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俺(40歳成人男性)が魔法少女に?!  作者: 桃地公多浪


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第6話 魔法の真理

 結局、俺は部長に同行して、何を学んだのだろうか。

 投げ飛ばされた俺は、途中で意識を失っていた。

 いつまでそうしていたのか分からないが、気がつけば、よく分からない新興宗教の集団に捕まっていて、手足を縛られていた。

 ガソリンをかけられ、意味の分からない祈りと共に殺されかけたその時、どうにかしてあの巨大な悪魔を倒したらしい部長が現れ、また俺を助けてくれた。

 始まりも地獄、終わりも地獄。

 振り返っても、そんな嫌な思い出しか残っていなかった。


   ●


 溜め込んだ有給休暇を消化しつつ、今日の俺は、自分の進退を考えていた。

 あの会社に戻れる気がしない。築き上げてきた信頼も、地位も、エントランスで変身したあの瞬間に失ったんだ。

 受付嬢が俺をみる軽蔑の眼差しが、瞼の裏に焦げ付いている。

 だが、この問題は一生付きまとうものかもしれない。今の会社をやめて新しく働き始めても、敵が攻めてきて、魔法少女に変身したら、また同じことになる。

 俺はいつ戦いとなるか分からない身だ。こちらが悪魔を無視しても、悪魔は俺を認知して攻撃してくる。見ないふりをして通り過ぎようともしたが、悪魔に後ろから襲いかかられた。

