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現世で搾取され続けたスピ子さん、異世界では大聖女様になるようです~「ありがとう」と1000回唱えた水が、神代のエリクサーとして認定されました~  作者: ぽてと
【第一章】 辺境の街と奇跡のサロン開業編

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第8話 看板猫はサイズ可変!~アニマルセラピーで宿屋が特級聖域(パワースポット)に~

聖王国領、辺境都市リーゼン。

 国を滅ぼすと言われた『銀雪の破壊獣』が、たった一人のスピリチュアル女子の「猫吸い」によって陥落した数時間後。


宿屋『木漏れ日亭』の入り口で、珠子は首を傾げていた。

「うーん……シリウス、そのままだと宿に入れないねぇ。波動はすっごく高くていいんだけど、物理的なサイズがちょっと大きすぎるかな?」


珠子の背後には、体長十メートルを超える巨大な神獣が、お座りの姿勢で「にゃーん(困った)」と鳴いていた。

 この大きさでは、宿屋の扉はおろか、外壁の門をくぐるのも一苦労である(先ほどは城門を乗り越えてついてきた)。


「当然だ! そんな神話級の化け物を市街地に入れるなど、正気の沙汰ではない! 今すぐ森へ帰らせろ!」

 アディが激しく抗議するが、珠子はポンと手を打った。


「そうだ! シリウス、あなたの『インナーチャイルド』をイメージしてみて! 心の中の、小さくて可愛い本来の自分にアクセスして、器を圧縮するの!」

『ニャン?』

「そうそう、リラーックスして……縮め、縮め~!」


珠子が手で小さくなるジェスチャーをすると、シリウスの巨大な身体がまばゆい光に包まれた。

 そして光が収まると――そこには、体長二メートルほど(大型のトラくらい)にまで縮んだシリウスの姿があった。

 元の十メートルに比べればはるかに小さいが、それでも普通の人間より大きい。しかし、全身を覆うフワフワの長い冬毛のおかげで、威圧感よりも「巨大なぬいぐるみ感(サイベリアン風)」が勝っていた。


「わぁっ! すごいすごい、ちゃんと自分の波動をコントロールできたね! えらいぞー!」

 珠子がシリウスの顎の下を撫でると、シリウスは『ゴロゴロゴロ……』と地鳴りのような音を立てて目を細めた。


一方のアディは、白目を剥きそうになっていた。

(質量保存の法則を完全に無視した、超高度な『肉体圧縮・空間操作魔術』だと……!? 己の魔力構造を根底から書き換えるほどの神業を、この女は『インナーチャイルド』などという謎の暗示一つで実行させただと……!?)


「よし、これならギリギリ扉を通れるね! お邪魔しまーす!」


珠子が宿屋の扉を開けると、中では親父のガンツが、ガタガタと震えながら身構えていた。

「ひぃっ!? な、なんだそのデカい獣は!? まさか、外壁に現れたっていう災厄の……!?」

「ガンツさん、ただいま! 今日からうちのサロンの『看板猫』になった、シリウスだよ!」

「か、看板猫ォ!?」


ガンツが叫ぶと同時に、シリウスは宿の奥にある出張サロンのスペースへ一直線に向かった。

 お目当ては当然、珠子が引き寄せた『幻の香木トレント・ロイヤル』製の超高級ベッドである。


ポスッ。


シリウスはベッドの上に丸くなると、前足でふかふかのクッションをふみふみと踏み始めた。

 幻の香木が放つ強烈な清浄マナと、神話級の神獣から漏れ出る圧倒的な光属性オーラ。二つの特級エネルギーが交わった瞬間――宿屋の空間そのものが、カッ!と黄金色に発光した。


「うおおおおっ!?」

 ガンツが目を丸くする。

 光の波紋が広がった瞬間、宿屋の中に染み付いていた長年のカビや汚れ、果てはネズミや害虫までが、浄化の力に耐えきれずにチリとなって消滅したのだ。

 そればかりか、ガンツの身体に残っていた微かな疲労感すらも綺麗に拭い去られ、宿の中の空気が、まるで高山の山頂のように澄み切ったものに変化した。


「す、すげえ……! 息を吸うだけで、身体の底から力が湧いてくるぞ! こりゃあ、下手な神殿より神聖な空気じゃねえか!」

「ふふっ! シリウスとベッドのおかげで、この宿が完全な『パワースポット』になったね! ガンツさん、これからもよろしくね!」


珠子がご機嫌でシリウスの横に座ってモフモフを堪能する中、アディは壁にもたれかかってズルズルと崩れ落ちた。


(……終わった。幻の霊木に、神話級の神獣。この二つが共鳴することで、この木漏れ日亭は今、教皇の御座所すら凌駕する『特級聖域(クラスA・マナ・シンギュラリティ)』と化してしまった……。もはやこの空間に、少しでも悪意を持った者が入れば、即座に浄化されて塵となるだろう……)


