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現世で搾取され続けたスピ子さん、異世界では大聖女様になるようです~「ありがとう」と1000回唱えた水が、神代のエリクサーとして認定されました~  作者: ぽてと
【第二章】 聖王国の権威と王都進出編

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18/26

第18話 教会の猟犬、スピ子の番犬となる~大聖女認定と空間浄化アロマスプレー~

『異世界スピリチュアル・サロン:コスミック・ワン』の正式オープンから数日が過ぎた朝。


洋館の前庭では、信じられない光景が繰り広げられていた。

漆黒の法衣に身を包んだ、聖教会が誇る冷酷無比な異端審問局筆頭・クラウスが。

満面の、それこそ春の陽だまりのような穏やかな笑みを浮かべながら、竹箒でシャッ、シャッと落ち葉を掃いていたのである。


「おはようございます、アディ殿。今日も素晴らしい朝ですね。小鳥のさえずりが、私の浄化されたインナーチャイルドに心地よく響きます」

「……お前、本当に誰だ」


出勤(?)してきたアディは、フリフリのエプロン姿のまま、心底気味が悪そうにクラウスを睨みつけた。

昨日、珠子の『前世療法(退行催眠)』によって過去のトラウマをほじくり返され、チョコチップクッキーを泣きながら食べたこの男は、一晩にして完全に「別人」へとリビルドされていた。

かつて彼から立ち上っていた、血と硝煙の混じったような恐ろしい殺気は微塵もない。今の彼から発せられているのは、新緑の森のようなマイナスイオン(スピリチュアル的ハッピーオーラ)だけである。


「誰とはご挨拶ですね。私は大聖女・珠子様の忠実なる下僕であり、この素晴らしい愛と光のサロンを守護する番犬、クラウスです。……ああ、この落ち葉の一枚一枚にも、宇宙の愛が宿っているのですねぇ」


「……完全に手遅れだな。教皇がこの姿を見たら、泡を吹いて卒倒するぞ」

アディが深々とため息をついた時、「おっはよー!」と能天気な声を上げて珠子がサロンから出てきた。


「あ、クラウスさん! 朝からお掃除ありがとう! 玄関が綺麗だと、風水的に良い気がどんどん入ってくるんだよ!」

「もったいないお言葉です、珠子様! 私の魂の汚れを落としていただいた恩に比べれば、落ち葉掃きなど造作もありません!」

クラウスは竹箒を置き、珠子に向かって深々と、それこそ神に祈りを捧げるように平伏した。


「あ、そうだクラウスさん。今日、王都の教会に帰るんでしょ? これ、お土産!」

珠子はリュックの中から、透明なプラスチック製のスプレーボトルを取り出してクラウスに手渡した。中には、無色透明の液体が入っている。


「これは……? おおっ、手に持っただけで、微かな香りと共に凄まじい神聖マナを感じます!」

「それはね、『空間浄化アロマスプレー(ラベンダー&セージの香り)』だよ! 百円均……じゃなくて、特別なお店で買ったアロマオイルを、私の『ありがとう水』で割って作った特製スプレー!」

珠子はシュッ、シュッと空中にスプレーを吹きかけた。

フワリと、心を落ち着かせる良い香りが広がる。


「職場って、どうしてもネガティブな気が溜まりやすいでしょ? イライラしてる人がいたり、空気が重いなぁって思ったら、このスプレーをシュッとひと吹きするの。そうすれば、アロマの香りと水の波動で、空間が一瞬でクリアに浄化されるからね!」

「空気が重い時に、ひと吹き……」


クラウスは震える両手でスプレーボトルを受け取り、その場に崩れ落ちた。

「おおおおお……!! なんという奇跡の魔導具……!!」


彼にとって、異端審問局という職場は「ネガティブな気」どころの騒ぎではない。血なまぐさい尋問、権力闘争の陰謀、神官たちのドロドロの欲望が渦巻く、この世の地獄のような場所だ。

それを「ひと吹きでクリアに浄化する」というのだ。


(対象空間の魔力波動を強制的に光属性へと書き換える、『携帯型・神聖結界発生器』……! しかも、中に入っているのはあの『神代のエリクサー』の希釈液……。これを審問局で使えば、どんなに狂暴な異端者や悪徳神官も、香りを嗅いだ瞬間に涙を流して懺悔し始めるだろう……!!)