 だから、職場にバレるリスクは常にある。かと言って、俺にだって生活がある。働かないわけにもいかない。

 どうしたものか。


「えぇー、そんなこと僕に聞かれてもなー。人間社会のことはよく分からないよ」


 淫獣に聞いたのが馬鹿だった。

 こいつらは俺の生活がどうなろうと関係ない。ただ悪魔どもを倒し、エネルギーを回収して、正常な宇宙の循環を取り戻したいだけだ。

 その後に残される俺のことなんて、どうも思っていないだろう。


「これからどうしようかなぁ」

「どうするって、大二郎は魔法少女なんだから、僕としてはガンガン悪魔討伐してくれることをお願いしたいな」


 今日は暇なのか、俺の独り言にいちいち反応してくる。


「俺は部長と違って、武器も持ってないんだけど。拳で戦う魔法少女とか見たことないんだけど」


 そもそも少女でもなく、魔法も使えないのなら、それはもうただのおっさんだ。

 俺のどこが魔法で少女なのか、教えてほしい。


「でも、それが弱いわけじゃない。どんな魔法少女にだって強みがある。大二郎は大二郎なりの強さを見つければいいんだよ」

「笑わせてくれる。そんな魔法少女、見たことがない」

「わかった! 大二郎の魔法は接近タイプなのかも! 肉体強化とか、攻撃が当たってから効果が出るとか」

「それ、敵の攻撃を受けるリスクが相当なもんじゃん。絶対に遠距離攻撃のほうがいい。わざわざ近づきたくない」

「避ければいいじゃん? 当たらなかったらどうってことないよ」

「簡単に言うっ」

「だって、そのための魔法だし」


 こいつも俺の受けた痛みと恐怖を味わえば、そんな軽口は言えなくなるだろう。もっとも、人間じゃない奴に、俺の気持ちが理解できるわけもないか。

 言い合いは不毛と理解して、そこまでの言葉は飲み込んだ。


「大二郎。魔法は心だよ。大二郎の想いが、願いが、魔法になるんだ」

「なんだそれ。気の持ちようってこと?」

「そうとも言うね。君のまとうマジカル・ジャケットも、部長が持っている空飛ぶステッキも、すべては心の力が源さ」


 しれっと重要なことを言ってくれる。

 そういうことはもっと早くに明かすべきだ。

 俺がどんな辛い目にあってきたと思っている。


「じゃあ、俺が素手以外を望めば……」

「かなり大変だろうけど、他の魔法だって扱えるかもね」


 その時、真っ暗だった俺の魔法少女キャリアに、希望の光が差し込んだ。


「無敵のマジカル・ジャケットをイメージすれば……」

「あんなこと、にはならなかっただろうね」

「もし俺が、魔法少女に、女の子になりたいと望めば……」

「前例はないけど、可能性は否定できないね。魔法には無限の可能性がある」


 そうか。全ては、俺の想いが足りなかったからなのか。

 逆に、それ次第で俺は、無敵で可愛い美少女にだってなれるってことだ。


「ただ、どんな魔法にも魔力が必要だ。大二郎の場合、まずは魔力を鍛えることが必要かな」

「どうしたらいいんだよ」

「願いや想いって、自己肯定のうえで成り立っていると思うんだよね。まずは自分自身を信じる強さ。自分を騙せない人が本物にはなれないでしょう?」

「確かに……」


 思えば、なぜ部長はあれだけ強いのか。魔力がすさまじいのか。

 部長は、もともと自分に自信を持っている。仕事でも決して折れない。そのうえ、魔法少女の姿に抵抗がないどころか、そこに誇りさえ感じているように見える。魔法少女になっても、部長は部長だった。

 部長にあって俺にないもの。それは、魔法少女としての自分を受け入れること。自己肯定感だ。

 ただ、俺と部長とでは決定的な部分が違う。

 部長は女装プレイ趣味の変態野郎だから、魔法少女姿は夜のユニフォームと同じ。何も苦に感じることはない。しかし、俺にとっての魔法少女は女の子なわけで、俺が俺のまま魔法少女になることではない。

 俺は、可愛い魔法“少女”になりたかったんだ。舞ちゃんみたいになって、舞ちゃんと一緒に戦いたかったんだ。

 イメージと違うものを、そんな簡単に受け入れられるはずがない。


「大二郎の場合、なんだか自分に卑屈なような気がする。オタクやニートにあるらしいけど、そういう人はまず見た目からこだわったほうがいいってさ。着ている服を買い直したり、美容室にいったり、ダイエットしたりね。そしたら、自信がつくんだってさ」

「それ関係ある? ハゲとおっさんが強すぎて、お店の人に笑われちゃう」

「うーん、そういう所じゃないかなぁ」


 そういう所、という言葉がやけに引っ掛かった。そして、気がつく。


「……なるほどね」


 俺は、この見た目が悪いんだ。こんな見た目だから、自分を魔法少女として認められないでいる。そこから来る拒絶反応、思っていたのと違うという自己否定が、俺の成長を止めているに違いない。

 悔しいが、こいつの言う通りだった。

 まずは自分を騙すこと。そのためには、見た目を変えること。その結果が自己肯定につながっていく。そして、自己肯定は魔力の源であり、願いや想いの礎なのだ。

 そう言いたかったんだろう! 俺は課長だから、難しい話でも理解したぞ!


「俺、変わるよ」


 そうと分かれば、俺のやるべきことは決まっている。


   ●


 まず、見た目を変えることにした。

 ――俺は魔法少女、魔法少女なんだ。

 魔法少女は女子中学生。スーツの下にVネックのインナーなんて着ない。黒一色のビジネスソックスなんかも履かない。もっと可愛い柄の靴下でないとおかしいし、パンツだって、きっと動物の絵とか描かれているに違いない。


「んー、前よりも見た目が悪化している気がするけど……」

「黙ってみていろ!」


 俺は真剣だった。

 舞ちゃんが着ていそうな服や下着を買いあさり、それを身につけた。最初は家の中だけで、そういう格好でいた。

 次に、女の子が持っていそうなリップやカバン、靴といった小物も身につけるようにした。筆記用具やノート、メモ帳なんかも可愛らしいものにした。仕事でもそれを使うようにしている。

 周りは俺のことを、心が壊れた人のように扱うが、まったく気にしない。

 朝起きてから寝るまで、食べる物から食器まで、俺は女の子を意識した。


「これだと、部長と同類に思われても仕方ないね」

 

 ある意味、そうかもしれない。だが、受験と同じように、自分を騙すには形や環境を変える必要がある。そうすれば、自然と自信もついてくるし、モチベーションも上がるというものだ。

