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俺(40歳成人男性)が魔法少女に?!  作者: 桃地公多浪


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第7話 運命の出会い

 誰かの悲鳴がして、俺は駆けつけた。

 人が大勢いる休日の喧騒。刃物を持った男が、通りすがり、見ず知らずの他人を切りつけたのだ。

 通り魔の出現に、場は騒然としていた。

 パニックのなか、しかし冷静な者が1人だけいた。

 俺、だった。


「観念しろ、悪党め」


 俺には見える。通り魔は取り憑かれていたのだ。人の不幸を喰らい、この宇宙の平和を乱す存在。魔法少女の敵である、悪魔に。


「あいつをこのまま放っておけば災厄になる。ここで倒そう、大二郎」

「言われるまでもない」


 会社のビルに地震をおこしたボスキャラと同格かもしれない。サイズは小さいが、禍々しさが凄まじい。


「一撃で仕留める」


 俺は瞬きの間、敵の懐に潜り込み、拳を握りしめた。驚いた敵は、俺に向かって刃物を振り下ろす。

 が、俺のマジカル・ジャケットが、刃物を通さなかった。それどころか、刃物は剛鉄に突き立てられたかのように、へし折れた。

 人間世界の道具が、魔法に敵うはずもない。


「ーーッ!」


 俺の拳が、敵の鳩尾に入った。

 渾身の一撃が、敵を貫く。


「ウォォォーーーー!!」


 悲鳴の後、敵は爆散した。

 抜け殻となった本体の人間は、意識を失い、膝から崩れた。

 事が終わってから間もなく、見知ったおっさんが話しかけてきた。


「いやはや、すごいじゃないか田中君」

「部長……」


 部長はビジネススーツ姿だった。

 敵を察知し、駆けつけてきたのだろう。ただ、人の目があるためか、部長は変身まではしていなかった。


「私の助けはいらなかったようだね」

「部長にはご家庭がありますから、無理なさらないでください」

「私だって魔法少女だ。いざという時は戦うさ。気を遣ってくれてありがとう」


 二人の会話に割って入るように、それを見物していた若者が冷やかしの言葉を浴びせる。


「なんだあれ! コスプレしたおっさんじゃねぇか!」

「気持ち悪くて笑える!」


 スマートフォンを向け、カシャカシャと写真を撮っている。昔の俺なら耐えれなかったかもしれない。だが、今は違う。

 俺は、魔法少女だ。無敵の美少女だ。夢を叶えるための道のりだ。これくらいなんてことない。


「部長、私から離れてください。あなたも同じだと思われてしまう。世間的に」

「あ、ああ」


 俺はSNSをしていないから分からないが、今は写真1つで簡単に世間に広まるらしい。顔も隠さず、魔法少女のコスプレで見えない敵と戦っている様は、さぞSNSの格好の餌食だろう。


「では、また会社で」


 部長を尻目に、俺は帰路を辿る。

 その背中に色々な声が浴びせられるが、俺は気にもとめない。ここで動じることは、俺の魔力の低下につながる。

 魔法少女のまま、公衆の男子トイレに入り、置いていたボストンバックを開く。中にはスーツと、下着用のスポーツブラと女の子用のパンツがある。

 俺はいつものルーティンを崩さない。

 無言のまま、俺はいつもの表向きの格好に着替えた。

 公衆トイレから出ると、見知らぬ女の子が立っていた。なんだかこっちを見ているようだったが、俺には関係ないと思って視線をそらす。そらして、その場から去ろうとした。


「待ってください!」


 周囲には人はいなかった。

 その呼びかけは、俺に向けられていたのだ。

 にわかに信じられず、俺はその子を二度見した。


「あの! 私、見てました! あなたが悪魔を倒すとこ!」

「え、あ……」


 真っ直ぐに見つめてくるその子を直視できず、言葉が吃った。

 この子はきっと、先程の通り魔のことを言っているのだろう。魔法少女の敵は魔法少女にしか見えない。


「どうやったら、あんなに強くなれるんですか!」

「いやぁ……」


 俺が言いにくそうにしているのが伝わったのか、その子は突然、はっとした顔になった。


「あっ、私も見えてます!」

「え、え、見えて……る?」

「はい! だって私も――」


   ●


 最初は、なにかの間違えで声をかけられたのだと思った。

 話を聞くと、彼女は14歳で、塾から帰る途中に俺を見たらしい。

 興奮気味に話す彼女の口調、俺を見る眼差しは、それまでの周りの奴らとは違った。


「いやー、よもやよもや。君も魔法少女だったんだねぇ」


 久々に奇譚なく部長以外の人と話した。ついつい俺も口調も前のめりになる。


「私も驚きました! 私なんかより全然強くて! それに……」


 彼女は口ごもった。

 言いにくそうな様子を見て、その先は俺が言うことにした。


「男なのに魔法少女だもんね。驚くよね」


 何でもないことのように、俺は笑う。それを見て、彼女の顔も綻んだ。


「驚きました! 男の人でもなれるんですね!」 


 俺達の楽しげな会話に、淫獣が余計な口を挟む。


「男女は関係ないよ。人間世界ではジェンダー? っていうみたいだけど、大二郎のジェンダーは魔法少女だったんだ」

「やめろ! それ以上言うな!」


 俺の必死の制止に、この人外生物は構わず話を続けようとする。それ以上は余計な話だということが分からないらしい。せっかく仲間になれそうなのに、彼女に無駄な偏見を与えることになるだろうが。

 しかし、それは杞憂だったらしい。

 彼女は、それよりも得意げに話す人外生物の方に興味があったようだ。目を見開いて、「やっぱりそうだ!」と会話を遮る。


「モキュちゃん、こんなとこにいたんだ!」

「え? モキュ……?」


 一瞬、俺のことかと思ったが、様子が違うようだった。


「やぁ、舞。契約以来だね」

「いきなりいなくなったから心配したよー!」

「舞……?」


 俺は困惑した。俺の最愛の人と同じ名前。そして魔法少女。そんなことがあるのか。

 そこから先は、二人の話は耳に入ってこなかった。


「僕にも魔法少女を増やすっていう仕事があるからね。突然いなくなったのは謝るよ。でも、こうして再開できたのも何かの運命だ。改めて、よろしく頼むよ」


 何を言っているのか分からないと、あっけらかんとする俺を見て、彼女は言う。


「私、この子と契約したんですよー」


 屈託のない彼女の笑顔。例えそれが彼女にとっては愛想笑いでしかなくても、俺にとっては眩しくて、とても直視できなかった。


「あ、あぁ……そう、なんだね」 


 俺もだよ……舞ちゃん……。

 

 


 



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