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現世で搾取され続けたスピ子さん、異世界では大聖女様になるようです~「ありがとう」と1000回唱えた水が、神代のエリクサーとして認定されました~  作者: ぽてと
【第一章】 辺境の街と奇跡のサロン開業編

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第4話 絶対看破のオーリングテスト~対象の脳内魔力を強制ハッキング~

聖王国領、辺境都市リーゼン。

 活気あふれる朝の時間を迎え、宿屋『木漏れ日亭』の一階にある食堂兼酒場も、朝食をとる商人や冒険者たちで賑わっていた。


その食堂の片隅に、不自然な一角があった。

 木箱をひっくり返して作った小さなテーブル。その上には、どこで拾ってきたのか丸い水晶玉(のような綺麗な石)と、お清め用の粗塩が盛られた小皿が置かれている。

 そして壁には、半紙のような紙に墨で『異世界スピリチュアル・サロン:出張所』と書かれた貼り紙があった。


「さあさあ、そこのお兄さん! なんだか肩のオーラが淀んでるよ! ワンコイン(銅貨一枚)で波動を整えていかない?」

 珠子は満面の笑みで、食堂を行き交う客に声をかけていた。


宿の主であるガンツの腰を「レイキ(という名の特級神聖魔法)」で一撃完治させた珠子は、約束通り宿の片隅を借りて、念願のサロン経営(仮)をスタートさせていたのである。

 壁際では、目立たないようにマントを被ったアディが、腕を組んで鋭い目を光らせている。彼女の仕事は、この常識外れのスピリチュアル女子がうっかり国を滅ぼすような真似をしないか監視することだ。


「おいおい、なんだいあの胡散臭いねーちゃんは」

「ガンツの親父の知り合いらしいが……『はどう』ってなんだ? 新興宗教か?」

 客たちは遠巻きにヒソヒソと囁き合っている。無理もない。この世界において、ちゃんとした治癒や鑑定は「教会の神官」か「魔導ギルド」に高額な金を払って依頼するのが常識なのだ。


そんな中、食堂の中央のテーブルから、ひときわ大きな声が上がった。


「だから! これは正真正銘、火竜ファイア・ドラゴンの住処から命がけで持ち帰った『特級魔石』なんだよ! 金貨三枚なら破格も破格、今買わなきゃ一生後悔するぜ!」

「う、うーん……でも、俺みたいな駆け出し冒険者には大金だし……本当に火竜の魔石なのか……?」


見れば、身なりの良い胡散臭い行商人風の男が、人の良さそうな若い冒険者に、真っ赤に輝く握り拳大の石を売りつけているところだった。


「当たり前だろ! 見ろよこの輝き! お前の剣に組み込めば、炎の斬撃が撃ち放題だぜ!」

「ほ、炎の斬撃……! ごくり……」

 若き冒険者が、夢とロマンに目を輝かせて財布の紐を緩めかけた、その時だった。


「ちょっと待ったぁーーっ!!」

 珠子がテーブルの間に割って入った。


「あんた、なんだいきなり!」

 行商人が目を剥く。珠子は真っ赤な石をビシッと指さした。


「その石、すっごく波動が低いよ! ネガティブなエネルギーで満ち溢れてる! そんなの剣に入れたら、運気が下がって魔物にも遭遇しやすくなっちゃうよ!」

「はぁ!? ネ、ネガティブ!? 何言ってやがる、これは特級の魔石だぞ!」

「いいや、私のスピリチュアルな直感が『偽物』だって告げてるね!」


珠子の断言に、食堂中がざわついた。

 壁際のアディは、眉をひそめてその石を凝視していた。

(……いや、珠子。アレは本物の魔石から放たれる微弱なマナの波長と同じものを発している。素人には見抜けない巧妙な偽装術式イリュージョンが何重にもかけられているぞ。魔導ギルドの専用鑑定機にかけない限り、あれが偽物だと証明するのは不可能だ)


アディが助け舟を出そうと一歩踏み出した、その時。


「じゃあ、お兄さんの『潜在意識』に聞いてみよう!」

 珠子は若い冒険者の手を取り、彼に指示を出し始めた。


「いい? 空いてる方の手で、親指と人差し指をくっつけて『輪っか』を作って。そうそう、オッケーのポーズね! 思いっきり指先に力を入れててよ」

「は、はい……こうですか?」

 冒険者は言われるがままに指で輪っかを作った。


「これね、『オーリングテスト』っていうの! 人間の身体ってすごくて、自分にとって良いもの、本物のエネルギーに触れている時は力が湧いてくるんだけど、嘘のものや悪いエネルギーに触れると、筋肉の力が抜けちゃうんだよ!」

