第31話 地球の波動、爆上がりしちゃいました~世界平和(アセンション)のデトックス!~
神聖エリュシオン王国の首都、その上空。
世界を滅ぼすはずだった『絶望の魔神』の額には、珠子がサラサラと書き殴った『宇宙銀行の小切手(宛先:魔神くん・愛と光のエネルギー無制限)』がペタリと貼り付けられていた。
『ア……アアアアアアアッ!!!!』
魔神の巨体から、凄まじい閃光が放たれる。
それは破壊の光ではない。
数万年もの間、魔神の魂にこびりついていた怨念、憎悪、孤独、そして世界の滅亡を望むあらゆる「ネガティブなカルマ」が、高濃度の宇宙エネルギー(マイナスイオン)によって一気に洗浄され、黄金の光の粒子となって空へと昇華されていく現象であった。
「ああっ……! 魔神の体が、まるで光に溶けるように……!」
王都の広場でそれを見上げていた王女ルミナが、感嘆の声を漏らす。
アディは、もはやツッコミを入れることすら放棄し、遠い目をして呟いた。
(……宇宙銀行の小切手一枚で、次元外の魔神が持つ数万年分の怨念を強制デトックスした。もはやこの世界に、この女を止める論理など存在しない。……世界は平和になる、これでいいのだ……)
数分後。
眩い光がスーッと収まり、王都の上空に静寂が戻った。
そこに浮かんでいたのは、もはや牙も翼も持たない――ただの、すっきりと晴れやかな顔をした、ちょっと顔立ちの良い銀髪の青年であった。
『……私的には、すべては一つ(ワンネス)だったのだな……』
元・魔神の青年は、自分の両手を見つめ、どこか清々しい顔で深い溜息を吐いた。
数万年ぶりに呪縛から解放された彼のオーラは、新緑の森のように美しく澄み切っている。
「やったー! 大成功! ツインレイの統合完了だよ!」
珠子はシリウスの背中からヒョイっと青年の肩に飛び乗り、その頭をヨシヨシと撫で回した。
『あ、ありがとうございます……大聖女様……。なんだか、胸のつかえが取れて、今なら世界中の美味しいハーブティーが飲めそうな気がします……』
「うんうん、いい子いい子! これからは地球の仲間として、一緒にサロンを手伝ってね!」
こうして、世界の終焉をもたらすはずだった魔神は、見事に「ちょっと天然なイケメンのアルバイト青年」へとジョブチェンジを果たしたのだった。
* * *
だが、事態はこれで終わらなかった。
魔神の体内で浄化された「数万年分の膨大なネガティブ・エネルギー」が、宇宙銀行のシステムを介して、文字通り地球全体のレイライン(気の流れ)へと一気に放出されたのだ。
――ズシーンッ!! と、世界が大きく揺れた。
「きゃっ!? また地震……!?」
「まて、見てくれ! 大地が……!」
王都の市民たちが指さした先。
これまで魔王の呪いや戦争によって荒れ果て、一木一草も育たなかった隣の『静寂の森』、そして大陸全土の荒野や不毛の地から、一斉に新緑の芽が吹き出し始めた。
枯れ果てた川には清らかな水が満ち、病に倒れて寝たきりだった人々は、まるでエプソムソルト風呂に入ったかのように一斉に起き上がり、身体の軽さに驚きの声を上げている。
さらに、帝国と聖王国の国境付近で睨み合っていた両国の軍隊は、風に乗ってきた爽やかなラベンダーの香りと圧倒的な愛の波動を浴びた瞬間、全員が武器を投げ捨てて抱き合い始めた。
「「「すべては愛……! ワンネス……!!」」」
戦争も、呪いも、病気も、地球全体の波動が爆上がりしたことにより、地球規模で一網打尽にデトックスされてしまったのである。
世界は、意図せずして完全なる『平和』を達成してしまった。
「うわぁ、すごいすごい! 地球全体の気が一気にクリアになって、すっごく空気が美味しいね!」
王都の本店の屋上から、世界が緑に染まっていく様子を眺めながら、珠子は両手を広げて満面の笑みを浮かべた。
アディは受付カウンターの椅子に深く腰掛け、マグカップのハーブティーを静かにすすった。
(……世界が救われた。魔神も、帝国も、教会も、すべてがこの女の『スピリチュアル(勝手な思い込み)』によってハッピーに上書きされた。……もう、私の胃薬は必要ないのかもしれないな)
窓の外では、元・魔神のイケメン青年のアルバイトが、看板猫のシリウスと一緒に楽しそうに店の看板を磨いている。
かくして、辺境の小さなサロンから始まったトンデモ・スピリチュアルの嵐は、星全体を巻き込み、最高にハッピーな結末へとたどり着いたのだった。