 何故、こうまでして俺が魔力を強めたいのか、この淫獣にはわかるまい。

 ただ敵を倒すことだけが目的ではないのだ。

 こいつは俺に、魔法ならば女の子にもなれると言った。正真正銘の魔法少女にだ。

 それが分かれば十分。俺は、俺の夢に向かって突き進む。


「すごいよ大二郎。以前に比べて魔力が増している」


 やはりか。この行いは正解だったらしい。

 このまま魔力を高めていって、俺は本物になるんだ。


「でも、まだ足りない。次は、これで外に出てやる。そうしたら、俺は俺に、もっと自信を持てる気がするんだ」


 何故そうしたら良いと思ったのかは分からない。だが、俺はそこに確信めいたものを感じていた。

 こうすれば、今よりももっと魔法少女に近づける。そんな気がした。


「大二郎がそう言うなら、仕方ないね。応援するよ」


 俺の魔力アップは、こいつの目で見ても明らかならしい。効果が見えてきた以降、こいつは俺の修行に口を出さなくなった。


「臆するな俺! 俺は魔法少女だ!」


 人気のない夜中を狙った。

 そろそろ部屋から出て、俺は女子中学生として外出する。

 はじめは近所の公園まで。そこから次第に距離を延ばしいき、最後には隣町まで行けた。

 必然的に通行人と遭遇する頻度も増えたが、どうってことはない。数をこなせばすぐに慣れた。

 俺に向けられる奇異の眼差しも、俺の夢が叶うまでのプロセスと思えば何も怖くはない。

 そうやって、俺は昼間でもその姿のまま出歩くようになっていった。


「君、その格好は何? どこ行こうとしてるの?」


 警察の職質も慣れたものだ。

 俺は何の罪も犯していない。堂々としていればいいのだ。向けられた質問には真摯に話す。彼らは正義の味方で、俺と同じなのだから。敵ではないのだから。


「普段着です」

「どこで手に入れたの?」

「近場のお店で買いました」

「本当? 盗ってきたりしてない? 最近、多いらしいんだよね」

「いえ、そんなリスクは犯せません。私は魔法少女になるために頑張っているんです。そんな暇はありません」

「どうでもいいけど、ちょっと署でゆっくり聞かせてよ」

「邪魔しないでください。俺は俺の誇れる俺になるんです。忙しいんです」


 それなのに、何回も交番に連れて行かれては、この日どこにいた等のアリバイを調べられたりする。

 真面目に働いている警察官には悪いが、修行の邪魔だ。目標に向かって一生懸命な俺ではなく、もっと悪いやつを捕まえろ。と、声を荒げたくなるところだが、俺は魔法少女だ。女子中学生はそんな風に言わない。

 感情をぐっと堪え、両手を膝の上に置き、誠実に答える。


「私が本気を出せば、どんな悪いやつでも魔法で一撃です。逆に困ったことがあったら教えてください。私も協力します」

「僕らとしては、あなたがそんな格好で出歩くから、今困ってるんだよね」

「なんでです? 私は悪いことはしていません」

「娘さんを持つ親御さんとかがねぇ、何かされるんじゃないかって不安がってるんだよ。子どもだって、君を見たら怯えている」

「それは気の毒ですが、今は多様性が尊重される時代です。いつも皆と同じでないといけない、なんてことはないんですよ。自分とは違った人を認められる大人にならなければ……。今は令和です。私としては、逆に皆さんへ考える場を与えていて、良い影響を及ぼしていると思いますよ」


 本心だった。人間よりも高次元生物のはずの淫獣も言っていた。現代は多様化社会だと。

 もっとも、俺が本物になる日は近いから、本物にさえなれば、皆も俺を認めざるを得ないだろう。多様もクソもない。


「すごいよ大二郎。以前とは比べものにならない。このままいけば、君はエントロピーをも凌駕するんじゃないか?!」

「奇跡でも魔法でも何でもいい。これまでの努力に、想いに、報いる日まで、進み続けるんだ。俺、行くよ……舞ちゃん?!」




 お母さんへ。

 世間から見たら、僕はもう、ホンモノなのかもしれません。

 しかし、俺が思う本物は、そのホンモノとは違う。

 今に見ていてください。

 あなたは昔、娘が欲しい、と言っていましたね。

 お母さんの願いのためにも、僕は頑張りますよ。

 僕は、魔法“少女”になってみせます。


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