「き、筋肉の力が……?」


行商人が鼻で笑った。

「馬鹿馬鹿しい! そんな子供の遊びみたいなもんで、この魔石の価値が分かるかってんだ!」

「ふふん、じゃあいくよ! お兄さん、指に力入れててね!」


冒険者が何も持っていない状態で、珠子が彼の指の輪っかを両手で外側に引っ張る。

「うーん、開かない! バッチリ力が入ってるね。じゃあ次、この『火竜の魔石(仮)』を持って!」


冒険者が、行商人から真っ赤な石を受け取り、左手で握りしめた。

「いくよー、えいっ!」

 珠子が右手で作られた輪っかを軽く引っ張った。


パカッ。


「えっ!?」

 冒険者が素頓狂な声を上げた。

 さっきまであんなに力が入っていたのに、石を持った瞬間、指先からスッと力が抜け、いとも簡単に輪っかが開いてしまったのだ。


「な、なんだこれ!? 指に全然力が入らねえ!!」

「ほーらね! お兄さんの『ハイヤーセルフ(高次元の自分)』が、その石は偽物で身体に悪いって教えてくれてるんだよ!」


「なっ……デタラメだ! そんなインチキ、誰が信じるか!」

 行商人が青ざめて吠えるが、珠子は得意げに胸を張った。


「インチキじゃないもん! 宇宙の真理だもん! アディちゃん、あの石、どう思う!?」

 話を振られたアディは、驚愕に目を見開いたまま固まっていた。


(……信じられない。何重にも偽装された術式を外側から解読するのではなく、対象者の無意識下にある魔力波長とリンクさせ、脳内の『真偽判定回路』を強制的にハッキングして筋肉の弛緩という物理現象として出力させただと……!?)


アディの論理的解釈によれば、珠子がやったことはこうだ。

『偽装を見抜けないなら、人間の潜在意識下にある魂の奥底から真実を無理やり引きずり出せばいい』という、国家の最高尋問官ですら恐れをなすレベルの『対象の脳内ハッキング(絶対看破魔術)』である。


「アディちゃん?」

「……ああ。珠子の言う通りだ。その石にかけられているのは、発火能力ではなく『光の屈折を利用した幻影術式』だ。ただの赤い石っころを、火竜の魔石に見せかけているだけの粗悪な偽物だよ」


元帝国最高位の魔導騎士であるアディが、魔力の流れを完全に読み切って断言した。


「ヒッ……!!」

「てめえ! よくも俺を騙そうとしやがったな!」

「待てっ、誤解だ! 俺も騙されて掴まされただけで――ぎゃああああっ!」


食堂中の冒険者たちが立ち上がり、詐欺師の行商人はボコボコにされ、泣きながら宿から叩き出された。


「ふぅ、危ないところだったね! やっぱり、ネガティブなものは身体が一番よく知ってるんだよ!」

 珠子はポンポンと手を払い、満面の笑みを浮かべた。


助けられた若い冒険者は、感動で打ち震えていた。

「す、すげえ……! 指で輪っかを作るだけで、あんな高度な魔法の偽装を見抜くなんて……! あんた、とんでもない鑑定眼を持った聖女様なんだな!!」

「だから聖女じゃないってば! スピリチュアル女子の珠子だよ!」


「珠子様!! 俺の肩の『はどう』も整えてください!!」

「俺も! 最近商売が上手くいかなくて、金運のオーラを見てほしくてよ!!」

「私も、旦那の浮気を『オーリング』で看破してちょうだい!!」


この一件を境に、食堂の客たちが我先にと珠子の『出張サロン』の前に長蛇の列を作り始めた。

「わーい! 大繁盛! 一人銅貨一枚ねー! 順番にチャクラ開いていくよー!」


楽しそうに「オーリングテスト」を連発し、街の人々の小さな悩みや嘘を片っ端から暴いていく珠子を見ながら、アディは壁際で一人、頭を抱え込んでいた。


(恐ろしい……。あんな国家機密レベルの読心・鑑定魔術を、銅貨一枚で大衆に乱発するとは……。この女、やはり私が監視していなければ、数日でこの国の経済と治安を崩壊させるぞ……!)


アディの胃痛と使命感は、日を追うごとに強くなっていく。

 辺境都市リーゼンにおける『奇跡の大聖女(仮)』の噂は、こうして爆発的なスピードで街中に広まっていくのだった。

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