アディは、自分が護衛する対象が「歩く大災害」から「動く国家最高機密」にランクアップしてしまった事実を噛み締め、静かに涙を流した。


* * *


翌朝。

 宿屋の前に、昨日までとは比にならないほどの長蛇の列ができていた。

 それもそのはずである。昨晩、防壁で「珠子が災厄の魔獣を手懐けた」という噂は、騎士たちの口からあっという間に街中に広まっていたのだ。


「珠子様ーっ! どうか、その奇跡の神獣様を一目拝ませてください!」

「俺も! その神聖なオーラに触れて、商売繁盛の運気を分けてほしいんだ!」

「私は最近、不眠症で……神獣様の御力を……!」


押しかける群衆に対し、珠子は宿の窓から顔を出して笑顔で手を振った。


「はーい、皆さん順番に並んでねー! 今日からはオーリングテストに加えて、シリウスによる『アニマルセラピー』のコースも追加したよ! 一回銅貨二枚ね!」


珠子の合図で、客たちが一人ずつサロンのスペースへと通される。

 そこには、白銀のベッドの上にドカッと鎮座し、神々しいブルーの瞳を細めているシリウス(特大サイベリアン)の姿があった。


「わぁぁっ……なんて美しく、恐ろしいほどの威厳……!」

 最初の客である中年の商人が、畏れ多くて近寄れずにガクガクと震えている。


「大丈夫だよ! シリウスはすっごくフレンドリーだから! ほら、思い切って顔をうずめてみて!」

 珠子に背中を押され、商人は恐る恐るシリウスの豊かな胸毛に顔を近づけた。


『ニャン(ようこそ)』

 シリウスが優しく喉を鳴らし、商人の頭を巨大な肉球でポンと撫でた。


「ああっ……!!」

 商人はその瞬間、涙をボロボロとこぼし始めた。

「な、なんて温かいんだ……! 商売の失敗で荒んでいた心が、まるで母親の胎内にいるように満たされていく……! ああっ、浄化されるぅ……!!」


神獣の直接タッチ(肉球)と、特級マタタビ(霊木ベッド)の相乗効果。

 それは、ただのアニマルセラピーを超越した「魂の強制修復」であった。商人に取り憑いていた貧乏神(微弱な悪霊)は、シリウスの神聖オーラに触れた瞬間に「ギャッ」と短い悲鳴を上げて消滅した。


「よしよし、オキシトシン(幸せホルモン)がドバドバ出てるね! チャクラ全開だよ!」

 珠子は満足げに頷き、次の客を呼んだ。


それからというもの、サロンは異様な光景に包まれた。

 不治の病を抱えた者、強力な呪いを受けた冒険者、悪霊に取り憑かれた者が次々とやってきては、シリウスのモフモフの毛皮にダイブしていく。

 そして数秒後には、全員が号泣しながら「おおおっ、心が洗われる!」「痛みが消えた!」「借金なんかどうでもよくなってきた!」と完全なトランス状態で復活し、大量の銅貨と銀貨を置いて帰っていくのだ。


「すっごいねシリウス! アニマルセラピーの効果、絶大だよ! これで私たちの波動もさらに上がっちゃうね!」

『ニャーン!』

 珠子とシリウスはハイタッチ(手と肉球)を交わし、キャッキャと笑い合っている。


宿の隅で、ガンツが震える手で茶をすすりながらアディに話しかけた。

「……おい、アディの姐ちゃんよ。俺の宿、なんかもう『教会の大聖堂』より神聖な場所になっちまってねえか? さっきから、ただの風邪ひきが宿の敷地に入った瞬間に完治して帰っていくんだが……」


「……聞くな」

 アディは、死んだ魚のような目で遠くを見つめていた。

「あれはアニマルセラピーなどではない。対象の精神を強制的に高次元へと引き上げ、神の恩寵でバグを修正する『神域展開』だ。……珠子は、あの化け物をただの『ちょっと毛並みのいい猫』程度にしか思っていないようだがな」


珠子の「引き寄せの法則」と「スピリチュアルな思い込み」は、ついに街の生態系と常識すらも完全に破壊してしまった。

『木漏れ日亭の奇跡の大聖女と、使い魔の神獣』の噂は、ついに街を治める権力者の耳にも届くこととなる。


無自覚なチートサロンの快進撃は、まだまだ止まらない。

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