2-4 「ワシ……まだ食っておるのに」
悩み込むワシに源さんが意外そうに言う。
「何を悩む必要があるのかね?イサミ殿なら弟弟子が出来ると、喜んでくれるものだとばかり思っていたのだが、」
確かに前世でのワシは、初めての弟弟子となる、総司が入門することを喜んだ。実際、弟の様に可愛がり、総司もワシの事を兄の様に慕ってくれた。そのかけがえのない日々をもう一度過ごせる。それはあまりに誘惑的だ。だからこそ、感情に流されてはいけない。総司の為を思えば、兄として守ってやらねばならぬのだ。ワシは未来を知っているのだから。
黙っていた林太郎も付け加える。
「ワシが天然理心流に入門してから、ソウジとは一緒に素振りをするようになったんじゃが、幼いながら、なかなか様になっておってな。もしやすると、今から鍛錬を積めばひとかどの剣士になるのではないかと思っておるのだ」
総司の才能は一番近くで見てきたワシが誰よりも知っている。奴は、生まれながらにして剣の天才だ。なによりも剣を振るうこと自体が楽しくて仕方がないのだ。
稽古では、歯を食いしばって鍛えるのと、愉しんで鍛えるのとでは、圧倒的に後者の方が上達は早い。総司はいつだって、無邪気な笑みを浮かべながら楽しそうに竹刀を振っていた。
一向に返答を出さず悩み続けるワシを見かねて、源さんは先にツネを味方に付けようと考えたのか、そちらへ話を振った。
「ツネ殿はいかがであろう?内弟子が増えれば、その分、家事などの手間も減るではないか」
「私は家事を負担だなどと思っておりません」
なんとも淡白な答えが返ってきた。そして、ツネの静かな視線がすっとワシに向けられる。
「イサミさんは、どうなさりたいのですか?」
よいよ、ワシ一人の決断に委ねられてしまったようだ。
「う、うむ……」
何度考えても答えが出ぬ……
(だが、待てよ?)
ソウジは既に剣を握っているのだ。ここでワシが試衛館への預かりを断ったとしても、きっとあ奴は一人で鍛錬を続けるか、どこか別の道場へ通い始めるに違いない。
そうなれば、将来「浪士組」の話が持ち上がった時、ワシの知らんところで参加してしまう恐れだってある。ならば、最初からワシの手元に置いておいた方がよっぽど安全ではないか。それに、兄であるワシが「京都には行かぬ」と決めれば、弟である総司も素直に従ってくれよう。
「良いのではありませぬか、その話」
ワシの言葉に、源さんの表情が明るくなった。
「そうか、良かった。では、その様に話を進めるとしよう」
「はぁ、」
隣から小さくため息が聞こえた。ツネのものらしい。
「イサミさん、早く召し上がってください。お膳が片付きませんから」
「お、おう……すまぬ」
(なんじゃ?ツネの奴、急に不機嫌になりよって……総司の入門は反対であったのか?)
理由を尋ねる間もなく、ツネはサッと立ち上がると、夕飯の後片付けを始めてしまった。
(ワシ……まだ食っておるのに)




