笑ましく見守った。
人手が増えるだけで、こうもはかどるものなのかと、労せず準備は整った。総司は馴れぬ作業に汗びっしょりだ。
「よし!夕飯の前に、先に風呂に入ってしまえ」
「え……私は後で構いません」
「遠慮するでない」
「いや、しかし」
「ならば一緒に入るか?」
小さな肩がビクリと跳ねた。
「い、いえっ!」
目を見開いた総司は、まるで水を被った子犬の様に頭を振った。その顔はなぜか耳まで真っ赤だ。
「一人で大丈夫ですので!」
言葉もそこそこに、そのまま風呂場へと駆け込んでしまった。
(なんだ?あ奴……そんなに恥ずかしがらんでもよいものを)
前世でも総司とは一緒に銭湯へ行っては面倒をみてやったもんだ。ワシは末っ子ゆえ、兄として懐いてくれる総司のことが気に入っていたし、総司も末っ子ではあるが、父親は物心つく前に亡くなっており、残された二人の姉とは違い、男に頼るという機会が無かったのであろう。ワシに良く懐いてくれたものだ。
その日の歓迎会は、夜遅くまで大いに賑わった。総司は酔っ払った門下生たちに囲まれ、 少々困ったように笑っていた。その様子を眺めながら、ワシは思わず口元を緩めた。
(まったく、昔のままじゃのう)




