第27話 極大レーザーと桜吹雪~無敵の言霊(アファメーション)で事象書き換え!~
王都の上空に浮かぶ、神聖帝国の最新鋭『空中魔導要塞』。
そのメインブリッジでは、かつてないパニックが巻き起こっていた。
「警告! 警告! 王都地表より放たれた未知のエネルギー波により、絶対魔力遮断結界が完全に崩壊! 魔力炉心の出力が三十パーセントまで低下しています!」
「馬鹿な……あり得ん! 計器の故障だ、再起動しろ!」
帝国の最高頭脳であるゼノス所長は、血走った目でコンソールを叩き割らんばかりに怒鳴り散らしていた。
彼の構築した、理論上絶対に破られないはずの『魔法殺しの結界』が、下界から放たれた謎の黄金の光(※珠子のアーシングによる地球のエネルギー)によって、たったの一撃で粉砕されたのだ。
「ええい、あの出来損ないだ……! あのアディという出来損ないめ、辺境の地でいったいどのような禁忌のアーティファクトを手に入れたというのだ!」
ゼノスはギリッと歯を噛み鳴らした。
彼にとって、自らの完璧な科学的魔導理論が、あのような落ちこぼれの騎士に破られることなど、プライドが絶対に許さなかった。
「こうなれば手段は選ばん。要塞の全エネルギーを主砲に回せ! 『極大消滅レーザー』で、あの女のいる区画ごと、王都を更地にしてやる!!」
「し、しかし所長! 王都全体を消し飛ばせば、周辺諸国との全面戦争に……」
「構わん、撃てぇぇぇっ!!」
ゼノスの狂気じみた命令により、巨大な空中要塞の底部がガシャン、ガシャンと重々しい音を立てて開き、禍々しい赤黒い光を放つ巨大な砲塔が姿を現した。
* * *
「なっ……! 主砲の砲門が開いたぞ!?」
地上の中庭で空を見上げていたアディは、上空で収束していく絶望的な熱量を感じ取り、顔面を蒼白にさせた。
「珠子、逃げるぞ! あれは帝国の対都市殲滅兵器『極大消滅レーザー』だ! 発射されれば、この王都の半分が一瞬で消し炭になる!」
アディは珠子を庇うように前に立ち、結界が解けて戻ってきた自らの全魔力を防御に回そうと印を結ぶ。
しかし、いかにかつて帝国最強と呼ばれたアディの盾であっても、要塞の主砲を完全に防ぎ切ることなど不可能だ。死を覚悟した彼女の額から、冷や汗が滝のように流れ落ちる。
「うわぁ~、空が真っ赤! すっごいトゲトゲしたオーラ(殺意)がこっちに向いてるね。あのままだと、王都の風水が最悪になっちゃうよ!」
当の珠子は、裸足のままのんきに空を指さしていた。
「風水どころの騒ぎではない! 街が物理的に消滅するのだぞ!」
「大丈夫大丈夫! こういう、強すぎるネガティブな念が飛んできた時はね、『言霊』のパワーで弾き返すのが一番なんだよ!」
珠子はアディの前にヒョイッと出ると、大きく深呼吸をして、両手を天に向かって大きく広げた。
「言霊……だと……?」
「言葉にはね、現実を作るものすごい力があるの! 『どうせダメだ』って思えばダメな現実が引き寄せられるし、『私は最高だ』って声に出せば、最高の現実が作られるんだよ。これをスピリチュアルでは『アファメーション(肯定的な自己宣言)』って言うの!」
珠子がそんな現世の自己啓発セミナーのような解説をしている間にも、上空の要塞の主砲は臨界点に達していた。
『消え去れ、出来損ない共ォォォッ!!』
ゼノスの狂気の叫びと共に。
太陽すらも焼き尽くすほどの、直径数十メートルに及ぶ赤黒い破壊の奔流(極大消滅レーザー)が、珠子たち目掛けて轟音と共に放たれた。
「ああっ……!!」
アディが絶望に目を瞑った、その瞬間。
珠子は目を閉じ、満面の笑みを浮かべ、腹の底から、この世界で最もポジティブで強力な『言霊』を叫んだ。
「私は宇宙の意志に愛され、常に守られています!! すべての出来事は、私の最高の幸せのために起きています!!」
――カッ!!!!
珠子の口から放たれたその言葉は、物理的な光の波紋となって上空へとドーム状に広がっていった。
そして、王都を灰にするはずだった極大消滅レーザーが、その光の波紋に激突した、次の瞬間である。
ぽすんっ。
という、あまりにも気の抜けた音が空に響いた。
「……え?」
アディが恐る恐る目を開けると、そこには信じられない光景が広がっていた。
数千度の熱線を誇るはずの消滅レーザーは、珠子の放った言葉の結界に触れた瞬間、その「破壊」という事象そのものを強制的に書き換えられてしまったのだ。
赤黒いレーザー光線は、空中で『無数のピンク色の桜の花びら』と、『現世の百円ショップで売っているような、可愛いお花のチャーム(プラスチック製)』へと完全に物理変換され、ヒラヒラ、キラキラと、王都の街中へと美しく降り注いでいった。
「わぁー、きれーい! やっぱりポジティブな言葉は、ネガティブなものを愛と喜びに変えてくれるんだね!」
珠子は降ってくるお花のチャームを手のひらで受け止め、キャッキャと喜んでいる。
「……事象の、完全書き換え(パラダイム・シフト)……!?」
アディは、頭の上に桜の花びらを乗せながら、魂が抜けたような声を出した。
(あり得ない……。自らの存在を「絶対に守られている」と肯定する言葉(言霊)によって、世界の因果律そのものを上書きしただと……!? 自身に向けられたすべての『悪意や破壊』のベクトルを、強制的に『祝福(花吹雪)』へと変換する、神の領域すら超越した絶対的因果拒絶……!!)
アディの高度な魔導解釈が、珠子の「ただのポジティブな思い込み」を、世界を崩壊させかねない超絶魔術として完全に翻訳していた。
* * *
「な、何が起きた……!? 主砲のレーザーが……花びらになっただと!?」
上空の要塞では、ゼノスがモニターに映る信じられない光景を前に、膝から崩れ落ちていた。
「所長! 主砲を撃った反動で、残存エネルギーが完全に底を突きました! これ以上の攻撃は不可能です!」
「ば、馬鹿な……私の科学が……帝国の最高技術が、あの小娘の訳の分からない呪文一つで、オモチャにされたというのか……!!」
ゼノスは自分の頭を抱え、ギリギリと髪を掻き毟った。
今まで彼が積み上げてきた「魔力は科学で制御できる」という絶対の理論が、珠子の「宇宙に愛されてるから大丈夫!」という、あまりにもふざけた、しかし絶対的な現象の前に、音を立てて崩壊していく。
「あ、アディちゃん! あの上のおじさん、すっごく落ち込んでる波動が出てるよ。なんだか可哀想になってきたね」
珠子は上空の要塞を見上げながら、リュックの中からゴソゴソと何かを取り出した。
「おい、珠子。まさか……」
「うん! あんなにネガティブになっちゃってる人には、運気が劇的に上がる『アレ』を教えてあげなきゃ!」
珠子の手には、王都の現世風雑貨屋(百均レベル)で買ってきた、謎のツボが握られていた。
最強の帝国の要塞を無力化したスピ子は、いよいよ狂気の天才科学者に対し、悪徳霊感商法……もとい、究極の開運グッズによる「心のケア」を開始する!