クラウスの魔導解釈が、アロマスプレーを「対神聖結界用の最終兵器」へと昇華させていた。


「珠子様……! この御恩は、生涯忘れません! 本部への報告書は、すでに完璧に仕上げております!」

クラウスは懐から、分厚い羊皮紙の束を取り出した。


「『辺境都市リーゼンに降臨せし大聖女は、間違いなく神の化身である。その行いはすべて奇跡であり、彼女のサロンは教会の総本山と同等、いやそれ以上の絶対不可侵領域サンクチュアリとして認定すべきである。もし彼女に危害を加えようとする愚か者がいれば、この異端審問局筆頭クラウスが、教皇であろうとも全力で排除する』……と!」


「ええっ!? なんか重い! ていうか教皇様を排除しちゃダメだよ!」

「フフフ、ご安心を。教会の面倒事はすべて私が揉み消し、珠子様には毛玉ほどの火の粉も降りかからぬよう、全力で『番犬』の務めを果たさせていただきます!」


クラウスは清々しい笑顔でそう言い残すと、アロマスプレーを胸に大事に抱きしめ、颯爽と王都への帰路についた。


それを見送ったアディは、遠い目をしていた。

(……終わったな。我々を異端として焼き殺すはずだった教会のトップエリートが、逆に『教会から我々を隠蔽し、守るための狂犬』へと寝返ってしまった。あのスプレーの力で、王都の異端審問局そのものが、数日後には『スピリチュアル愛好会』へと変貌していることだろう……)


アディの予想通り、のちに王都の暗部では「ラベンダーの香りと共に悪人が改心して自首してくる」という謎の現象が多発することになるのだが、それはまた別の話である。


「よしっ! これでお客さんとして来てくれたクラウスさんの気も整ったし、今日も元気にサロンを開店しよー!」

珠子はのんきに伸びをし、看板猫のシリウスをモフり始めた。


聖教会の脅威は、珠子の前世療法とアロマスプレーによって、完全に無力化(ハッピー化)された。

これでしばらくは、この辺境の街で平穏なサロン経営ができる。

……アディがそう安堵の息を吐きかけた、その日の午後のことだった。


――ヒュウゥゥゥゥ……。


「……ん?」

サロンの窓を開けて換気をしていた珠子が、ふと顔を上げた。

「アディちゃん、なんだか外、急に暗くなってない? それに、空気がすっごく……どんよりしてる」


アディが慌てて窓に駆け寄ると、彼女の鋭い魔力感知眼が、信じられない光景を捉えた。

街の隣に広がる広大な『静寂の森』。その奥深くから、空を覆い隠すほどの赤黒い霧――高濃度の『瘴気』が、風に乗ってリーゼンの街へと津波のように押し寄せてきていたのだ。


「馬鹿な……! 魔物の大量発生スタンピードの予兆……いや、違う。この瘴気の質は、自然発生したものではない。まるで巨大な呪いの塊が、意図的に街へ向けられているような……!」


アディが息を呑んだその時。

サロンの扉が、バンッ!と勢いよく開き、一人の少女が転がり込んできた。


「はぁっ、はぁっ……! だ、誰か……」

見慣れない旅のローブを羽織ったその少女は、青白い顔で苦しげに胸を押さえ、そのまま床にバタリと倒れ伏した。


「きゃあ! お客さん、大丈夫!?」

珠子が慌てて駆け寄る。

倒れた少女の衣服からは、森から流れ込んできているのと同じ、あの赤黒い瘴気が微かに立ち上っていた。


教会の脅威が去った直後、新たな問題がサロンに転がり込んできた。

この謎の少女『ルミナ』の登場が、珠子たちを聖王国のさらなる核心へと巻き込んでいくこととなる。

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